4-6(中嶋1)
[中嶋]
昔の俺はやんちゃだった。
小学校の頃、朝起きたらまずは母親の作った飯を食べ、学校に行き、大して勉強もせずに終わり、放課後は友達と草むらで野球をする。家に変えると、母親に「あーら、またこんなに汚して!洗うの大変なんだからねー」と言われる。そして母親の手の込んだ料理を、10分足らずで平らげる。その後は、ぐっしょりとかいた1日分の汗を風呂で洗い流し、ふかふかの布団でぐっすりと眠る。
大したことはないけれど、俺にとっては人生で一番幸せな時間だったと思う。
それが変わったのは、小学校5年生の時。今も思い出す苦い記憶の中に、父がいる。
大きな背中に、大きな手。太くよく通る声と、それに反する優しい笑顔。
父は消防士であった父は、俺にとって自慢の父だった。自分の命をかけて仕事に取り組む父の背中を見て俺は育った。
教室で友達と野球をして、窓ガラスを割った時は、先生にこっぴどく叱られた。別にいいじゃんかよ、と全く反省しない俺に、先生はさらに声を荒げた。両親が呼び出され、両親が何度も先生に頭を下げていたが、俺にはその姿が情けなく見えていた。
「あんなに頭下げるなんて情けねーの」と俺は帰り際の坂道で、ぼそっと呟いた。すると父親は俺の頭に手を伸ばしてきたため、殴られる、と思い目を瞑った。だが父は、俺の頭にポンっと手を置くだけだった。俺はそれをすぐ払いのけた。
「子供扱いすんじゃねぇよ!」
俺は、人を守る為に仕事をしている父を尊敬していた。父の後ろ姿を見て育ち、父のようになりたいと思っていた。だから早く大きく、強くなりたいと思っていた。いつか、その背中を追い越す日が来るのだろうか、とまだ遠い未来を想像していた。それが俺にとっての幸せだったのだが、それは叶う事は無かった。
俺が父の背中に追いつく前に、父はあっけなく死んでしまった。
勇敢に炎の中に飛び込んで死ぬ訳でもなく、ただただ、癌で身体を弱らせて死んでしまった。
強いと思っていた父が、俺がいつも見上げていた父が、こんなにも脆く、弱かったことを、俺は初めて知った。俺の中で英雄だった父は、英雄と言われることもなく、いなくなった。
そして、普段は家事をしていた母親は、働かざるを得なくなり、安い給料の中、休む暇も無く働き続けた。母親が熱をだしても、母親は薬を飲みながら、働き、働き、働き続けた。俺の学校の給食費を払うのも精一杯で、母親が頭を下げて「もう少しだけ時間をいただけませんか」とお願いする様子を、何度か目にする事もあった。昔のように手の込んだ料理を食べることもなくなり、冷めたコンビニ弁当を平らげるようになった。
たまに、父親が生きていていれば……なんて想像するけれど、現実は、父はもうこの世にいないし、母親も日中仕事に出ており、家にはいない。
俺はひとりぼっちになってしまった。
俺は父さんのような英雄になるんだ、なんて昔の夢は、いつのまにか消え果てた。




