表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫時々彼  作者: mia
本編
49/58

甘くないキミ


 カーテンの隙間から朝の陽光が差し込む。覚醒し始める意識の中、祥子はごろんと寝返りを打った。


 …何か、寒い


 体を縮こまらせたのに気づいたのか、剥きだしの肩に毛布が掛けられた。その親切な手は肩から鎖骨をなぞり、首筋をそっと撫で上げていく。

 「ん…」

 掠れた声を漏らした祥子に反応した手は動きを止めた。心地良い暖かさに包まれ、再び意識を手放しかけたのだが――


 「祥子可愛すぎ」


 耳元で囁きかけられた後、ふわふわの繊維のような塊が首筋をくすぐる。猫じゃらしで遊ばれている感じがして怪訝に思ったのも束の間、鎖骨のくぼみを熱く湿った何かが這い出して思わず飛び起きた。

 「うっ…」

 身体が鉛のように重い。あちこちで筋肉痛と同じ痛みに襲われて顔をしかめる。

 「大丈夫、じゃなさそうだね」

 横に顔を向けると小憎らしいほど爽やかな笑顔の彼がいた。寝そべったまま頬杖をついてこちらを見ている。祥子は素早く毛布を引き上げて素肌を覆い隠す。その顔は羞恥に染まっていた。

 「誰の所為だと思って…!」

 「うん。ごめんね」

 だらしなく緩みきった顔に怒りが削がれてしまう。ベッドの上に脱ぎ散らかされた服を収集しながら鼻歌を歌っている彼は周りに花が咲いているという表現が似合うほど機嫌が良さそうだ。

 なし崩しにされた気分の祥子は取りあえずサイドデスクの時計を見て、まだ6時前であることに安堵した。


 シャワーを浴びる時間はあるわね。遅刻しないで済みそうだわ


 下敷きになっているバスタオルを引っ張り出して体に巻きつけ、乱れた寝台から降りようとした祥子をシャツを羽織っていた彼が腕を掴んで引き止める。

 「そういえばまだ言ってなかったよね。おはよう、祥子」

 頬に軽くキスされたかと思えば口の端に移動し、あっという間に彼のペースに巻き込まれてしまう。

 「や、め、な、さいっ!」

 精悍な体格の彼に押し倒されかけ、祥子は必死で抵抗する。

 「馬鹿なことしてないで。早く準備しないといけない、の!」

 言い切ると同時に彼の胸を力任せに押し戻した。だが彼も負けてはいない。祥子の両肩をがっちりとホールドして食い下がる。

 「今日はずっと家にいようよ。俺まだ祥子が足りないんだ、ね?」

 人畜無害そうな顔をしているが行動と全く一致していない。祥子は気だるい体を叩き起こして姿勢を保つ。

 「ふざけないで。あれだけしておいて、よくそんなぬけぬけと言えるわね…ってどこ触ってるのよ!」

 彼の細くて大きな手がバスタオル越しに不審な動きをしだして声を荒げた。彼は悪戯がばれた子供みたいに舌を出し、肩を竦める。

 「きっとこれあれだよ。祥子欠乏症だって。2週間以上も触れなかったから溜まってるんだよ。だから今日は仕事休もう?」

 どこから出てきたのか分からない色気を醸しださせて彼は誘惑する。彼の指が再び動き始め、今度はバスタオルを剥ぎ取りにかかった。


 「―――言いたいことはそれだけ?」


 低く冷たい声に彼は手を止める。ゆっくりと視線を上げた彼の顔が一気に青ざめた。

 「何を言われようと何をされようと私は仕事に行くの。教師という職業を軽く見るようなら、2週間私に触れるのを一切禁止するわ。どっちがいい?」

 凍てついた笑みと脅迫まがいともなり得る言葉に彼は涙目になる。

 「ごめんなさい……」

 こうして二人の変わったようで変わらない一日が始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