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性癖全開!キャンティマロン~◎セイシをかけて、勝手に戦え!◎~  作者: 石鬼 輪たつ
第2章 VS.マ・ラ 双成町・バキバキ通り編
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第46話  いびつな町と乳

「なんかちち()()()()()()()?」



 にわとりマスクを吹き飛ばされ、肉の顔があらわになったトリニティがたずねる。



「……はい」



 気まずい表情をしてそれを肯定こうていしたのは、双成そうせい町内の高校制服をかたに着た、派手はでかみ色のツインテールをした羊備洲ようびす くくる。


 「肩に」というと、制服前面は――ビリビリに引きかれ、中から彼女の身長の半分ほどもある巨大な乳房ちぶさがあふれ出しているためだ。


 一連のやりとりを、17時の日没にちぼつ景は残りわずかな夕焼ゆうやけ色に照らしていたが、やがて非現実感を没収するようにオレンジは衰退すいたいしていった。


 現場となった清栗きよくり駅近くのファミリーレストランでは、ただトリニティとくくるの2人、肌色のシルエットが克明こくめいに浮かび上がっている。



「このむね……いや、それ以外もですが、『人生じんせい逆転ぎゃくてん整形せいけい』で()()()()()。あれは去年の10月のこと……」


ちちまる出しのままいくの!? まあいいか! だまって見とこ!)



 2人の間に起きている事態の詳細しょうさいなどつゆほども知らないレストランの客たちは、世間体せけんていを気にして困惑するそぶりを見せていた。


 しかし、くくるのあまりに美しすぎる成果物せいかぶつながめることで、静かなる傍観ぼうかん者にてっすることを決意させた。



清栗きよくり駅に()()()()()()()があらわれたとき。トリニティさんは誰よりも前に立って、みんなを助けようとしているのを見て……ぼくちからになりたい、そばにいたいって思って」


「それと整形に何の関係があっ……待てよ。あんた、『ショーをしてほしい』って言ってくれた人だよな? いや、まあ可愛かわいい顔ではあったがどう見ても男……」


「はい。()()()……。その、トリニティさんのことを知ろうと、町の人に色々(いろいろ)教えてもらってるうちに、ぼ、僕のこと好きになってほしいなって考えちゃって……」



 くくるの思いがけない告白。


 トリニティは頭の中が、飛んでいったにわとりマスクの塗装とそうのように、しろになる。



「トリニティさんの中学時代のお友だちとか、商店街の人とか、どんな女性がタイプなんですかーとか聞いちゃったり……そ、それで、トリニティさんが『むねはやっぱりW(ワールド)カップがいい!』と言っていたと聞いて」


「そんなクソみてえな冗談じょうだんに受けんな! ガキの(頃の自身の)たわごとだろ……」



 ふざけた問答もんどうだ。


 しかし、くくるはを投げだすほどの本気で、トリニティの理想像を体現しようとしていた。


 その証拠に――くくるは顔を、これまで見せたことのない、イチゴ色にまった「乙女おとめそう」へと変貌へんぼうさせる。


 また()がしっとり汗をにじませると、女性特有の体臭(ラクトン)めく甘い芳香ほうこうが一面に広がった。



「ほ、本当はずっとわかってたんです。自分のやってることストーカーみたいだし、男だし、うそがバレたら僕なんて……何もない、つまらない人間だって。キモいことして、ホントにすみませんでした!」



 くくるは思いきり頭を下げようとする。


 超乳ちょうにゅうあごの先が埋まる――その前に、トリニティが声で制止せいしした。



「待てよ。俺は別に、キモいなんて思ってねえ。まあ、なんて言うかな……普通にうれしいよ」


「えっ……?」



 身構みがまえるくくるに、トリニティは声質にふさわしくないおだやかな言葉をかけたのだ。



「『好かれたいから』って自分のからだをいじるのはやり過ぎだが、俺だって同じようなもんだし、気持ちはわからなくもない。ずっと『トリニティ』として生きていくって決めた、誰にうしゆびを差されても虚幌須市このまちのみんなを守れるのならそれでいい、ってな」



