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メーレスブルクの秘録  作者: ヒロセカズヒ
隠された罪
27/28

第六話「隠された罪」4 小さな勇気

 翌日。


 私は、札を持って廊下を歩いていた。

 『私が奥方様のカップを壊しました』

 大きな字で書かれた札。

 それを、胸に抱えている。

 手が、震えた。

 心臓が、激しく打っている。

 (恥ずかしい...)

 でも、やらなければならない。

 厨房の扉の前で、私は深呼吸した。

 そして、扉を開けた。


---


 厨房では、料理人たちが忙しく働いていた。

 私が入ると、皆が作業の手を止めた。

「アンナ?どうした?」

 料理長が、不思議そうに聞いた。


 私は、札を掲げた。

「私が、奥方様のカップを壊しました」

 厨房が、静まり返った。


 皆が、私を見ている。


 私は、深々と頭を下げた。

「皆様に迷惑をかけました。本当に、申し訳ございません」

 しばらく、沈黙が続いた。

 私は、頭を下げたまま待った。


 そして、料理長の声が聞こえた。

「...顔を上げなさい」


 恐る恐る、顔を上げた。

 料理長は、優しく笑っていた。

「正直に言えて、偉いぞ」


 他の料理人たちも、頷いた。

「そうだ、そうだ」


 皿洗いの少年が、言った。

「僕も前に、皿を割って怒られたことがある」

「でも、すぐに言ったから、許してもらえた」


 料理人たちが、温かく笑った。

「次から、気をつければいい」


「誰だって、失敗はするさ」


 私は、涙が溢れた。

 でも、今度は嬉しい涙だった。

「ありがとうございます」

 私は、何度も頭を下げた。


---


 厨房を出て、廊下を歩いた。

 (恥ずかしかった)

 でも...

 (言えて、良かった)

 胸の重荷が、ずっと軽くなった気がする。

 隠していたことを、全部話せた。

 そして、許してもらえた。

 私は、奥方様のお部屋に向かった。


---


「ただいま戻りました、奥方様」


「お疲れ様」

 奥方様は、優しく微笑んだ。

「どうでしたか?」


「...恥ずかしかったです」

 私は、正直に答えた。

「でも、皆さん優しくしてくださいました」


「そう。良かったわね」


 私は、深く頭を下げた。

「ありがとうございました、奥方様」


「これからは、何かあったらすぐに言いなさい」

 奥方様は、窓の外を見た。

「隠さないこと」


「はい」

 私は、強く頷いた。


---


 数日後、新しいカップが届いた。

 料理長が、それを持ってきた。

「奥方様、新しいカップでございます」


 奥方様は、カップを手に取った。

「ありがとう。素敵ですわね」

 でも、少し寂しそうだった。


「前のカップには及びませんが...」

 料理長が言うと、奥方様は微笑んだ。


「いいえ、気に入りました」

「このカップも、きっと手になじむようになるでしょう」


 私は、その様子を見ていた。

 (いつか、そのカップが本当に奥方様のお気に入りになりますように)

 そう、心の中で願った。


---


 春の午後。

 私は、中庭でカイザーと遊んでいた。

 白い猫が、私の膝の上でごろごろと喉を鳴らしている。

 温かい日差しが、降り注いでいる。

 コンラートは、王都に送られた。

 そこで、裁かれるだろう。

 彼の罪は重い。

 でも、最初は事故だった。

 隠したことで、もっと大きな罪になった。

 私も、同じ道を歩くところだった。

 でも、奥方様が教えてくれた。

 隠すことの恐ろしさを。

 告白する勇気の大切さを。

 カイザーが、私の手を前足で触った。

 遊んでほしいらしい。

 私は、微笑んで、カイザーと遊んだ。

 メーレスブルクに、穏やかな日々が続いている。

 そして、私は学んだ。

 小さな勇気が、大きな救いになることを。


メーレスブルグの秘録は、ここで終了とさせていただきます。

次回作は、同じ世界でメーレスブルグを含むアルタ世界の戦争と陰謀の物語です。ご期待ください。


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