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傍観者  作者: Amaretto
第六章
38/56

6-4(田中6)

[田中]


 私は拳銃を校長に向ける。

 校長は、驚きのあまり、固まっている。その状態で、この距離なら、素人の私でも、撃つのは難しいことじゃない。

 引き金を引くか、引かないか。

 この制度を見て見ぬふりしていた、代表者。

 この人を殺せば、日向千鶴の復讐になる。

 今、私が、引き金を引けば。


 ……どうしたらいい? 日向千鶴。 おしえてよ。


「やめなさい! 銃を下ろしなさい!」

 校長は必死に私に命令している。そんなに、自分の命が大事?

 28人の命を、犠牲にしてきたあなたが?

 あなたに、生きる資格はある?

 ない! ない! ないわよ! あなたに生きる資格なんて。


 でも今、私が引き金を引いたところで、この制度は終わらない。

 この牢獄は、今でも生徒たちを捕えている。


 今、ここで、引き金を引いたって、

 日向千鶴は戻ってこない。

 彼女は死んだから。


「あなたたちが、今まで生徒を見殺しにしてきたから! 日向千鶴は死んだのよ! あなたたちが、傍観者だったから、28人が、自殺したの! 全部全部、あなたたちのせいよ!」


 涙が止まらなかった。

 どうして、私は、引き金を引けないのかしら。ただ、この指を引けばいいだけなのに。それだけなのに。

 私が、ずっと望んでいた、復讐のチャンスが今、訪れているのに。

 私はその場に崩れこむ。


 校長達は、「日向千鶴」と聞いたとき、びくっと身体を強張らせた。

 そして、少しだけ、悲しい目をした。

 だから、私は、撃てなかった。


 私がへたり込んだ後、すぐに、黒いスーツを着た男たちが校長室に入ってきた。

 私は知っていた。彼らは、私のような反逆者を捕えるために学校側が用意した人たち。一般人が抵抗して叶う相手じゃない。拳銃を持っている相手だって抑え込めるように訓練された男たち。

 おそらく、私やまきちゃんのが暴れた時のために、予め呼んでおいたのね。



 でも、私は大人しくつかまるほど、素直じゃないし、諦めてもいないわ。

 私は、こういうことも想定して、武術を習得してきたんだもの。


 多少の時間稼ぎなら、出来る!


 私はすぐに立ち上がる。そして、拳銃を胸にしまう。

 部屋に入ってきた男は5人。


 もって2分といったところかしら。


 でも、それだけあれば充分なはず。


 男たちは拳銃を持っている可能性が高いわ。

 でも、こちらが、撃たなければ、相手はたぶん拳銃を使わずに、取り押さえるようとしてくるでしょうね。

 銃声を生徒に聞かれでもしたら、制度自体に影響が生じるもの。


 男たちは、互いに息を合わせ、一斉に私に襲い掛かってくる。


 まっすぐ進んでくる男をよけ、右から来る男の腹に一撃を食らわせる。

 そしてその男の腕を掴み、男を背負い投げる。

 ”一般的”な教師であるはずの私に、攻撃を避けられたことに、驚いている。

 けれど、その後も次々と男が向かってきた。

 息の付く間もなく、私は戦い続ける。


 どれくらいの時間がたったかはわからない。


 私はとうとう男たちに取り押さえられてしまった。


 拳銃も没収された。


 男二人にがっしりと両腕を掴まれてているこの状況で、逃げ出す隙は、もうない。

 私はこのまま、拷問部屋に連れていかれるのね……。

 男に連れられ、私は息を切らしながら、歩く。


 校長室を出る前、まきちゃんと目が合う。

 心配そうな目で、私をみている。


 安心して。もう、まきちゃんひとりでも、やっていけるところまで、準備は進んでいる。

 だから、大丈夫よ。まきちゃん。

 なんとかして、私の代わりに、この制度を崩壊させて。

 お願い、まきちゃん。


 校長室の扉は、バタンっと大きな音で閉められた。

 まるでまきちゃんと私を切り離すかのように。


 私は学校の階段を何度も下りている。

 この学校には、地下がある。私はそこへ連れていかれる。


 この学校の地下は、生徒達が入れないよう、鍵がかかっていた。

 男がカギを開ける。重い鉄の扉を開けるとギイーという音がした。

 中は暗い。

 男が廊下の明かりをつける。


 きっと、この廊下の先に、拷問部屋があるのね。

 私のような、反逆する教師や生徒のための場所が。


 私は、生徒時代に、学校の地図をこっそり入手していたから、知っていたわ。

 でも実際に使われたことがあるかは、わからない。

 この学校に詳しい私でさえ、地下については、ほとんど分かっていない。それほど、”通常は使われることのない特別な場所”っていうことよね。


 だから、どんな拷問器具があるのかも知らない。どんな拷問が行われるのかも知らない。

 でも、何をされても、まきちゃんのことは話さない。それはSS制度崩壊の、最低条件。

 ああ、これから、地獄が始まるのね。


 日向千鶴。

 あなたのために、私はここまでやってきた。

 日向千鶴。

 あなたを、殺した人を、私は撃てなかった。

 日向千鶴。

 ごめんなさい。私を許して。



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