第11話 まねかれざる客
双成町の中心に位置する鉄道・清栗駅もまた立派な大きさをしている。
ただ、利用する学生と社会人の習性上、早朝と夕方のほかには人がなく静かだった。
その日、15時を回ったところで夏のような暑さが町を包んだ。
蒸した駅改札前の広いスペースを、物販や出張雑貨の店が陣取って並ぶ。
急ぎの用がない利用客はそこで、のんきに時間をつぶしている。
「お買い上げありがとう! あと、トリニティもよろしく!」
空きスペースの店の一つで、店員が威勢いい声を上げる。
……トリニティも、とは?
蒸したまごプリンの店。
レジ業務を担っているのは、鶏マスクに……エプロンを着た、やはりトリニティだった。
トリニティは、客にプリンの入った袋と釣り銭、そしてチラシを手渡す。
チラシはトリニティの沿革や設定、関連グッズを取り扱うネット通販へのアクセス方法が載る宣伝チラシだ。
しばらくして、若い1人客がおとずれる。
トリニティは店員の態度をしながら、手元に宣伝チラシを構える。
「あ、あの! 商店街でショーをされてたときからファンです。ずっと応援してますッ!」
客はそう言って、プリンより何より先に、トリニティへ握手を求めてきた。
トリニティの肩ほど、150センチもない背丈で、ショッキングなグリーンという派手な髪色をした可愛らしい青年だ。
「ああ、ありがとう。そう言えば見た顔だ」
嬉しさの漏れでた声と手を差し出すトリニティ。
ついでに宣伝チラシも手渡す。
「……もう、ショーはしないんですか? トリニティさんが、今はお仕事とかグッズ作りに専念してるのは知ってます。『町のため』になるのは、そういうのですし。でも、退屈だった商店街にトリニティさんが来るとすごくワクワクするんです! えっと、だ、だから……」
「わかった! 少し待っててくれ」
トリニティは青年に指示した直後、同じ店のスタッフへ声をかける。
その内容はメチャクチャなもので……、
「今から休憩に入る」
「マネージャーに、北口でショーをやるから駅の人間に許可を取ってくれと頼んで」
「ついでにテキトーな駅員を1人連れてこい」
というものだった。
そばで聞いていた青年は驚きのあまり硬直していた。
「場所が商店街じゃなくて、悪いな」
「しょ、しょうゆう問題ではなくてぇ……」
自身のせいでとんでもないことが起こっていると、青年は戦慄する。
異例の駅前ヒーローショーは、理解ある清栗駅一同の協力により、その日のうちに奇跡的開催へと至った。
「――トリニティいぃぃーッ!」
声変わりし切っていない中性的な大声が、人気のまばらな駅前広場に響きわたる。
声を聞いた通行人は何事だろうかと興味をもって、見物人となり近づいた。
見物人たちが声のした場所へ着くと、ささやかなステージが催されている。
ステージとは名ばかりの、人型にもっこりしたブルーシートが広場の虚無に立ち尽くし、サクラの青年と制服の駅員数名が囲っているだけの惨状だ。
そこからバサアッ! と音を立て、ようやく主役が登場した。
「俺の名は『商店戦士トリニティ』ッ、虚幌須市の平和を守る正義のヒーロー!」
主役は口上に目新しさもない、ご当地ヒーローといった風情だ。
鶏足と鶏冠、肉垂をあしらったマスクは色鮮やかな反面、グロテスクにも映る。
「ある日、町の空に出現した宇宙船から、人間を襲うバケモノが降ってきた! 俺は戦った。けど、なんとバケモノを操っていた連中は俺と瓜二つの姿をしていたんだッ!」
(相変わらず、なんか壮大なストーリだよな……)
見物人がポカンとして見ていると、カツッカツッ!
革靴を鳴らして、駅の建物から主役のトリニティと色違いのマスクを着た怪人が登場する。
「トリニティ? ふざけた名だ。ワレワレは起源をともにするウコッケイ人」
(いや、ただの駅員では?)
急造なだけあって、さすがにひどい出来だ……。
トリニティを知る見物人は、久々にナマ殺陣が見られるとあって興味津々と近寄ってきたが、それはほんの一部に過ぎなかった。
野良猫が迷い込んだ方がまだ人を集められるだろう。
それでも、トリニティの目的はとうに果たしていた。
ショーとは呼びがたい路上パフォーマンスを前に宝石の目を輝かせ、真珠の白い歯を見せて笑う、青年の姿――。
苦悩から覚めた主役・トリニティが雄叫びを上げ、ステージ外一円を指さす。
「いくぞ!」
トリニティはかけ声の隅に、いやに目を引く奇妙奇天烈なシルエットを見つける。
お前がそうだろうと言いたくもなるが、鶏面人かほど人間に近しい影ではなかった。
むしろ、「トリそのもの」だった。
外見は、キジ目キジ科クジャク属。
つまりクジャクのそれが、バス停留所の雨除け高にギリギリ収まる形で立っている。
尾羽はしまわれており平らだ。
置物のように動かないが、自然光を受けるコバルトブルーの体色や羽毛を見ると、やはり気味が悪いくらい生き生きとしていた。
「まずい! 後継生物が出たッ! 全員避難しろッ!」
いの一番にトリニティが叫ぶ!




