第29話 場外戦 前
後継生物ク・コロのマジカルパウアーで出現した「触手」を倒したトリニティ。
ついでに発見してしまったゴミの不法投棄の現場も、証拠写真をとり通報した。
同日、現場となった御露出町士里七からぷるくら動物園へ、小型バイクで向かっていた。
当初、トリニティは男児から引き受けた「大きなヘビ」退治は完了したものの、彼にとってはより大きな問題を引っ張り出してしまった状態だ。
あの赤黒い色の「触手」がマジカルパウアーの産物に過ぎない場合、元凶のク・コロを制圧しなければ根本的解決にならない。
「……事情はわかったヨ。また厄介なものを掘り当てたネ」
トリニティたちは、来客数増加のピークを過ぎ、元のさびれた場所に落ち着いたぷるくら動物園へ到着。
管理棟へ直行し、ペルウィアに状況説明する。
すると予想通り、億劫な表情を返された。
「あの後、周りを探したがク・コロはいなかった。どうやってあの『触手』を操ってたんだ?」
「んー、人間、なぜク・コロが操ってると思うノ?」
「違うのか? 俺はやつが、縄張りを守ろうとして『触手』を武器代わりに置いてると思ったが」
「ふうん。らちが明かないネ。もういい、説明する」
白色の髪をかき、呆れた顔を浮かべるペルウィア。
管理棟で一番大きな、高級感あるロッキングチェアにどかっと座る。
「大前提として、マジカルパウアーは1後継生物に1つだけ。これはいいネ?」
「初耳なんだが……」
「何回も戦ってるならわかれヨ!」
トリニティに対し、やけに当たりが強いペルウィアの幼声が部屋にひびいた。
「コホン。マジカルパウアーの表現型は、主に2種類。『無から有』か『有から別の有』がある。仮にク・コロが『触手』を操る力をもっているとしたら、それは操ること――『有から別の有』が本質だから、先に『触手』ないしは『触手』に置換する物体が必要になるんだヨ」
ペルウィアはくどい論理的な言い回しをし、トリニティの考えを丁寧に粉砕する。
トリニティは釈然としない気持ちを押しころし、相槌を打って理解を示す。
「そりゃ、テラ・ケルの話と矛盾するな。『触手』を生み出す能力、って言ってたらしいし……」
「らしい? まあいいや。つまりク・コロのマジカルパウアーは、自律する『触手』を生み出す力ってことヨ。それは『触手の苗』という形であらわれる。ク・コロは『触手の苗』を植えつけることで、『触手』を孵化させるのヨ」
「『触手の苗』って……あの地面に埋まってたやつか」
トリニティは思い出す。
大小さまざまの「触手」が根本を同じくしていた、株のような組織。
現場に置いてきてしまったが、外見は憶えていた。
「ひとまず、敵のことは理解できたネ。で、肝心なク・コロの居場所はわからないと?」
「ああ。アルウゥスに聞いた、(今まで)後継生物を見つけてきたのはペルウィアだって。頼む、力を貸してくれ! 俺は、これ以上被害者を出したくない!」
「はいはい、クサいセリフは結構ヨ。……どうせ端っから調べるつもりだったし」
気の抜けた返事をして、ペルウィアが席を立つ。
別の部屋にトリニティたちを手招きする。
管理棟の警備室。
2台のモニターが設置され、ぷるくら動物園内の様子をカメラで監視している――はずもなく。
接続されているのはテレビレコーダーほどの大きさの、しかしトリニティが見たこともない機械だ。
モニターにも、園内映像ではなく座標図とナゾのアーカイブが映し出されている。
「人間、『HCC』って聞いたことあ……るわけないか。ヘレナ・ケリュス装置とも言うんだけど。ワタシたちの惑星で作られた、後継生物の位置情報を調べる機械みたいなものヨ」
「待てって! アルウゥス、こんな都合いいもんがあるのに、なんでさっき使わねえんだよ!」
「アルウゥスは機械オンチだからネぇ」
ペルウィアがたしなめるも、士里七での移動がムダ足だと知ったトリニティの怒りはなかなか収まらない。
しゅんと萎れたアルウゥスを強めに見つめると、もう怒鳴ることはしなかった。
「HCCでは、マジカルパウアーごとに使用された日時と座標を管理してる。この点を見て欲しいんだケド……さっき、2人が戦った『触手』ネ? 御露出町士里七、8月9日」
「4か月前!? そんなわけ……」
動揺するトリニティだが、うかつにも「大きなヘビ」退治を依頼してきた男児から、「触手」が子どもを襲った事件はいつのことかと聞きそびれていた。
以前、後継生物と戦っている姿を目撃した男児が、その後に起こった「触手」の事件について「トリニティなら解決できる」と考えたため、彼に依頼をしてきたと。
トリニティはそのように想定している。
こちらが真実とすれば、時系列があべこべになる。
