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猫時々彼  作者: mia
本編
12/58

8.紫陽花のキミ(1)

 どうも、miaです。

 パッと思いついてバッと書き始めました。


 ある土曜日の夕方。祥子は英を連れて近所を散歩していた途中で小学校の前を通った時、緑のフェンスに貼ってある張り紙を見かけた。

 「そういえば、もうこんな季節だったわね…」

 「にゃあ?」

 立ち止まった祥子を英が不思議そうに見上げた。

 灰色の瞳が張り紙に向けられる。

 それには〈紫陽花祭〉と目立つように大きな字で書かれていた。

 「毎年、この時期になると開かれるお祭りよ」

 日にちは来週の日曜日。

 祥子が華里に来てから2年経つが、まだ一度も紫陽花祭に参加したことは無い。


 きっと今年もたくさんの人がいるのよね


 小学校の花壇に植えられている紫陽花をフェンス越しに眺めながら、祥子はアパートに足を進める。

 「英?帰るわよ」

 先に歩き始めていた祥子が振り返って呼んだが、英はそこに留まったままだ。

 張り紙を食い入るように見つめている英に、通りすがりのおばさんが「あらネコちゃん、祭りに行きたいのかい?美味しいものがいっぱい出るよ」と冗談交じりで笑って言った。

 おばさんの言葉を聞いて英の耳がぴくりと動く。


 何を話しているのかしら?


 少し離れた場所にいる祥子はどんな会話が為されたのかを知らない。

 ただ、やっとこちらに駆け寄ってきた英の目がやけに輝いているのを見て、


 ……なぜか分からないけど、何か良くないことが起こりそうな気がする


 と、言いようのない不安に襲われる祥子であった。



 祥子の予感は的中した。

 次の週の日曜日、彼は居間のソファで本を読んでいた祥子の隣に腰掛けて


 「祥子、今から紫陽花祭に行こうよ」


 さらりと言った。爽やかな風がすっと吹いたみたいに。

 本から顔を上げた祥子は気が進まないといった表情で彼を見る。

 「私、人が大勢集まっている所は苦手なのよ」

 「祥子の職場もいっぱい人がいるけど…」

 「それとこれとは話が違うわ。祭りは人口密度が高すぎるの」

 ぴしゃりとはねつけて再び活字に意識を戻した祥子だが、視界の隅で彼が「…そっか」としょんぼりしているのに気を取られる。


 …そんなに行きたいのかしら


 いじけたようにテレビのリモコンを弄び始めた彼を横目で見ていた祥子は短く息をつく。


 全く、世話が焼けるペットだ

 私まで行かなくても、彼だけ行かせればそれで済む

 アパートの住民には見つからないように出てくれれば問題ないだろう


 「分かった。あなたには色々と助けられてるし、行ってもいいわよ」

 「本当?いいの?」

 いつもの明るい表情に戻った彼に、祥子は苦笑いしつつ頷く。

 「ええ。思う存分楽しんできなさい。帰りは道に迷わないようにね」


 お小遣いをあげないと


 壁に取り付けられた木製のフックに掛かっている鞄を取ってこようと、祥子は閉じた本をローテーブルに置いて立ち上がる。

 立ち上がるはずだったのだが、

 「…何?」

 祥子は横にいる彼に尋ねた。

 部屋着の上から羽織っていたパーカーの袖を、彼が掴んで放さないのだ。

 これでは財布を取りに行くどころかどこにも行けない。

 俯いてしまった彼の顔を覗き込もうとすると、彼がぱっと顔を上げた。


 近い!


 後ずさって距離を取ろうとした祥子だが、彼はまだ袖を掴んだままで動けない。

 「ちょっと。離れ…」

 「もしかして、俺ひとりで行かせる気なの?」


 え?


 彼は不満げに唇を尖らせる。

 「祥子と一緒じゃなきゃイヤだ。祥子が行かないんなら俺も行かない」

 持っていたリモコンを元の場所に戻した彼は、そのまま祥子の隣に座って腕を組む。むすっとしたままで。


 まるで子供だ


 俯きがちの端整な横顔を呆れながら見ているうちに時計の針は規則的に進んでいく。

 もう祭りは始まっているようで、外が騒がしくなってきた。子供たちのはしゃいだ声に彼がそわそわしだす。


 …まるで、じゃなくて子供ね


 祥子は立ち上がってクローゼットに向かった。

 扉を開けると、居間にいる彼からは祥子の顔が見えなくなる。

 「さっさと行ってさっさと帰るわよ」

 「えっ?」

 「着替えるからあっちに行ってなさい」

 照れくさいのを隠そうと、クローゼットの中の服を取る振りをしながら言った。

 途端静かになった空間に祥子は彼がキッチンかトイレに行ったのだと思っていた。

 選んだ外出用の服を手に、クローゼットの扉を閉めて振り返ると

 「な、何でいるの!?」

 すぐ後ろに立っていた彼に驚いてクローゼットに背中をぶつけてしまった。

 「あっち行ってなさいって言ったでしょ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶ祥子を、彼は穴が開くほど見つめていた。

 そして眩しいくらいの笑顔で――


 「祥子、ありがとう!大好きだよ!」


 祥子は洋服を抱えたまま彼に力強く肩を引き寄せられ、ぎゅっと抱き締められた。

 彼の体温を体全体で受け止めることになった祥子。


 は……!?


 頬に触れている彼の髪を確認した瞬間、頭の中が見事に真っ白になった。



 私も祥子と同じで、祭りとか人が多い所は敬遠しがちです。

 まあ、英に誘われたら心がぐらつく自信はかなりありますが。

 紫陽花が咲いているうちに祭りの話を書いてしまわなければ。

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