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性癖全開!キャンティマロン~◎セイシをかけて、勝手に戦え!◎~  作者: 石鬼 輪たつ
第1章 VS.アルウゥス 双成町・第二みもみじ商店街編
21/45

第20話  変身

 双成そうせい町の第二みもみじ商店街が火災にみまわれた、同日の夜。


 トリニティは厘月りんげつ町へ。

 ラーメン屋の店長まで、小型バイクを返却へんきゃくするためだ。


 バイクの後部座席には、戦闘による疲労と酸欠さんけつの影響でふらついたアルウゥスが乗る。

 マジモスがヘルメットになっていた。


 アルウゥスは10℃を切る寒さにブルブルしながら、ひっしでトリニティの背中にしがみつく。

 少しコアラのようだと、トリニティは考える。


 第一みもみじ商店街のラーメン屋に到着した際は、店員から2人乗りの相手について質問()めにあった。

 バイクを貸した先で少女(少女ではない)も連れて帰ってきたとあれば、不思議がられるに決まっている。


 語ることもないと、トリニティは店員へ邪険じゃけんに接する。


 しかし、気のく店員から、徒歩すぐのファストフード店で使えるクーポンけんを渡されてしまった。



ハラ減ってきたし、せっかくだから使うか」



 トリニティはよろよろ歩くアルウゥスを先導せんどうし、商店街の中にある当該店舗へ歩いた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 にわとりをかたどる木目もくめ調の看板。


 不釣ふつり合いなゴシック体のカタカナで「バードナー」と書かれている。

 とり料理専門のファストフード店、バードナーだ。



「――らっしゃっせー」



 入店するとまず、いかなる新人でも発声困難な、ベテランのやる気のないあいさつが出迎でむかえてくれる。


 トリニティたちは店の最奥さいおうにあたる四人がけのテーブル席につく。


 タッチパネルによる注文を免罪めんざいにして店員たちは全員厨房(ちゅうぼう)の中に身をひそめている。



「アルウゥス、前と同じバラエティパックでいいよな?」



 すばやく注文用機器を操作するトリニティ。

 問いかけに、アルウゥスはだまって首をたてに振る。



「おい、大丈夫か? どっかケガさせたか?」


「違うよ。心配かけてごめん。……商店街、ホ・テルのせいで燃えちゃって」


「ああ。そうだな。それで?」


「代わりに、あやまりたくて。本当にごめんなさい!」



 アルウゥスは声をしぼり出して、深々(ふかぶか)こうべれる。

 トリニティはなおも機器の操作を続ける。



「なあアルウゥス。そりゃ、何に謝ってるつもりなんだ。お前の監督かんとく責任か、それとも何となく?」


「それは……」


「俺が(現場に)着いたときはもう燃えてたし、お前が来たのもホ・テル(あいつ)あばれ回った後だ。俺たちは自分のできることをした。だから、たとえ代わりでも、お前には頭を下げてほしくない」


「ご、ごめんね、トリニティ」


「ほら、もう注文したぞ。食いたいもんあったら自分で頼めよ?」



 トリニティはほがらかに語りかける。


 ちぢこまっていたアルウゥスも、彼に感化されじょじょに自然体を取り戻す。


 しばらくして注文の品が運ばれてくる。

 フライドチキンの各種()め合わせ。

 つまりバラエティパックとセットドリンク、さらにバードナーのかくれた名品フライド鶏足レッグまでついている。


 なお、クーポン券の対象は、地に足のついてなさそうな名前の商品のみだった。



「……トリニティ、この()()()みたいなのはどうやって食べるの?」



 怪訝けげんな顔のアルウゥスがおそるおそる、フライド鶏足レッグを持ち上げる。

 細い四本の指と足首は、黄金こがね色をしたうすころもいている。


 トリニティを見ると、にわとりマスクの()()()()()()、すでに人間の口は木の枝みたいな揚げ物をくわえている。


 四本指を根元から頬張ほおばり、プリプリ言わせ、しゃぶった。



「ひゃぶれ」



 光景を前に、目を真ん丸にしてアルウゥスは固まる。



「しゃぶれ。俺みたいにな」



 先駆せんく者の威圧いあつ感に負けて、アルウゥスは真っ赤な肌にしゅしつつフライド鶏足レッグくわえる。


 横目にトリニティやつうぶった店内客を見るが、やはり真顔まがおでしゃぶっている。


 席から席へ距離があっても、ねちっこい咀嚼そしゃく音が聞こえてくるのではと思うしゃぶりっぷりだ。



「ほれ、マジモスもたんとえッ!」



 トリニティはしゃぶる手の一方を空け、テーブルはしで静かにしていたマジモスへフライドチキンを渡す。

 バラエティパックの残りすべてを容器ごと、複眼ふくがんの前へ差し出した。


 マジモスはすぐに食らいつくッ! 