なぜなら、トリニティの戦闘を、男児が見たのは10月なのだから。
「さっきも言ったように、ク・コロは『触手の苗』を植えつけて『触手』を孵化させる。その関係で、『触手』は生まれた場所から移動することができないワ。植えつけたのが森の深いところなら、最近まで人間の子どもが『触手』に遭遇しなかったとしても不思議じゃないネ」
「なるほどな、それなら納得がいく。でも、4か月前か……」
「フフッ……アルウゥス憶えてるかナ? これ、君が討ち漏らした『触手』だヨ」
ペルウィアはほくそ笑み、口を開けたアルウゥスに視線を遣る。
HCCのデータを確認する前から、ペルウィアは察していた。
一方、指摘されてもアルウゥスは理解するまでに時間を要した。
「えっと……討ち漏らしたって、前にク・コロと戦ったときに、ってこと? ……そうだ、うん、たしかに暑い日だった。思い出した。つまりボクは、あのときク・コロに逃げられただけじゃなくて、途中でまかれた『触手の苗』も処理しないまま4か月間放置してた、ってこと?」
「その通り! このお間抜けさんめ!」
賑やかに失敗を茶化されたアルウゥスは、言葉を失い、すっかり意気消沈してしまった。
ペルウィアは一度立ち上がって、てきとうな椅子を隣に移動させると、トリニティに向かってそこへ座るようハンドサインを送る。
トリニティはしぶしぶその椅子に腰かけた。
暗い部屋の中でも純な色の、白いセミロングヘアが接近する。
そこから爽やかな薬草のような香りが立つ。
「この装置は、マジカルパウアーの発生源を特定するもの。ク・コロの能力で言えば、『触手の苗』を生成した時点の、位置を特定するワ。つまり、今もそこにいるとは限らないノ」
「なんでそう融通が利かないんだよ! くそッ、結局ク・コロがどこにいるかは、わからないままか……」
後継生物を捕獲したいトリニティたちにとって、これ以上ない有用なツールであるHCC。
だが、それは誰かを監視者・司令塔として常に置くことを前提とした、即時性のないしろものだった。
明らかになったアルウゥスの失態も合わさり、トリニティの焦りは増す一方に思えた。
「……よし。ひとまず、今わかる範囲で『触手』が使われた場所を見せてくれ。もちろん地球の中でな?」
「何する気なノ?」
「本体がどこにいるかわからん状況で、できることっつったら野放しの『触手』を潰して回ることくらいだろ。脅威は、可能な限り減らしておきたい」
トリニティは自身の頭で考え、ペルウィアに合理的らしい説明をする。
もっとも彼の思惑は、まるで計画性のない「しらみ潰し」でしかなかった。
さすがにペルウィアもひとつ返事で納得するわけにはいかない。
「そんな原始的な方法って……たとえ話として、テラ・ケルみたいに生き物のからだに『触手の苗』が植えつけられた場合は、この座標から『触手』が移動している可能性がある。そうなったら最後、HCCでは『触手』を追跡できないワ。だから闇雲に探すよりも――」
「ああ、わかった。よろしく」
トリニティは平然と即答する。
ペルウィアは呆れてため息をつき……小さく笑った。
「人間、アルウゥスが好きそうな性格してるネ。色々考えてるようで、結局は無謀に突っ走る」
「褒めてないだろ、それ」
「まあネ。ほら、これを見て?」
トリニティの思いつきに乗っかってかどうか、浅黒い梅鼠色の肌を血色よくしたペルウィアがうながす。
画面に映し出されたものはアーカイブの表示欄。
欄上部に「ク・コロ」と名前の載った、要するにク・コロのマジカルパウアー行使履歴だ。
「『触手の苗』は、地球での使用回数が38回。うちアルウゥス相手は31回で、人間が倒したのはその残党5回分。残る7回は、全部虚幌須市内だネ」
「ざっくりしすぎだ、市内どころか双成町と御露出町だけだろ! なんでこんな集中して……」
「どこで力を使うかの理由なんて、わかんないヨ。使わない理由もわかんないケド」
「よし! アルウゥス、行くぞ! ペルウィアは何か動きがないか、HCCを見ててくれ!」
「……ホントに、ワタシの『穴』は使わないノ?」
席を立ち、これから出かけようとしたトリニティを、ペルウィアが引き留める。
トリニティの服の袖を引っ張る、ペルウィアの顔はいかなる感情より、興味本位といったものだ。
「ああ。お前のマジカルパウアーは強すぎる。だから信用できない……けど、それはお前の強さを、俺がまだ使いこなせないからだ。あのときは言い方が悪かった。今のが本心だ」
「あっそ。……じゃ、まあ、頑張ってネ」
ペルウィアは、掴んだトリニティの服の袖をはなす。
無謀なコンビと巨大バエ1匹を見送ると、すぐにもHCCと接続した液晶モニターへ向き直った。
「どうせ、ムダだと思うけどネ……」




