分かっちゃいたけど
『記者は見たっ! これが王子の寝室だっ!
足首まで埋まりそうな、ふかふかの絨毯。
その心地好い感触。
金糸銀糸で、王族の紋章が織り込まれたタペストリーと、見事な調度品の数々。
思わず、ため息が零れる美しさだ。
この部屋にお気に入りの女性を呼ぶ事も? との質問に、王子は意味深な笑みを浮かべ……』
全体的に質はべらぼうに良かったが、実用品ばっかりで実際はもっと地味だったな、うん。
出来上がった記事を読み返しながら、ウィプはルデュロスの部屋を思い起こす。
もちろん読み手も、新聞記者ごときが王子の部屋に入れるなど、本気で思ってはいないだろう。
不敬罪を問われたら、逃げるのみ。
捕まるようなへまをやる連中は、今のところこの新聞屋にはいない。
と、思うんだが……。
先程からウィプは何やら、嫌な予感がしていた。
本日のウィプは王城で面白いネタが転がっていないか、探しに来ている。
記者は標的を追う事はあっても、追われる事はない……はず。
しかし、嫌な予感は気配となって、どんどんウィプに迫りつつあった。
逃げようと思えば、逃げられた。
しかし王城に来るたびにこれでは、のんびりネタ探しも出来ない。
いくら暇潰しとはいえ、それをせかせかしながらするつもりは起きないウィプだ。
仕方がないと人の輪から外れていき、勝手知ったる王城の人気のない場所に向かう。
迎え撃つ気満々で、ウィプは嫌な気配が自分に追い付いて来るのを待った。
果たして、その正体はっ!?
や、分かってたけどね、分かってはいたけどねっ。
「あ~?」
ガシッと両手を握り締められているのは、なぜっ?
しかも見下ろして来る目が非常に嬉しそうなんですけど、この王子様っ。
ウィプは完全に、ルデュロスをボコるタイミングを逸した。
新聞屋なので、殺しはしないが。
どこをどの程度やれば、どれくらいのダメージが与えられるか、もしくはHP0にまで出来るかも、ウィプは熟知している。
ようは加減次第だ。
……で? 何かな~?
「やはり居たな、見つけた」
「もしもし、王子様。ここはもちろん、さっきいた場所も、ふつ~王族は立ち入る様な所じゃないんだけど」
しかもルデュロスは、普通の王族ならぞろぞろ連れているはずの、金魚の糞すら1人も後ろに連れていない。
さっさと自分のいるべき場所に戻れよと、ウィプは言外に匂わすがルデュロスには通じなかった。
「こちらの方に、君がいると思ったから来た」
「何ですか? 王子様の勘ですか? 何にしろ迷惑」
これでどうだ、とウィプがずばっと言うと、さすがにルデュロスの表情が翳った。
しかし、両手は握られたままだ。
その上に、だ。
「私の事はロス、と。君の名を教えてくれないか?」
来たヨ、来ましたヨ。
「オレ記者なわけ、分かる? 名前くらい教えてもいいけど、その場合、第2王子の男色家疑惑の記事を書かせてもらうぞ」
王都は女子の識字率もそれなりにある。
読者の中には当然、腐女子が存在するのだ。
もちろん逆に、GLな記事も需要がある。
「男色家、か。そう広めるのも良い手かも知れない」
嫌がるでもなく、喜ぶ事もなく、やけに真面目顔で反芻するルデュロス。
そしてルデュロスはウィプが聞いてもいないのに、家庭の事情を語り出した。




