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猫時々彼  作者: mia
本編
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8.紫陽花のキミ(3)

 流れ星って、あっという間に消えますよね。

 そんな意味も込められた彼ら。ごめんよ。


 「ねえ、何してんの」


 再び聞こえた声に顔を上げると肩に乗っていた流れ星Bの手が何かに払われて消えた。

 さらに流れ星Bは突き放されてよろめく。

 「うわわっ!?」

 「いてぇっ!何だよお前!」

 苦悶の声を上げたのは、祥子の背後から現れた手に手首を握り潰された流れ星Aだ。顔を歪めて祥子の腕を離した。

 自由になった祥子が後ろに一歩下がる。その瞬間、肩に手を回されて引き寄せられた。

 「きゃっ…!」

 バランスを崩した祥子は無我夢中で支えになるものにしがみつく。結果、顔を何かに押し付けるような格好になった。


 ……白のシャツ?

 これって、もしかして…まさか…


 自分を包み込む腕の持ち主を明かそうと顔を上げる。半ば予想をつけて。

 やはり当たってしまった。彼は腕の中の祥子を優しい眼差しで見ていたのだ。

 「間に合ってよかった。待たせてごめんね、祥子」

 宥めるように頭を撫でられて、どこかほっとしている自分にびっくりする。


 助けてくれた

 ちゃんと、助けに来てくれた


 何も言えないでいるのをまだ怖がっているからだと思ったのだろうか。

 祥子だけに見せる甘い表情とは打って変わって彼は冷たい目で流れ星2人組を見据えた。

 親密な恋人同士のように祥子の髪を梳いて、完璧に作った笑みを浮かべる。


 「俺のに何か用?」


 静かな口調で紡がれた言葉だが、向けられた瞳には立ち向かうのを躊躇わせる迫力があった。

 鋭さを帯びた彼の目は、狙った獲物を逃さない肉食獣のそれに似ている。

 流れ星2人組は草食動物よろしく固まった。そして本能が危機を告げたのか、あっという間に逃げて行った。

 一方、祥子も別の意味で固まっていた。

 

 …今何て言った?

 聞き間違いでなければ、彼は“俺の”と言わなかったか


 「祥子、もう大丈夫だよ。あいつらいなくなったから」

 髪を撫で続ける手に気を緩めかけるどころか、張り詰めざるを得なくなった。

 周囲の人々の好奇心に満ちた視線に気づいたからだ。

 心臓が凍りつく。一瞬後に今度は煮え返る。

 祥子は無言で彼の胸を両手で押して距離を取った。

 彼の驚いた顔を直視することさえできない。

 「……馬鹿!!」

 「えっ。ちょ、祥子…!?」

 自分を呼ぶ声を背に受け、祥子は駆け出した。



 どれくらい走ったのだろうか。

 まだ神社の敷地内のはずだが、周囲には屋台がひとつも無く、明かりも無い。

 そして当然人もいない。

 どうやら祭りの本拠地とは外れた所に辿り着いてしまったようだ。

 「ここ、どこ…?」

 息を切らして辺りを見回す。目印となるようなものは見つからず、あるのは木と古びた狛犬の像だけ。


 奥まで来てしまったみたい


 来た道を戻ろうと踵を返すが

 「どこから来たのよ、私…」

 四方八方同じ風景が広がっており、方向感覚を失う。


 そうだ。最初に狛犬を見たときは正面だったから、顔が向いている方を行けば帰れる


 希望を胸に狛犬を見る。

 ところがただの置き物なのに違和感を覚え、さっきと向きが違うのではないかと疑い始めてしまったのでどうしようもない。


 本当に正面を向いていたかしら…


 まさに疑心暗鬼状態となった祥子は狛犬と向かい合って焦る。

 その時、自分以外に砂利を踏む音がした。

 「……!」

 息を潜めた祥子。その音はゆっくりと、だが確実に近づいてきている。

 お化けなんて非現実的なものは信じていない。

 そう強気に出てみても暗闇という要素が相まってか、先ほどの恐怖をまだ引きずっているのか、足が竦んでしまった。

 すぐ後ろに気配を感じ、砂利の音も聞こえなくなる。

 自分の心臓の鳴る音しか耳に入らず、全身に力を込めていた祥子は肩に手を置かれてビクッと飛び上がる。

 喉の奥が引きつって悲鳴を上げることもできない。


 もうダメ…!


 「祥子」


 少し怒ったような、でもほっとしたような口調で自分の名前を呼ばれた。


 そっと振り返るとそこにいたのは彼で、怯えている様子の祥子に顔色を変える。

 「どうしたの?また誰かに何かされた?」

 「何も、されてないわ。ただ、びっくりしただけよ」

 「なんだ…」

 彼は安堵の息をつく。そして明るい茶色の髪を無造作に掻きながら笑った。

 「びっくりしたのはこっちだよ。祥子を見失って俺、どんだけ焦ったと思う?」

 「だってあなたが変なこと言うから…!」


 しまった。口が滑った


 「変なことって?俺何か言ったっけ?」

 首を傾げている彼はふと、祥子の後ろにある狛犬に目を遣った。

 狛犬を見て頭の中で記憶が繋がったのか、

 「あ」

 思い出したように声を上げた。祥子はぎくりと動揺する。

 「もしかして“俺の”って言ったこと?」


 もう開き直るしかない


 「…そうよ!私がいつ、あなたのものになったって言うのよ!ありもしないことを言わないで!」

 顔を真っ赤にして噛み付く祥子を、彼は可笑しそうに見ていた。


 何なのこの男、ふざけてるの!?


 きっと睨みつけると彼は気にする風でもなく肩を竦める。

 「そんなに怒らないでってば。あの時はああ言うしか無かったんだよ。あと祥子誤解してる」

 「誤解?私が何を誤解してるのよ」

 祥子は問いかけた。すると彼はにっこりと微笑んで――


 「あれね、“俺の〈飼い主〉”っていう意味だったんだけど」


 …は?飼い主?


 唖然とする祥子を、どこか嬉しそうに見つめる彼。


 「勘違いしちゃったんだ?可愛いなあ、祥子は」


 二の句が告げないでいた祥子はやがて全てを理解した。途端、頭からつま先までの血液が逆流するという錯覚に陥る。


 「……紛らわしいのよっ馬鹿!!」


 そうとしか言えないほど、恥ずかしくて死にそうな祥子だった。



 お祭りどころじゃないぞ、この2人(時々一匹)

 と思うmiaでした。

 狛犬の件は幼い頃の実体験。疑心暗鬼のプロです。

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