軽く不法侵入罪
「ども~、王都新聞です。突撃お部屋拝見~、の取材に来ました」
口を塞ぎ、馬乗り状態で、自分の真下にいるルデュロス第2王子にウィプは言った。
真下にいるルデュロス第2王子は、本気になれば、ウィプなど簡単に押し退けられそうな体格をしているのに、全く抵抗する気配がない。
ただほんの少し、言葉の内容はともかく、耳元に囁いたのがくすぐったかったのか、身じろいだだけだ。
「殺る気はないわけ。分っかるかな~、王子様?」
すると即返で、頷き。
目と目を合わせて、一応確認。
ふむ、やっぱり頭は良さそうだとウィプは思う。
お部屋拝見を、王族の誰にしようかな~と、的をしぼっている時に、抱いた感想は正しかったらしい。
これから手を外しても、圧し掛かるのを止めても、ルデュロスは騒がないだろう。
ウィプは自分の直感に満足した。
「んじゃ、ちょ~っと、部屋見学させて下さい」
ウィプは着心地がとっても良さそうな、ルデュロスの夜着から離れた。
布団はウィプが普段使っているものの、倍は膨らんでいる。
寝台のスプリングも効いていた。
さぁ、物色物色っ。
「……ここ数日、見ていたのは君か」
「あ~、やっぱ気づいてた?」
気配は消していたつもりだったし、距離ばかりではなく、人や物が2人の間を隔てていたはず。
それなのにウィプは、ルデュロスと目が合ったような気がしていた。
部屋の物色だけなら、留守の時にすればいいのだが、そうせずに本人と直に会いたくなったのはそういう理由だ。
たぶんウィプの影の一族としての、腕が落ちているのだろう。
ちらちらと元・同業者っぽいのがいて、それらはなんなく通過出来たし、骨の髄まで染み込んだ技だと少し自信を持っていたのだが、案外そうではなかったらしい。
ともかくネタ探しで、こんな風に忍び込むのは、今回で最後にしようとウィプは決めた。
「取材協力、ありがとうございました。失礼しま~す」
自分の視線に気付いたくらいのルデュロスだから、元・同業者っぽい者の事は教えなくてもいいはず。
もし気が付いていなくても、見張られ・狙われている事を教える義理はオレにはない、とウィプは口先だけの礼を述べる。
「待ってくれ」
「ん?」
すると、呼び止められた。
一応、去る前だったので、ウィプは止まってみる。
しかししばらく待っても、ルデュロスからは何も続かない。
「良い夢を、王子様」
安眠妨害したのは自分なのだが、まぁそう言っておこう。
今度こそ、ウィプは王子の部屋から姿を消した。




