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傍観者  作者: Amaretto
第六章
37/56

6-3(槇原9)

[槇原]


 私は、小田さゆりに、頭を下げていた。

 教師が生徒に頭を下げるというのは、普通の高校ではまず見られない光景だ。

 私は、プライドも何もかも捨てて、SS崩壊のために、田中先生の意思を継ぐために、小田さゆりにお願いしていた。


「お願いします。学校に、私が田中先生と協力してることを密告するのを、やめてください。」




 今から10分前のこと。

 私は、小田さゆりを呼び出した。彼女は素直に私の呼び出しに応じてくれた。

 私は、思っていたことを率直に尋ねる。


「校長と教頭に、田中先生がSS制度を崩壊させようとしているって伝えたの、あなたでしょ?」


 小田はニヤリと笑う。


「そうだよ。それをバラしたのは私。」


 小田はいつものよう、明るく、楽しそうに自分のしたことを語る。


「最初は、田中先生についていると、クラスの中心に立てたし、クラスで自由にやることが出来たし、それになにより、田中先生がいろんなことができるから、私にとって都合よかったの。」


 小田は、くるくると回りながら、言う。

 小田は、面白そう、都合がいい、と思える方の選択肢を選ぶのだと、田中先生は言っていた。


「でもねー。なんか、飽きてきちゃったんだよね。もう、私がしてほしいことをしてもらいきったから。用済み。だから、学校側に寝返った方が、楽しいかなって。」


 小田はニコっと笑う。


「あの後、田中先生はどうなったの?」


 小田はウキウキと私に質問する。


「連れていかれたよ。おそらく、この学校の地下にある、拷問部屋に。」


 拷問部屋と聞いた小田は、おお、怖いねえ、と言った。しかし、彼女は、恐怖を感じている様子など全くない。むしろ、面白そうに話を聞いている。

 今、この瞬間にも、田中先生は拷問されている。小田が、学校側に密告したから、田中先生はつれていかれた。

 私は小田に対する怒りを必死に抑えていた。それを小田は知っていて、私を挑発してくる。


「拷問部屋ねえ。校長室に呼び出されたのは、槇原先生もなんでしょ? なんで、槇原先生だけ無事なの?」


 小田はおそらくその答えを知っているが、私に言わせたいのだろう。私は答える。


「田中先生が、囮になった。私を、無事に返すためにね。」


「へえ、槇原先生は、田中先生を犠牲にして、自分だけ助かったんだ?」


 小田は私を嘲笑うかのようにみている。あなたが言わなければこんなことにならなかったのに、という言葉が喉まで出かかったが、飲み込んだ。


「で、私にしてほしいことって何? ただ私が密告犯だって知りたかっただけじゃないでしょ? だって、明らかに私が密告犯だもん! あはは!」


 小田は無邪気に笑う。

 そんな彼女を、ぶん殴りたい衝動に駆られたが、私は必至に自分を落ち着かせる。


「そう。お願いがあるの。」


「お願い?」


「学校側に、私が田中先生と協力してることを密告しないでほしい。」


 小田は、私と田中先生が組んでいることを知っている。けれど、校長室に呼び出されたときに、犯人としてつれていかれたのは、田中先生だけであった。


 それで、考えられるパターンとしては2つ。


 1つ目は、小田は、私が田中先生の協力者であるということを、学校側に言わなかった。「言わない方が、私が慌てふためく様子を見れて面白そうだから」という理由で小田がそうしたのだとすれば、十分にあり得る。


 2つ目は、小田が、私と田中先生が協力者であるということを、学校側に言っている。けれど、学校側は、反逆する教師がどういう風に行動するかを観察するため、あえて私だけ残した。このパターンであれば、今後私が動くことは想定済みで、その様子を観察する準備もできているし、私をいつでも捕らえられるようにしてあるはず。


 最悪なのは、二つ目。どちらのパターンかによって、私の動き方は変わってくる。

 だから、彼女の反応で、どちらのパターンなのかを探る。


「へえ、密告しないでほしい……ねえ。それ、お願いするなら、もっとちゃんとお願いしなきゃいけないんじゃない? 頭下げてさ。」


 そう、小田が言った瞬間、1つ目のパターンかもしれないなと思った。確信はできないけれど、おそらくそうだろう。

 もし、2つ目のパターンなら、小田は、「密告しないでほしい? 無理だよ、もう、しちゃってるもん。」と言って、私を動揺させ、絶望させ、面白がるだろう。彼女は、その時に一番面白くなりそうな状況に持っていく発言をするはずだから。


 今回、小田は、教師が生徒に頭を下げるのかどうかを観察する気だ。だから、それが今、小田にとって一番面白そうな状況なのだろう。

 私が、プライドを捨てれるか。それを、小田は楽しみにしている。

 きっとまだ、学校側には、私がSS制度崩壊計画の仲間だと知られていない。

 だから、小田に、頭を下げる価値は十分ある。

 私は、プライドなんていらない。

 生徒のために、SSを崩壊させるんだ。そのためには、土下座だってしてやる。


「お願いします。学校に、私が田中先生と協力してることを密告するのを、やめてください。」


 私は小田に、頭を下げてお願いする。

 小田はニヤリと笑い、私を挑発する。


「生徒に頭下げてる教師なんてみっともないねえ。でも、仕方ないよね。頭下げないと、密告されちゃうもんね?」


 私は小田の挑発を気にせず、頭を下げ続ける。

 私が意外とすぐに頭を下げたのが、面白くないのか、さらに要求してきた。


「土下座。お願いするなら、土下座、でしょ? このまま、計画を進めたいんでしょ? なら、土下座しなよ。」


 私は、小田が土下座を要求してくるのも想定済みだった。もう、なんだっていい。小田が、密告しないでくれるなら、なんだってする。

 私は、その場に跪く。小田は、私がそこまですると思っていなかったのか、驚きの表情を浮かべた。

 その後すぐ、ニヤッと笑い、「いいねえ。」と言う。

 私は、そのまま頭を床につける。


「お願いします。」


 小田は十分満足したというように、言った。


「いいよ。密告しないであげる。」


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