 一度ドロドロにされた体も、マジカルパウアーにより生成せいせいした細胞をり直して、何事もなかったような無傷むきずさをしていた。



「ま、マジモスがしゃぶるなら……」



 マジモスはハエらしからぬ大口を開きフライド鶏足レッグをしゃぶる。

 その姿をみて、あきらめがついたアルウゥスもしゃぶってみる。


 結局、げた衣のこうばしさ、鶏足もみじのコラーゲンによるぷるぷる食感に舌鼓したつづみを打った。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「――トリニティ、ねえ寒いよぉ」


「悪い。ちょっとだけ付き合ってくれ」



 バードナーでの食事を楽しんだ2人は、飲み残したドリンクを手に夜の公園を訪れた。


 2人が一度(たもと)かった、厘月りんげついんせき公園。


 中央に設置されたジャガイモ的隕石(いんせき)のオブジェが名称の由来だ。

 その他にもいくつか、かたちの悪い巨大なジャガイモも転がっている。


 2人は暗い寒空さむぞらの下、すべてのジャガイモが見えるベンチへ並んでこしかける。



「俺はセーメンティスを裏切っちまった。家族になるって言って、実際はあいつの力しか見てなかった。いや……それすら見てない。俺は力をどう振り回せるかしか、頭になかった」



 トリニティが告白する。

 罪悪ざいあく感が声という現象に変形し、あらわれている。



「あいつ、今どうしてんだろ。ばんメシもう食ったかな。ってか宿やどあんのかな……?」


「トリニティ、ボクが思ってたよりセーメンティスと仲良くしてくれたんだ。よかった」



 2人はかたを寄せ合い、根拠ない心配ごとを虚空こくうに打ち上げる。


 すると、ゆきになり落ちてくる。

 アルウゥスの真っ赤なかみに、服にふれ、小粒の雪は瞬間水のシミへと変わった。



「俺はあいつに、後継生物を全部どうにかしたら()()()()()、って約束したんだ。そしたらあいつは後継生物じゃなくなる、本当の家族になるって思ったからさ……」


「えっと、その、それって()()()()()()が卵巣優位になるってこと……あ、ううん。トリニティ、ボクたちが性転換する(オスからメスになる)こと、聞いたんだね」



 トリニティのあいかわらず唐突な言いぐさにも、アルウゥスは短い時間で理解して素直すなお態度たいどを示した。


 ただわずかに、しかし看過かんかできない違和感が心にはこびりついていた。

「後継生物を全部どうにかしたら」

「後継生物じゃなくなる」

 まるで、自身が後継生物であることを()()()()()()()ような言葉。


 顔に少しのかげを落とすアルウゥス。



「何にせよあいつとは、どっかで必ずはなしをつける。トーゼン、どっちも納得なっとくできる形でな」



 続くトリニティの言葉に、アルウゥスは思い出した。

 まだ、この話は途中にある。結論は出ていない。



(だったら、これから! これからトリニティの中に、「後継生物を守る価値」を作ることだってできるんだ!)


「……それに関してな、前々(まえまえ)から思ってたことがある」


「なに?」



 しずみかけた心を鼓舞こぶしてアルウゥスは、ぱっと明るい顔をトリニティに向ける。



「俺には力が足りない。『トリニティ』が俺自身だから、()()()()()ヒーローだからだ」



 耳をかたむけるアルウゥス。


 だが、トリニティの発言の意味は理解できても、発言の意図はあまり理解ができず哲学てつがく的推理へと飛躍ひやくしそうになった。



「ヒーローには()()っていう力がある。変身ってのは、自分のうつわを何十倍にもデカくできる。普通ならあふれてしまうものも、救えなかったはずのものも、ぜんぶ背負いきれるように……。トリニティには変身それがなかった……アルウゥス、お前に会うまではな」



 トリニティは持論じろんを述べる。

 ただそれが、アルウゥスの同意につながるかはどうでもよかった。


 このような話題を切り出した理由こそ、彼にとって重要なものだからだ。



「今がちょうど、潮時しおどきなんだ。今の俺から、もっとデカいものを守れるヒーローになる――それこそ、()()とか、さ」


「ッ!」



 トリニティが照れくさそうに言う。


 アルウゥスは、以前彼に対して自身が「トリニティは絶対、地球を守るヒーローになれる」と豪語ごうごした記憶を思い起こす。



 ――突然、トリニティはにわとりマスクに手をかけるなり、アルウゥスの目の前でった! 



「何してるのトリニティッ!」



 アルウゥスはとっさに両手で目をおおった。

 だが、好奇心からチラリとのぞいた。


 そこには人相にんそうの悪い、色白のかくばった面長おもなが()()がある。


 三白眼さんぱくがん、わし鼻、ぶあつ口唇くちびる

 人間の顔面においてこのましくないとされる特徴の見本みほんいちが、アルウゥスの美しい面立おもだちと向かい合わせになっている。


 ――そこからよく知った声が発せられる。





変身へんしんッ!」



 男の振る舞いはぶかっこうに過ぎた。


 アルウゥスは何度目か、状況に置いていかれている。



「えー……っと、トリニティ、大丈夫ぅ?」


「うるせえ。あと、変身したんだから『トリニティ』じゃねえよ」


「ええ?」


珠辻たまつじ 園治えんじ! それが俺の名だ!」


「エ、エン……それが、変身したヒーローの名前なの?」


「いや、悪い。名前はただの本名だ、ヒーロー名じゃない。けど、変身したってのは本気マジだ」



 アルウゥスは目を白黒させ戸惑っている。


 彼のようすを、男はにたにた笑って観察する。



「今後、俺は後継生物と戦うとき……たとえ姿が『トリニティ』だったとしても、俺は変身している。このくそったれな顔に! 『トリニティ』より強いヒーローに!」



 男の息に熱がこもる。


 天からの雪より、いた息が白くなる。

 アルウゥスはそれを見つめる。



「それを、アルウゥスにはおぼえといてほしい。()()()()()()()()、だろ?」


「よく、わからないけど……うん。えへへ。ありがと、園治えんじ



 アルウゥスもまた熱をこめて感謝をべる。


 真っ赤な肌は直接、熱を放射ほうしゃしているかと男に勘違いさせるほど、色をくしている。


 並んで座る、2人の肩のあいだ

 どこまでも亀裂きれつが入ったクレバスに、やがて一条いちじょうきりのゆきもった。



「……やっぱ、ヒーロー名は考えとく。いざというときに実名なまえ言うのは、キツいからな」

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