第43話 フォーカス
辺園生川沿いでトリニティがデートをした日、夜のバキバキ通りではアルウゥスと二度目の聞き込み調査が行われた。
聞き込みは翌日も、そのまた翌日も行った。
気がつけばトリニティとアルウゥスが、後継生物ク・コロからマ・ラの居場所を聞き出した日から、1週間が経とうとしていた。
◆
虚幌須市は、からりと乾いた青空の厘月町。
第一みもみじ商店街からほど近いストリートに、元気いっぱいの声が聞こえている。
「いらっしゃいませぇ! 本日イタリアワインと燻製食品がセール中です、癒しのディナーにおひとついかがですかぁ?」
少女らしき華のある声。
まっすぐな明朗さが言葉の裏で弾けて、声は道を行き交う通行人たちの前で、カラフルなポップコーン屋台のようにいかにも楽しそうな雰囲気を演出する。
いつもの代わり映えのしないランチを終えた人々は、そうした新鮮な色にひかれて店の入口へと吸い寄せられていく。
エスニックな平屋建て、玄関まわりをハーブや多肉植物の鉢植えで飾ったその店は、輸入雑貨を取り扱っている。
「Focus!」という名前だ。
またその店は商品だけでなく、従業員も多様な国籍の者だった。
皆それぞれ異なる肌色をして。
異なるすてきなスマイルを浮かべる。
ある者は白みがかった黄色、またある者は青を差した深い黒色、またまたある者は危険信号めいた真っ赤な色。
……真っ赤? そんな人間はいない。
誰あろう、アルウゥスもこの店で働いていた。
なるほど、宇宙人なら納得だ。
店先に立って、無邪気な可愛らしさを振りまいて人々を誘惑していたのもアルウゥスだ。
緑とアッシュのエプロンを着て、ゆったりしたカーゴパンツを穿いていても、デカく育った尻の(オスの)色香は隠しきれない。
「タマちゃん! コーヒーの試飲するから、準備して?」
「はいっ!」
後方から、同じエプロンを身に着けた先輩店員の女性が呼びかける。
アルウゥスは姓として「珠辻」を名乗っていたから、きっと先のものはあだ名だろう。
呼び込みをしていたアルウゥスは尻を振り回して庶務場へと小走りし、慣れた仕草でコーヒーを淹れる。
湯気をケトルの中に閉じ込め、それと紙コップやら何やらをまとめて抱えるとまた店先に強歩で向かった。
「うしうし。んじゃ、一緒に声かけしよっ」
アルウゥスの勤勉さに、女性店員は上機嫌になる。
「マ・ラ後継生物」
「マジカルパウアー」
これらの要素を除いてしまえば、なんということもない。
アルウゥスはただ真っ赤な肌色のひとりとして、何不自由なく人間社会に溶け込んでいるように見える。
きっとトリニティに出会う以前も、地球にやって来る以前も、アルウゥスはうまく世渡りをしてきたに違いない。
「――お疲れさまあ。もう休憩入っちゃって?」
女性店員にうながされた後、アルウゥスはエプロンを脱いで店の外に出る。
その背に続いて、更衣室でおとなしくしていたマジモスも飛び出す。
1人と1匹は第一みもみじ商店街のほうに歩く。
今日は「バードナー」でフライドチキンを食べようと、朝いちばんに決めていた。
目的地の屋根付き商店街まではいくつかの広い交差点を通る。
その間にアルウゥスが意図して視線を送るのは、青々とした植栽や人の賑わいがある店というのが主だ。
わざわざ通行人の装いについてジロジロ見つめて珍しがったりはしない。
「あれ……確か、くくるって人だよね」
ところが今回は事情が違った。
ショッキングなグリーンという派手な髪色をした人物。
羊備洲 くくると出くわしたためだ。
くくるは大爆乳から膝上まで隠せる長さのロングコートを両手で押さえながら着て、挙動不審にあたりを見回す。
彼女のすぐ後ろには6階建てのビル。
レストランと買取専門店、複数フロアにまたがるインターネットカフェが入っている。
(お昼どきだし、ごはん食べに来てるのかな。ん? でもあの人って……)
考え込むアルウゥス。
目立ちすぎるくらいの見た目の彼に、どういうわけか気がつかないままのくくるは前屈みの姿勢をとり、商店街と反対方向へ歩いていってしまった。




