7-7(武田7)
[武田]
俺たちのクラスに、校長と、学年主任がやってきた。
いきなりのことに、クラスはざわつく。
俺は、この事態を想定済みだった。証拠のない槇原先生を連れていくくらいだから、学校は本気で証拠を持った人を捜そうとしている。
だから生徒を調べることもあるだろうと、思っていた。
10名ほどの生徒は、休暇のための帰省の準備中だ。
だからクラスには20名ほどの生徒しかいなかった。
俺と小田は、休暇申請をしたが却下された。
表向きは、「勉学に励むため」という理由だったが、実際は、計画に関わっていそうな可能性があるからだろう。
休暇のための船は本日の12時に出発だ。
クラスメイトで鬼ごっこをしている最中、本当の証拠を持った人が、船に乗り込む。
今はだいたい10時。出発まで、あと2時間。
「槇原先生は、体調不良のため、しばらくお休みすることとなりました。」
淡々と学年主任が報告をする。全く事実と異なる報告を。
クラスは一瞬ざわざわとしたが、学年主任の「ごほん」という咳払いにより、一瞬にして静かになる。
「あと、小田さゆり。武田智治。前に出なさい。」
学年主任が、俺と小田を呼ぶ。学校は俺と小田を怪しんでるんだ。
俺たち2人は、指示通り前に出る。
昨日、槇原先生が戻ってこなかった。
そして今、俺たちが疑われているということは、槇原先生はカモフラージュであることが既にバレている可能性が高い。本当の証拠を、俺か小田のどっちかが持っていると思っているんだ。
「小田、武田。君たちが持っているものを、今渡せば、手荒な真似はしない。大人しく、渡しなさい。」
校長の発言に、俺たちは何も反応を見せない。誤魔化すような発言も無駄だからだ。
「出しなさい!」
学年主任が間近で叫ぶと、迫力が倍層する。
「はい。」
小田は大人しく、ポケットからUSBを取り出す。
それを学年主任の前に出す。
素直に出したのが予想外だったようで、学年主任は余計に怪しんだ。
「それをもって、こっちに来なさい。武田もだ。」
俺たちは、校長と学年主任の後について行く。抵抗はしない。
向かった先は、コンピュータールームであった。
「ほら、小田。さっきのものを出しなさい。」
小田は学年主任にUSBを渡す。
学年主任はそのUSBに保存されているものの中味を確認するため、
USBを差し込み、データの中身を見る。
「……あんっ! やあ……! んっ……。」
パソコンの画面に、アダルトビデオの映像と音声が流れる。
校長と学年主任は予想外の中身に目を見開き、固まる。
俺と小田は、USBの中身を知っていたから、驚かない。
学年主任は怒りのあまり震えている。
「ほら、これがほしかったんでしょ? 見れてよかったね!」
小田はニコニコと学年主任を煽る。本当に怖いもの知らずだな、と改めて思う。
「しかも、これ、学園ものじゃん! こういうの趣味なの? ほら、制服プレイとかってさ。もしかして、普段もこういうこと考えちゃったりしてる?」
小田は最高に楽しそうだ。俺も、小田の発言につられて笑いそうになる。ちなみにダミーの証拠を用意したのが誰なのかは内緒だ。
学年主任は「……このっ!」と言い、小田を殴ろうとした。
俺は即座にその場から動き、学年主任の拳を片手で受け止め、学年主任を睨みつける。
「それは、さすがに教師として、ダメでしょ。」と俺は言う。
学年主任は怒りを抑え込むように、拳を壁に強くあてた。
「君たち、証拠を、持っているのか、持っていないのか、どっちだ?」
校長が口を開いた。その目は鋭い。
「持ってないよ。」
小田は、校長に向かって言った。
その答えに校長は、「そうか。」とだけ返した。
「小田、今までお前から、多くの有益な情報をもらってきた。だが、お前にだって容赦はしないつもりだ。
持っているのは、誰だ? 言いなさい。」
学年主任が小田の前に立つ。そして、鋭い目つきで威圧する。
でも、小田には、威圧など通用しない。だって彼女は、普通じゃないから。
「さあ、だれでしょう?」
小田はニコっと学年主任に微笑む。
「持ってるのは、私のクラスの、”誰か”だよ。」
「誰なんだ! 教えなさい!」
「えー、でも、普通に教えたら面白くないからさ、ゲームをしようよ!」
「ゲーム?」
学年主任は顔をしかめる。
「もう既に、クラスに残っていた18人は、どこかに逃げてる。だから、捕まえてみなよ。証拠を持った、誰かを。」
小田は楽しそうに笑う。
「さあ、始めよう? この島を使った、鬼ごっこを。」




