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傍観者  作者: Amaretto
第四章
22/56

4-1(田中2)

[田中]


 うまくいったわ。まきちゃんを、SS制度崩壊計画のパートナーにすることができた。あとは、まきちゃんにしてもらうことを伝えればオーケーね。


「どうやって、SS制度を崩壊させるんですか。やっぱり、現実的に難しいじゃないですか。」


 まきちゃんは心配そうに私を見つめる。


「大丈夫よ、焦らなければ。私達が協力すればできる。でも、まきちゃんの他にも協力者はいるわね。まきちゃんのクラスの人がいいわ。頭の切れる人と、クラスで影響力がある人。誰かいないか教えてほしいわ。」


 まきちゃんは悩むことなく言った。


「影響力があるのは、藤井有紗、小田さゆり、武田智治の3人ですね。小田さゆりは監視カメラに気づいていて、私達を敵対視しています。武田智治は、勘が良いので、もしかしたら、この制度に気づいててもおかしくありません。藤井有紗は、おそらくSS制度に気づいてないでしょう。」


「小田さゆりが、監視カメラに気づいてる?」


「はい。モニタリングの時、確かに、監視カメラの方を見て、宣戦布告と言っていました。」


 そうなのね。宣戦布告ね。いい言葉だわ。カメラにばっちり収まっているなら、問題はないわ。


「その子が、今どこにいるか分かる?」


「いえ、分かりません。いつもなら、藤井有紗と一緒に下校していますが、今日は、藤井に嘘をついて、わざと1人になっていました。」


「嘘? どういった内容なのかしら?」


「私が、体育館の近くの廊下で、藤井有紗を探しているという内容です。それで、藤井はそこに向かいました。」


「そうなのね。その子、頭良いのよね? それ、もしかしたら、おびき寄せる作戦かもしれないわ。まきちゃんがもし、体育館の近くの廊下にくれば、まきちゃんが監視カメラの音声を聞いた証拠になるもの。」


 まきちゃんは、確かにそうだ、と納得した表情をしている。


「その子には、注意が必要ね。あと、話を戻すけど、あなたのクラスの中で、仲間にするなら武田がいいかしら。」


「そうですね。彼は頭が切れるタイプで、人脈もあります。味方にしたら、クラスの動向を決めることも可能です。」


「そしたら、武田智治を味方にしましょう。あと他に、一番平凡な人物はいる?」


 平凡な人物を上げることを申し訳無さそうに、躊躇いながら言った。


「平凡……ですか。……鈴木くん、ですかね。彼は、武田智治とも仲良いですよ。」


 それは好都合だわ。誰よりも目立たない、何が起きても動かない人物を動かすことが出来れば、相手の裏をかくことに繋がる。

 だから、味方にしてもメリットが無さそうな人を味方にしておく。それが、SS制度崩壊への第一歩。


「分かったわ。鈴木くんには、まきちゃんが話してくれるかしら? それを話すのは、1年後、様子見てだけれど。」


「1年後ですか!?」


 まきちゃんは目を見開く。驚くのも当然ね。私だってそう言われたら、そんなに時間がかかるものなのかとびっくりするわ。それに、それまで何をするのって思うもの。


 だけど、やるべきことは、何もしないこと。


「そう。それまでは、まきちゃんは、何もしない」


 それがSS制度崩壊への二歩目。


「何も……って……制度崩壊への準備はしないんですか?」


「私達が、ちゃんとSSの担任として役割を果たして、学校側を安心させるのよ。それが、制度崩壊への近道になる。学校側から敵対視されてはダメよ。疑われてはダメ。」


「でも、それじゃあ、ただ時間が過ぎるだけじゃないですか! それはダメって、さっき田中先生が言ってたじゃないですか! 今しかないって!」


 まきちゃんは少し怒り気味になっている。それはそうよね。私の言っていることは矛盾してるもの。でも、今まきちゃんが何か行動することは、私の計画にとって逆効果になってしまう。それに、まきちゃんが負うリスクが大きくなってしまう。


「そう、今しかないのは確かよ。でもまきちゃんが、何もしない事を、するっていうのが、今しなきゃいけないことなの。今までのまきちゃんなら、クラスで問題が起こったら、介入しちゃうでしょ? それを、やめなきゃいけない。目の前で生徒が骨を折られようとも、助けちゃいけない。見て見ぬ振りをする傍観者でいなきゃいけない。SS担任として、役割を果たさなきゃいけない。」