 トリニティは一度立ち上がり、ゆかに転がった鶏マスクをかぶり直すとまた、くくると対面するせきについた。



「『人生逆転整形』のこと……俺にだまってたのは、後ろめたさもあるだろうが、()()()()()()()()()だ、知られたくなかったんだろ? だからさ、話してくれてありがとな」


「トリニティさん……ぇぐッ……」



 トリニティはくくるの想いを受け止め、まっすぐに感謝を述べた。


 変態へんたい2人による人情ドラマを目の当たりにした、レストランの人々はしめっぽい空気にまれていた。



 ◆



「さて、本題だ。どんな連中かも気になるが……まずは『人生逆転整形』とはどこで会った? そいつはどこにいる?」


「……1か月前、叔父おじさんにトリニティさんのことで相談していたら、人を紹介されて。その人から招待しょうたいされたのが『人生逆転整形』の()()()()()()()()でした」


焼鳥屋あそこ店主オッサンもグルだったのかよ……」


「あっ、で、でも僕も叔父さんも、その人たちの仲間じゃありません! 施術せじゅつのとき以外は会ってもいないです!」



 弁明をするくくる。

 おずおずと、()()()の片手を空けて、自身のスマホのチャットアプリ画面を見せてくれる。


 トリニティの目は画面よりも、あらわれたもも色の花芽はなめに飛びかかりそうになる。



(こいつはおとこだ! が、ああ!)



 葛藤かっとうするトリニティ、どうにか理性によってのぞきを抑止する。



グループチャット(ここ)施術せじゅつしたい日付と時間を入れて、『既読きどく』のマークがつくと、個人チャットから行先いきさきの情報が送られてきます」


「ほぼ毎週まいしゅう行ってたのか。っておい、()()()かよ……」


「すみません! 気合きあい入れたくってッ」


「まあいい。これで会うたんびにちちがデカくなってた理由わけがわかったわけだし」



 美容びよう整形せいけい手術には、骨の切削せっさくやシリコン注入、脂肪しぼう吸引きゅういんなど、被術者かんじゃの身体的負担が大きい施術がある。


 こうしたものは複数回に分けて行われることも少なくないのだ。



「それで、見させてもらう感じ、毎度行先(いきさき)が違うみたいだが……憶測おくそくでいいんだが、この連中はどうやってそんなこう頻度ひんど拠点きょてんを変えてると思う?」


「いえ、その……行けばわかることなんですが、()()()()()()()()()なんです。その人さえいれば運営がり立つので、場所をいくらでもうつせるんだと思います」


「よく知らない俺でも、そんなの絶対おかしいってわかるぞ……」


「施術自体も早くて。部屋に入ってお金を置いたら、()()目隠めかくしをされて横になるように言われます。だいたい5分もしないうちに終わって。術後じゅつごれが出たりすることも、ないんですよね」


