6-4(田中6)
[田中]
私は拳銃を校長に向ける。
校長は、驚きのあまり、固まっている。その状態で、この距離なら、素人の私でも、撃つのは難しいことじゃない。
引き金を引くか、引かないか。
この制度を見て見ぬふりしていた、代表者。
この人を殺せば、日向千鶴の復讐になる。
今、私が、引き金を引けば。
……どうしたらいい? 日向千鶴。 おしえてよ。
「やめなさい! 銃を下ろしなさい!」
校長は必死に私に命令している。そんなに、自分の命が大事?
28人の命を、犠牲にしてきたあなたが?
あなたに、生きる資格はある?
ない! ない! ないわよ! あなたに生きる資格なんて。
でも今、私が引き金を引いたところで、この制度は終わらない。
この牢獄は、今でも生徒たちを捕えている。
今、ここで、引き金を引いたって、
日向千鶴は戻ってこない。
彼女は死んだから。
「あなたたちが、今まで生徒を見殺しにしてきたから! 日向千鶴は死んだのよ! あなたたちが、傍観者だったから、28人が、自殺したの! 全部全部、あなたたちのせいよ!」
涙が止まらなかった。
どうして、私は、引き金を引けないのかしら。ただ、この指を引けばいいだけなのに。それだけなのに。
私が、ずっと望んでいた、復讐のチャンスが今、訪れているのに。
私はその場に崩れこむ。
校長達は、「日向千鶴」と聞いたとき、びくっと身体を強張らせた。
そして、少しだけ、悲しい目をした。
だから、私は、撃てなかった。
私がへたり込んだ後、すぐに、黒いスーツを着た男たちが校長室に入ってきた。
私は知っていた。彼らは、私のような反逆者を捕えるために学校側が用意した人たち。一般人が抵抗して叶う相手じゃない。拳銃を持っている相手だって抑え込めるように訓練された男たち。
おそらく、私やまきちゃんのが暴れた時のために、予め呼んでおいたのね。
でも、私は大人しくつかまるほど、素直じゃないし、諦めてもいないわ。
私は、こういうことも想定して、武術を習得してきたんだもの。
多少の時間稼ぎなら、出来る!
私はすぐに立ち上がる。そして、拳銃を胸にしまう。
部屋に入ってきた男は5人。
もって2分といったところかしら。
でも、それだけあれば充分なはず。
男たちは拳銃を持っている可能性が高いわ。
でも、こちらが、撃たなければ、相手はたぶん拳銃を使わずに、取り押さえるようとしてくるでしょうね。
銃声を生徒に聞かれでもしたら、制度自体に影響が生じるもの。
男たちは、互いに息を合わせ、一斉に私に襲い掛かってくる。
まっすぐ進んでくる男をよけ、右から来る男の腹に一撃を食らわせる。
そしてその男の腕を掴み、男を背負い投げる。
”一般的”な教師であるはずの私に、攻撃を避けられたことに、驚いている。
けれど、その後も次々と男が向かってきた。
息の付く間もなく、私は戦い続ける。
どれくらいの時間がたったかはわからない。
私はとうとう男たちに取り押さえられてしまった。
拳銃も没収された。
男二人にがっしりと両腕を掴まれてているこの状況で、逃げ出す隙は、もうない。
私はこのまま、拷問部屋に連れていかれるのね……。
男に連れられ、私は息を切らしながら、歩く。
校長室を出る前、まきちゃんと目が合う。
心配そうな目で、私をみている。
安心して。もう、まきちゃんひとりでも、やっていけるところまで、準備は進んでいる。
だから、大丈夫よ。まきちゃん。
なんとかして、私の代わりに、この制度を崩壊させて。
お願い、まきちゃん。
校長室の扉は、バタンっと大きな音で閉められた。
まるでまきちゃんと私を切り離すかのように。
私は学校の階段を何度も下りている。
この学校には、地下がある。私はそこへ連れていかれる。
この学校の地下は、生徒達が入れないよう、鍵がかかっていた。
男がカギを開ける。重い鉄の扉を開けるとギイーという音がした。
中は暗い。
男が廊下の明かりをつける。
きっと、この廊下の先に、拷問部屋があるのね。
私のような、反逆する教師や生徒のための場所が。
私は、生徒時代に、学校の地図をこっそり入手していたから、知っていたわ。
でも実際に使われたことがあるかは、わからない。
この学校に詳しい私でさえ、地下については、ほとんど分かっていない。それほど、”通常は使われることのない特別な場所”っていうことよね。
だから、どんな拷問器具があるのかも知らない。どんな拷問が行われるのかも知らない。
でも、何をされても、まきちゃんのことは話さない。それはSS制度崩壊の、最低条件。
ああ、これから、地獄が始まるのね。
日向千鶴。
あなたのために、私はここまでやってきた。
日向千鶴。
あなたを、殺した人を、私は撃てなかった。
日向千鶴。
ごめんなさい。私を許して。




