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洗濯女子が悪役令嬢に転生した  作者: 南蛇井


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第22話 王の天秤

王宮の軍議室は、窓が少ない。


外の光を遮るように設計されたその部屋で、将軍が淡々と告げた。


「真空位相乾燥の限定運用を提案します」


机上に広げられた資料。


波形図。

効果予測。

被害想定。


「戦場において敵軍の感情波形を停止」


「恐怖も、怒りも、闘志も凍結」


「戦意喪失は即時」


別の将校が続ける。


「暴動発生地域に局所照射すれば、鎮圧は数分以内」


「流血は最小限」


短期安定は、確実。


数値は理性的で、冷たい。


「百年前の失敗は、全域適用が原因です」


「限定的なら問題はありません」


王子は沈黙したまま資料を見る。


灰色のグラフ。


揺らぎゼロ。


安定曲線。


「国家を守るためです」


その言葉が重く落ちる。


夜。


王宮の塔の上。


風が強い。


王子は一人、夜景を見下ろす。


遠くに王都の灯り。


さらに北へ、見えない灰色。


「争いを減らせるなら……」


口に出してみる。


兄王の記憶がよみがえる。


戦場から戻った日の、沈黙。


報告書の血の数字。


王族として生まれた責任。


守るとは、犠牲を減らすこと。


ならば。


感情を止めれば、戦争は減る。


怒りを消せば、反乱は消える。


王としての合理。


だが。


百年前の都市。


静かに崩壊した記録。


あれもまた、合理だった。


王子は拳を握る。


「私は……何を守る」


静寂か。


未来か。


北部。


水路沿いの風が冷たい。


王子は公式視察の名目で到着する。


人目を避け、修道院裏手でフィオレと向き合う。


久しぶりの距離。


だが、以前の生乾きとは違う。


現実を見た者同士の沈黙。


王子が先に口を開く。


「軍部は、限定利用を求めている」


フィオレは目を閉じる。


「そうですか」


「短期安定は確実だ」


「流血も減る」


風が水面を揺らす。


王子は問う。


「不完全を選ぶことは、弱さか?」


その問いには、王の重さがあった。


フィオレはまっすぐに答える。


「いいえ」


迷いなく。


「揺らぎを抱えることは、強さです」


王子の視線が揺れる。


「揺らぎは、制御できません」


「怒りも、不満も、消せません」


「でも」


彼女は水を指差す。


「流していれば、腐らない」


「止めた瞬間、壊れます」


王子は水面を見る。


完全に澄んではいない。


だが、動いている。


「完全な白は、美しい」


フィオレは続ける。


「でも、生きていません」


沈黙。


遠くで、子どもの声が聞こえる。


笑い声。


小さく、不完全な振動。


王子はゆっくり息を吐く。


天秤は、まだ傾かない。


軍の合理と、未来の可能性。


彼の中で揺れている。


王の選択は、まだ下されない。


だが初めて。


天秤の両皿が、同じ重さで震えていた。

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