27.ミヨちゃん、憧れのマモーに会う
ミヨは46階の魔法使いの塔の中にいた。
最近魔王が誕生し、魔王マモー様のお触れで、非武装地帯が作られた。
魔法使いの塔の閲覧室もその一つで、戦闘は厳禁だ。
ゆったり本が読める。
本はやはり、人型の方が読みやすい。そのため、人に変化出来る魔物は大抵人間に変身して本を読んでいる。
ミヨも一緒に居るシャドウも人間に変化して本を読んでいた。
「うー、やっぱりミヨのクラスチェンジ条件は良く分からないなぁ」
「まあ、そう、焦るなよ」
とシャドウはなだめる。
魔王になったシャドウはミヨのクラスチェンジ条件を知っている。
人間と従魔契約を結ぶことだ。
ダンジョンから出た魔物ははぐれ魔物と呼ばれ、害獣と扱われる。
従魔契約すると人間界での身元が保証されるが、その代わり、契約した人間に縛られてしまう。
彼らが命じることに逆らえない。
だから魔物は滅多に従魔契約はしないものだが、人間側から見ると多大なメリットがあるので人間はより力の強い魔物と従魔契約をしたがるのだ。
『ミヨが人間と従魔契約したらどんなことになるか分かったもんじゃない』
シャドウは絶対阻止すると決めていた。
そんなシャドウの気持ちを知らないミヨは「ふー」とため息を吐く。
シャドウはいきなり立ち上がった。
「あ、俺、ちょっと行く」
「え、何処行くの?」
「ちょっとな」
かなりわざとらしくシャドウが居なくなるとすぐに、一人の少年がミヨに声を掛けた。
「この席、空いてるか」
「空いてますよー」
とミヨは少年を見上げると、そこにはマモーがいた。
黒い髪、黒い瞳。とびきりの美少年。
「あ」
ミヨはみるみるうちにピンク色に頬を染める。
「ま、マモー様」
「俺のことを知っているのか」
シャドウはかっこつけてミヨに話しかけた。フェンリルとなったせいなのか、魔王になったせいなのか、シャドウは容姿が変わった。
ミヨの言う、マモーにそっくりになった。
「は、はい。知ってます。あの、魔王様ですよね」
ミヨはカチンコチンに緊張している。
「ああ、魔王だ(って気付かないか?普通。声は変わってないし、大体魔物なら匂いか気配で分かるだろう)」
「はい、あの、私、ミヨです。初めまして、マモー様(ひええ、緊張するよ。本物だぁ)」
「ああ。ミヨはここに良く来るのか(知ってるよ、たまに来るんだよ。おかしい。この辺りで気付く想定だったんだが。何話したらいいんだ?)」
「はい。時々来るんです、友達と一緒に」
「(よし、とにかく計画通りデートに誘おう)ふうん、それより、ミヨ、良かったら、これから45階で一緒に月でも見ないか?」
45階は、いつでも夜空が広がっている。
近くに古城もあり、スリリングかつロマンティックなデートスポットで魔物には有名なのだ。
だが、喜ぶと思ったミヨは、そわそわと入り口の方を伺う。
「あの、今日は、友達と約束があるんで、駄目なんです」
と残念そうに断ってきた。
「友達とはいつでも会えるだろう」
ミヨは困ったようにうつむく。
「……本当は、シャドウ君は魔王を目指しててすごく忙しいんです。だけど、私と一緒にいてくれるんです。今日はこれから一緒に下の階に行くって約束してますから、行けません」
「…………」
『ミヨが、マモーよりシャドウを優先するなんて……。もしかしてミヨは俺のこと好きなのか?だが、マモーはシャドウで……』
思ってもみなかったことにシャドウは動揺した。
ミヨはシャドウが出て行った部屋のドアをしきりに気にしている。
「シャドウ君、まだかな」
とミヨは部屋から出て行こうとする。
部屋の外から一歩でも出ればそこは戦いの場だ。
シャドウはあわてて待機させていた分身を呼び寄せた。
「ミヨ」
「あ、シャドウ君」
ミヨは嬉しそうに本棚に本を戻し、ぴょんと弾むとピンクのスライム姿に戻る。
「あのね、シャドウ君、マモー様だよ、スゴいね」
「あー、そうなのか……(うん、知ってる)」
「うん、マモー様に会っちゃった。ほら、あそこ。マモー様、失礼します」
とミヨはこっちに頭を下げる。
「…………」
心なしか、マモーは不機嫌そうにこっちを見ている。
その表情を見て、ミヨは思う。
『やっぱり本物も無口ツンデレクールなんだぁ。カッコイイ……』
「いいのかよ」
とシャドウはミヨに聞いた。
「えっ、いいよ!最高だったよ。マモー様に会えたよ!マモー様カッコよかったー」
ミヨはぷるんぷるんした。
「いや、マモーと一緒じゃなくて、いいのか?」
「だってシャドウ君と約束したじゃない。下の階行くって」
「いや、行くけど……マモーは?」
「また会えるかなー、マモー様。カッコイイと思わない?シャドウ君」
ミヨは反応に困ることを聞いてくる。
「別に普通じゃねぇ?」
と曖昧に返事した。
ミヨはぴょんぴょん跳ねた。
「えー、そう?超カッコイイよー」
ミヨと分身のシャドウは仲良く話しながら出て行く。
マモーは呆然と見送るしかなかった。
「何故こうなる?」
とマモーは悩んだ。
『まあ、もう少しだけこのままでいいか。カッコよかったって言ってたし……』
かの有名な100階ダンジョン。
今日もピンクのスライムが自由気ままにダンジョンの中をポヨンポヨンと散歩している。
その側には必ず大きな狼がいる。
マモーの誕生により、ダンジョンのあらゆる魔物は、魔王であるシャドウの匂いを覚えた。
シャドウの分身、あるいはシャドウ本人といつも一緒のミヨが魔王のつがいなのはダンジョンの住人ならみんな知っている。
魔王本人に戦いを挑む者は居ても、執念深い魔王のつがいを狙う者はいない。
絶対、どんなことがあっても必ずつがいを殺した者は殺すのが魔王だからだ。
だからミヨには誰も手出ししないのだ。
でも当のミヨだけは何故かちっともマモーがシャドウなのに気付かない。
はてさて、マモー様の恋は一体いつ叶いますのやら。
おしまい。




