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傍観者  作者: Amaretto
第五章
29/56

5-1(田中4)

[田中]


 まきちゃんとパートナーになった日の夜。

 私は、体育館の近くの廊下へと向かう。


 そこには、小田さゆりがいる。


 コンクリートの上に座り、月を見ている。近づいてくる足音に気づき、警戒するようにこちらを向く。私だと分かって、ホッとしたような表情になった。その後、怒っていますということを表現するように、頬をぷくっと膨らませる。


「もう、遅いよっ!ずっと待ってたんだから。」


 彼女は、立ち上がってから、制服のスカートをポンポンとはらった。


「ごめんなさいね。ちょっとまきちゃんとの話が長くなっちゃったのよ。それにその後、モニタリングルームで自分の仕事の仕事をしなければいけなかったもの。報告データは、7時までに送信しなければいけないのよ。」


「ふーん。まあ、いいや。で、槇原先生は、ちゃんと仲間になってくれたんだ?」


「当たり前よ。まきちゃんは、正義感が強いもの。」


 小田は、正義感ねぇ、と言いながら、その言葉が嫌いなようで、顔を歪めた。


「あっ。ここのデータもちゃんとダミーのものにしてよね。」


「もちろんそうするわ。明日になってしまうけれど。それで、何がお望みなのかしら?」


 小田はにっと笑って、「なんで私がなんか望んでるの、分かったの?」と言った。


「だって、あなたはタダで人のいう事聞くタイプじゃないでしょ?」


「ふふっ。大当たりだね! そう。タダじゃ、やらないよ。田中先生の言う通り、監視カメラに気づいてる証拠を残したんだから、私の願い事も1つきいてよ。」


 彼女は、自分の方が立場が上であることを象徴するかのように、体育館へつながる廊下の階段をぴょんと跳ねて上がった。


 まあ、そういう約束だから仕方ないわよね。ここで、小田さゆりを手放す訳にはいかない。そして、裏切られないよう細心の注意を払わなければいけない。だから、表向きは彼女に従順に行動するべきだわ。でも、彼女の言いなりにはなってはいけない。そのバランス調整が大切ね。


「そうねぇ、まず、あなたの部屋の監視カメラの映像を、ダミーのものに変えるっていうのはどうかしら。」


 これなら彼女も納得してくれるでしょう。カメラ映像をイジるのは、私にとってどうってことない。何度もやってきた事だから、朝飯前よ。


「あー! それいいね! 部屋にいてもさ、監視されてると思うと、ゆっくりできなかったんだよね。」


 それで今回の依頼はお互い様になる。そして、また私が次のお願いをする。そういう約束を、彼女としていた。


「でもさ、田中先生がダミー映像に変えたっていう証拠を、後で私に見せれるの?」


 彼女は、私の提案の穴を突いてくる。絶対に隙を見せてくれないから、いやになっちゃう。彼女は疑い深い性格で、誰も信用しない。そして、私も彼女を信用出来ない。きっと、学校側に寝返ることもありえる。


 だから、彼女を仲間にしているのは賭けよ。


 彼女は、私にとっての、ジョーカー。


 自分にとって、最強の武器になることもあれば、自分にとって、最悪の敵になることもある。


 そのリスクを犯してまで、仲間にしたのは、SS制度崩壊を考えつきそうな人物だから。つまり、学校にもしバレそうになった時に、SS制度崩壊の主犯を彼女だと思わせる事が出来るから。だから彼女にカメラに気づいている証拠を残させた。それが、いつかきっと役に立つ。彼女が学校側に寝返らなければの話だけれど。

 もし彼女が学校側に寝返った場合、小田を通して嘘の情報を学校側に伝えさせ、攪乱させる。

 だから絶対に、小田が学校側に寝返った時を見逃してはいけない。

 彼女を常に警戒しておく。

 そして彼女に伝える本当の情報は、最小限にしておくこと。たまに嘘の情報も混ぜ込むこと。


「それなら、今から、一緒に行きましょうか? モニタリングルームに。それで、あなたの部屋の監視カメラ映像を無効にする。それと、モニタリングルームに入ってから出るまでの映像すべて、ダミーに変える。それなら、信用してもらえるかしら?」


