第32話★ 因縁をくすぐる
翌朝8時。
トリニティとアルウゥスは、ふたたび厘月町へ。
貝釣大学キャンパス内の附属図書館に立てこもる。
ク・コロの所在を「御露出コールドロン」の範囲に絞り、おまけに雨風がしのげる場所という条件をつけて調べれば、候補はすぐにも浮上してきた。
「横穴、陥没穴、侵食洞窟ねえ……ハハ、宝探しでもしてる気分だ。楽しくねえけど。この3か所でいいか、アルウゥス?」
トリニティが捜索場所を記したメモを読み上げる。
それぞれの場所には地理的特徴による名称が与えられているのみで、「御露出コールドロン」のような固有名詞はない。
つまり、疑惑の3地点は、いまだ観光地や開発地として使われていない場所ということだ。
「うん。っでも、これだけ目立ちそうな場所だと、(ク・コロが見つかる)望みはちょっと薄いかも……ううん、素人考えにしてはボクたちもけっこう頑張ったよね!」
「卑屈なこと言うな! すぐ行くぞッ!」
迷いを振り切り、トリニティはアルウゥスとマジモスを連れたって図書館を飛び出す。
朝霧がけむった町中を、トリニティの小型バイクが疾走する。
排気量125ccの車体が発する排気音でも、路肩に固く積もった積雪を介して力強く鳴りわたる。
トリニティは背中から、密着したアルウゥスの発する熱を覚える。
熱は緊張をはらんでいた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
道路交通法が許す限りの速度で急ぎ、寄り道もせず約20分。
御露出町の行政区画へ突入する。
景色は朝日が照らす、一面の深い森。
といっても、木々はもれなく葉を落とし軽雪に降られている。
森と呼称するには密集さも薄れて、もの寂しい。
「まずは1か所目、正田の横穴か。ク・コロが隕石を掘ってた牛巴から近いが……」
トリニティとアルウゥスは足で雪の大地の上に踏み入り、目的の横穴を探す。
地図も写真も頼りにする必要なく、横穴はわずか数分で見つかった。
成人が1人潜れる高さの横穴は雪の中に埋もれず、くぱっと口を開けていた。
アルウゥスが中をこっそりとのぞき見る。
「これ……貫通してない? 向こうが見えるよ。あと水溜まりもできて……住むのは難しそう」
「くそっ、勝手に貫通しやがって。ハズレだ! 次行くぞ!」
きびすを返した2人はふたたび小型バイクに乗り込む。
「そもそも、アルウゥスが(去年)8月にク・コロを見つけたときは、どういう感じだったんだよ?」
「えっと……本当にたまたまというかね、田んぼの横の道を散歩してたときに遭遇して。食べ物を探してたのかな」
「そんだけ簡単に見つかってくれれば、話は早いんだがなあ……」
「それで、残りは前立寺の陥没穴と、椎子袋の侵食洞窟……。先に、ここから近い前立寺を攻めよう!」
アルウゥスの導きで、トリニティは白んだ道にバイクを走らせる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
2か所目の御露出町前立寺に着くには、約10分を要した。
目的地は陥没穴という、自然的構造物。
2人が参照した資料によると、それは、表層の凝灰岩層が侵食されできたくぼみと、地下空洞とが統合した深さ20メートルもの巨大な穴であるという。
一方で、巨大な穴はいまだ観光地化されていない。
穴の開いている場所までのアクセスに問題があるか……もしくは、周辺に危険がある、ということなのだろう。
トリニティは来た道の脇に愛車を停めると、左にまた広がった雪の森へとおそるおそる爪先を向ける。
「もしク・コロが見つかったとして、一帯はあいつの支配圏のはずだ。おまけに探してた『触手の苗』も行方知れずの今……どこから攻撃されてもおかしくねえ。気合入れて行くぞ……」
言葉の通り、トリニティたちには自然の脅威ともうひとつ、超自然的な脅威が待ち構えているのだ。
自身とアルウゥスに言い聞かせるようにつぶやくと、トリニティは森の中に踏み入った。
いよいよ見慣れてきた、ハゲ頭の木々が雪に植わった景色。
一方で、トリニティはきな臭さを覚え、肩を強張らせた。
きな臭さとは実際に何か嗅覚にうったえてくるものではない。
しかし、今回のそれは人間が明らかに体感しうる、物質めいたムードだ。
「見てッ、園治! おっきな穴が開いてるよ!」
アルウゥスが示す先には、目的の陥没穴の入口……、
と、表現するにはあまりに巨大な穴がッ!
地面を覆った雪が、その場所だけぽっかり黒い○の形に抜けている。
まるで、座礁した石油タンカーが、エメラルドブルーの海上に漆黒をぶちまけるように、特異点的な黒がトリニティたちの視界をいっぱいにする。
2人は、霧がフタしたほの暗い穴の淵に立って、ぼうっと足元を見下ろした。
――下には、ハゲ木が無数に生えている。
それが巨大生物の歯であり、吾々はいままさに捕食される下等な存在だと、トリニティたちに錯覚させる。
「デカすぎるな、ホント。ハハ、底が見えてるとはいえ、足がすくむ……」
「これは……予想してたより大きいや。大きすぎるよ! ここもハズレだね、園治……」
「いや、待てよッ? 陥没穴ってやつがただの落とし穴なら、アルウゥスの言う通りだ。けど、この大きさ……行ってみる価値はあるんじゃねえか」
諦め半分のアルウゥスの隣で、トリニティがさらりと言った。
発言を、飲み込むまでにアルウゥスは寸刻を要した。
「行ってみる……ってこの下にッ? 無茶だよッ! いくらク・コロでもそこまでしないってば!」
「マジモス、頼んだ」
アルウゥスの叫びに耳栓をし、危険な思いつきのままにトリニティがそれらしく身構える。
後方に飛んでいたマジモスは彼の指示を受けると、小気味よい羽音を立て、すぐさま旋回し穴のほうへと向かう。
そして、すぐにマジカルパウアーによってムキムキの巨大バエとなり、2人を抱え上げた。
「やめてッマジモス! こんな高さ、降りたらのぼれないよ! いやあ行きたくないいぃッ!」
「ゴーマジモス、ゴー!」
トリニティの合図に、マジモスが威勢よく、穴の中に飛び降りるッ――!
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