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傍観者  作者: Amaretto
第六章
41/56

6-7(武田5)

[武田]


 田中先生と槇原先生が、校長室に呼ばれる前日のこと。

 田中先生は俺を呼び出した。


「私は、小田に、私がSS制度崩壊計画を企てていることを学校側に密告するように依頼した。だから、おそらく明日、私は校長室に呼び出されるわ。」


 俺は驚く。なんでそんなメリットないことをするんだ。何を考えているんだ。


「なんでそんなこっちに不利になるようなことしたんですか!」

 俺は怒り口調で言った。


 田中先生は、俺から目をそらし、答えなかった。


「答えてください。俺も、協力者ですよ。」


 俺は圧をかける。

 田中先生は目を合わせずに言った。


「まきちゃんがね、学校側から、怪しまれているのよ。それで、まきちゃんが明日、校長室に呼び出されるの。だからそれを助けるには、……私が捕まるしかないの。」



 田中先生は、槇原先生に対して、どういう感情を持っているのかは分からない。仲間として助けたいのか、特別な感情があるから助けたいのか。

 でも、田中先生は自分の決めたことは曲げる人ではないと、俺は知っていた。だから田中先生が囮になることについて、何も言わなかった。

 だけど一つだけ、気になることがある。


「その情報、どこから入手したんですか。」


 田中先生は、少し躊躇ってから答える。

「小田さゆりよ。」


 どうして小田がそんな情報を持っているんだ? もしかして、学校側と繋がっているのか?

 俺が聞く前に、田中先生が答える。


「小田はね、ずっと前から学校の味方なのよ。もちろん、私達の味方でもあるけれど。」


 俺は驚きのあまり声が出なかった。


「私が、彼女を味方に誘った。その上で、学校側の味方になるように私がエサを撒いた。小田に監視カメラに気づいている証拠を残すよう依頼してね。それで、学校は小田に目をつける。そして、彼女の頭の良さ、クラスでの立ち位置から、学校側の味方につけた方が良いと判断する。小田が学校の味方になれば、クラスを操ることもできるし、クラスで怪しい人がいないか観察してもらうこともできる。だからこそ、密告するのには、適任なのよ、小田は。学校の信頼を得ているから。」


  田中先生は、俺の肩に手を置いて言う。


「そこで、あなたにやってほしいことがあるの。」


「やってほしいこと?」


「私が校長室にいる時の映像を、盗んでほしい。やり方は分かるわね?」


 それが、危険な行為であることは、すぐ分かった。

 今まで田中先生は、俺に協力を求めることはあっても、俺に危害が及ぶことはないようにしてきた。危険な行動はすべて、田中先生一人で行っていた。

 でも今回、田中先生自身が出来ない行為だから、俺に頼むしかないんだ。


「こんな危険な行為を、生徒にやらせるなんて、本当はしたくなかった。でも、私も、まきちゃんも、出来ない。だからあなたに頼む。しっかり者のあなたなら、やってくれるでしょう? もう時間がないの。より多くの資料を集める為には、危険な行為だろうと、やるしかない。3日後の12時、休暇のための船が出る。その時までに、証拠を集めきらないといけない。」


 3日後、休暇の船が出る。休暇申請をして、承認が下りた人は、島の外で3日間の休暇を取ることが出来る。その時に、証拠をばらまく。それが田中先生の計画。

 俺は田中先生の指示通り、あらかじめ休暇申請をしておいた。

 だからそれまで、証拠を集めきって、なおかつ、それをバレないように隠しておく必要がある。


「分かった。やるよ、俺。協力するって約束したから。」


 田中先生は、何度も俺に、「ありがとう」と言い、頭を下げた。


「田中先生が捕まった後、どうしたらいいの?」


 俺は、指示を出す田中先生がいなくなることに不安を感じていた。


「まきちゃんと協力するのよ。まきちゃんと一緒に、13年前の集団自殺の証拠を取りに行くの。その証拠は、最重要情報として、モニタリングルームの隣の部屋に保管されている。」


「モニタリングルームの隣? コンピューター室ってこと?」


 田中先生は首を横に振って、言った。


「コンピューター室ではないわ。その間よ。モニタリングルームとコンピューター室の間には、隠し部屋がある。そこに行くのよ。そこには、『日向千鶴』が残した音声、集団自殺を学校側が見て見ぬふりをしたという証拠、それがある。」


 日向千鶴。それは田中先生が前に言っていた、28人集団自殺の計画者。


「わかった。田中先生、俺、頑張ってみるよ。この制度を壊してみせるよ。」


 田中先生は、頷き、笑った。


 田中先生は、自分から囮になるよう仕向けた。

 田中先生……どうか……無事で。





 次の日、田中先生は、拷問部屋に連れていかれた。

 その日の夜、槇原先生と俺は、田中先生が言っていた隠し部屋へと向かう。

 13年前の証拠を取りに行くために。



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