「へー! 行っていいんだ! 楽しそう! それならいいよ! 信用はしてないけど、行ってみるのは楽しそうだから。」


 彼女は、嬉しそうにはしゃいだ。こうしていると、普通の可愛い高校生よね。その外見からは全く想像できないくらい、中身は真っ黒なのにね。


「じゃあ、私の2番目のお願い、聞いてくれるかしら?」


 彼女はさらっと返事をした。


「いいよー!」


「これから行動してほしいことについて説明するわ。ちょっと長くなるわよ。」


 彼女は頷いて聞いていた。


「あなたは、このまま藤井と一緒にカンニングを行う。それで、まきちゃんがそれを校長に報告する。そしたら多分連帯責任になるわ。で、クラスは悪い雰囲気になると思うんだけれど、あなたはその場を収めてくれるかしら?」


「任せて! 私、まだ優等生みたいに思われてるから簡単だよ。それに、たぶん武田くんもクラスの雰囲気を元どおりにするよう行動するもん。あの人、いい人ぶってるから。」


 彼女は一見優等生に見える。髪は黒いし、表向きでは、教師への態度もいい。クラスメイトの問題にも解決策を考え、そして行動する。頼りがいのある優等生。だから、誰も小田の本性には気づかない。でも彼女の本性は、誰よりも恐ろしい。彼女は常に警戒している。私が教える前から、彼女は監視カメラの存在に気づいてた。そして、この学校の目的についても検討をつけてた。


 私は生徒たちが入学した時から、自分のクラスの生徒はもちろん、他クラスの生徒まで、何処かに異変がないか観察していた。そして、監視カメラに映っている割合が、彼女だけ圧倒的に少ないことに、私は気づいた。彼女は意図的に、監視カメラの死角に入って行動することが多かった。だから、私は彼女に声をかけた。頭が良く、勘が鋭い彼女に。


「そう。それなら、好都合ね。それで、犯人探しはしない雰囲気になったら、藤井は、自分が犯人であることを隠すと思うの。だから、その日の夜、クラスの掲示板に、犯人は藤井有紗だって投稿する。もちろん、匿名でね。そしたら次の日、藤井はみんなから責められると思う。そこで、投稿したのは私だって言ってくれるかしら。」


「えーっ。匿名で投稿したのに、バラしちゃうの?」


 驚くような素振りをしているけれど、人を欺くようなこの作戦にウキウキしているのが伝わってくる。

 悪い事をするのが、好きなのね、この子は。


「そう。そんなことしたら、藤井の他、あなたも疑われることになる。そしたら、きっと点数開示申請によって、潔白を証明するよう、誰か……おそらく武田あたりが提案してくる。それを利用して、武田を陥れる。」


 陥れるという単語に、ニヤっと笑う彼女。

 何事にも動じないように意識してきた私でさえ、彼女は恐ろしいと思う。彼女は、悪い事を悪いと認識していない。だからこそ、怖さが底知れないのね。


「陥れるって、どうやって陥れるの?」


「まず、中間テストが終わった後に、藤井からあなたに点数開示申請をさせる。あっちからしてこなかったら、こっちから申請する。そしたら、藤井もやってくるはず。その時に小田の点数として表示される点数を、私が変えておくわ。低い点数にね。」


 関心するように彼女は、ふーん、そんなこともできるんだ、と言った。


「武田は、証拠もなしに藤井を犯人と決めつけない。でも藤井が犯人であるとは思うでしょうね。それで、小田も共犯だって目星つけるはず。そして、証拠を求めて、点数開示申請っていう方法をとる。武田は、事前に藤井と話して、点数開示申請していいかの許可をとる。彼は優しいからいきなりやったりしないわ。その時に、小田との共犯なのかも問い詰める。本当のことを聞かれたら、藤井は隠すことは出来ないわね。藤井は、小田も共犯だと白状する。そして、証拠になるものを探す時、藤井が、中間テストの小田のテスト点数が低いことを武田に伝える。そうなれば、こっちの思うツボね。次の日、武田は藤井の他に、あなたにも点数開示申請するでしょう。そこで、本当のあなたの点数が表示されるように私が戻しておく。そしたら、武田は、あなたが共犯であることを証明できない。そして、あなたを疑った武田は、あなたに逆らえなくなる。武田と藤井が力を失えば、あなたは、クラスを牛耳ることができる。私の依頼は、あなたにクラスのトップになってもらうことよ。」


 彼女の目的は、楽しむこと。人を観察すること。

 だから私が依頼しなくたって、彼女はいずれクラスのトップになっていたでしょう。

 それなのにも関わらず依頼した理由は、小田がトップになるまでの方法をこちらが決めるため。


 私が望んでいるのは、小田がトップになることもだけれど、武田の地位を落とすことでもある。

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