「んな魔法まほうみてえなこと――って、ああ、あるな()()()()()()が」



 ここまで聞けば、いやでも察しがつく……。


 トリニティがじっとスマホの画面をながめる。


 その意図をんだくくる、ほそい指で、アプリのメッセージ入力(らん)に「明日の日付」をかり入力する。



「……いや、()()だ。このあと18(ろく)、無理なら19(しち)。これ以上コイツらに好き勝手はさせたくねえ」


「わかりました!」



 くくるはあらためてメッセージ入力欄に「本日の日付」「18時」と入力し、グループチャットに送る。


 メッセージへの既読はすぐについた。


 行先いきさき情報も間もなく、くくるの個人チャットに返される。



「……18(ろく)15分、()()()()()()か。なるほどな、あんたの言った通りみたいだ」



 施術せじゅつのたびに行先がことなる。

 施術者は1人だけ。

 短時間で終わる。

 そしてタダ同然という安価あんかさ。


 バキバキ通りのアングラ界隈かいわいで聞いたうわさと、くくるから聞き取りした情報とをかけ合わせ、インターネットカフェでの施術という事実を加える。


 すると、トリニティは真相しんそうめいた考えにたどり着いていた。



「その、トリニティさんはどうしたいんですか? 僕は警察にとどけ出たほうがいいかと……」


「ただの犯罪者ってならそれが正しい。けど安心してくれ。今回は()()()()()()だ」



 くくるの告白によって事態は急進し、このあとトリニティは清栗きよくり駅から徒歩約10分の場所にある某インターネットカフェへおもむくと決めた。



 ファミリーレストランでの会合を終えて、トリニティはくくるを一度清栗(きよくり)駅北口前の自宅まで連れ帰る。


 わいせつ目的ではなく、超乳ちょうにゅうインフレーションによってやぶれた衣服の代わりを着せるためだ。



「あの、ほ、本当にご迷惑めいわくをおかけしてしまって……」


「あのさ。あんたが()()()()()()()()()()理由のことだけど。もし、俺のタイプ? みたいになったからって、あんたのこときにはならねえよ」


「どうして、ですか……?」


「だって、俺はもう虚幌須市このまちのみんなが大好きだからな! あんたもふくめて。『家族』だと思ってる。俺にとって、ヒーローになるのは『()()()()()()』になること、それを守ることなんだ」



 トリニティは、かつて()()にも自宅ここで同じ話をしたことを思い出し、覆面ふくめんの下で嘆息たんそくする。



「これは思い上がりだが、もしあんたが、それでも俺のそばにいたいって思ってくれるなら……そんときは一緒に『商店戦士』になってくれ。『仲間』はいつでも募集ぼしゅうしてるからな」


「――はいッ!」



 くくるは満面の笑みを浮かべて、トリニティの言葉を受け取る。


 くくるのデカいむねの中で言葉がどのように解釈かいしゃくされ、彼自身を動かすのか。

 今はまだ未知数みちすうだ。

 しかし、きっとうまくいくはずだ。


 結局トリニティの所有物だけではくくるの超乳ちょうにゅうふうじ込めることはできず、くくるは下乳したちち露出ろしゅつさせながらもれやかなようすで帰り道をたどっていった。



 ――すっかり日が落ちた。


 煌々(こうこう)ひかりだした外灯の中、くくるの背を見送り、トリニティはアルウゥスに電話をかける。


 仕事中なのか、帰りの電車の車中なのか、すぐに出ない。


 留守番電話に言伝ことづてき込んだ。



「アルウゥス、バイトが終わったら(メッセージで)送った住所に来てくれ。最悪さいあく戦闘せんとうになる。……じゃあな、頑張れよ」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ナゾの怪しい存在「人生じんせい逆転ぎゃくてん整形せいけい」が、マ・ラと何かしらつながりをもっていると推理したトリニティ。


 その疑惑ぎわくの人物に出会うため、約束の時刻10分前の18時5分に、目的地のインターネットカフェへと入店する。


 カウンターにある端末たんまつへ情報を入力。

 部屋への案内がポップアップする。


 それはこれから会うエセ整形外科医――医者ですらないので単なる詐欺師さぎし――が、あらかじめさえた部屋だろう。


 建物たてもの2階にある、天面が開放かいほうしたボックスルームに向かう。

 利用者の常識じょうしきだよりの設計を前に、ほとんどインターネットカフェを利用したことがないトリニティは無意識に興味をひかれる。



「234……ここか」



 神妙しんみょうにつぶやくトリニティだが、部屋は周囲のものと同じ作りだ。


 スライド式のとびらがゆるくまっている。

 大胆だいたんにも手をかけ、はなつが清潔せいけつなチェアとパソコンがあるのみだった。


 トリニティはチェアに腰を下ろす。

 チェアの緩衝材かんしょうざいからいっきに空気が押し出される。


 1月だがインターネットカフェの室温は快適だ。

 ペットショップにいる気分になる。

 そちらより静謐せいひつなのでさらによい。


 ……いやに足音が気になる。

 それは、トリニティに向かっているからだ。


 ガラッ! 


 容赦ようしゃない開扉かいひ

 もう足音は聞こえない。


 代わりにと小さな息遣いきづかいがする。



「――()()()()()()()。久しぶりだな」



 言葉が先行し、続いてトリニティはチェアとからだを半回転させる。


 正体に気づいていたが。


 たった今()にした赤褐あかちゃ色の肌をした子どもの驚愕きょうがくぶりは、トリニティの想像を超えていた。

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