 まきちゃんに、自分のやらなきゃいけないこと、SS担任としての役割を、再認識させる。今まで受け入れられなかったったSS制度を受け入れる事でしか、SS制度崩壊できないなんて、なんてアホらしいことだと思うでしょう。でも、そうするしかない。この世は、矛盾だらけなのよ。私だって本当は、生徒を見殺しになんてしたくない。学校の……奴らの思い通りの教師を演じることなんてしたくない。でも、私は屈辱を味わいながら、冷徹な教師でいるしか、方法は無かった。その辛さは、いやというほど分かってるわ。そして、それをまきちゃんにもお願いすることは、残酷すぎる。でも私には、協力が必要なの。だから、無理矢理にでもまきちゃんを頷かせる。


「まきちゃん、あなたは、生徒を救いたいのよね?」


「はい。」


 まきちゃんはすぐさま答える。まっすぐした強い瞳。


 その意思の強さは、強みでもあり、弱点でもある。それを私は利用する。彼女は、生徒を見殺しになんて出来ない。だからその為に、きっと私の計画に乗り、生徒を見殺しにする。


「なら、生徒を見捨てる強さを持たなきゃいけない。1年……もしかしたら2年。その間、感情を殺すの。正義感の強いあなたには、厳しいかもしれないわ。だけど、私はあなたのその正義感の強さに惚れて、声をかけたの。やってくれるかしら?」


 まきちゃんは、俯く。

 決心するための時間。


 私は、まきちゃんの決心がつくまで、待つ。外はもう暗いわ。他の教師達が帰っていく時間ね。その時に、2人とも同じ場所にいることが気づかれたら、危ない。今この瞬間にも、監視カメラは私達を映しているわ。

 でも、まきちゃんに返事は催促しない。それは、彼女が決めることだから。本人が決めなきゃ、これからやる事に耐えることはできない。


 そして、まきちゃんは、決意を示した。


「やります。」


 たったひとことの言葉。それが、まきちゃんを変える言葉。

 優しく正義感があり、頼りになる教師。それが、今日から、冷たく冷徹で、生徒を見放す教師になる。


「あなたの意思の強さに敬意を示すわ。ありがとう。」


 私は、心からまきちゃんに感謝する。


 まきちゃんの決心がついたところで、これからのやる事をさらに詳しく話す。でも、具体的には、まだ話さない。


「まきちゃん。分かってると思うけど、ここから先は、誰にも、気づかれちゃいけないの。私達がSS制度崩壊計画を立てている事を。 最初は私1人で、やるつもりなの。準備も、仲間集めも、全てね。実際に行動する人は、バレた時のリスクが大きいのよ。学校側……いや、奴らは、なんだってするのよ。まきちゃんが想像している以上にね。私達が相手するのは、国家権力を持つ人よ。おそらく拷問だって出来る。実際に、この学校の地下には、生徒や教師を監禁する為の部屋がある。あと、奴らにとっては、1人や2人くらい、事故死や病死として処理するなんてこと訳ないわ。28人の死を隠し通せるくらいだから。奴らは、自分の利益の為なら、生徒を24時間監視することを何とも思わない冷徹な人達なの。」


 まきちゃんは、SS関係者への怒りを抑えられないように、唇を噛み締めた。


「だから、決行するときまでは、私が全部やるわ。それはまきちゃんを信用してないからじゃないのよ。信用していなかったら、今私はあなたに協力を依頼していないもの。私の計画では、決行する時まで、まきちゃんが学校側に怪しまれる訳にはいかないのよ。そして、もし失敗した時に、まきちゃんを巻き添いにしないためでもある。まきちゃんは、最後の砦として、残っていてほしいのよ。」


 まきちゃんは私の肩を掴んで言う。


「それじゃあ、田中先生は、自分だけリスクを負うっていうんですか!」


 まきちゃんは、心配と怒りが混ざったような表情をしている。


「私はね、この11年間、この制度を壊す為だけに生きてきたの。だから、拷問なんて怖くないわ。もしされたとしても、まきちゃんのことは話さないから安心して。っていうか、その前に、この私が失敗するなんてありえないわよ?」


 最後は出来るだけ、明るく言ってみた。まきちゃんを安心させるように。そして、自分にも言い聞かせる。相手がなんだろうと、私は、死ぬ気で準備をしてきた。そして、これからも、一瞬の隙も見せたりしないわ。だから……成功する。成功させてみせる。そうじゃないと、報われないもの。


「確実に制度を崩壊させる準備が出来たら、一緒にやってほしいの。それまでは、SS制度に従順な先生を演じてほしいの。何としてでも、成功させたいのよ。」


 そして、まきちゃんが私の目を見ながらゆっくり頷く。


 私達は、その場を後にした。



 その後、私は1人でモニタリングルームに行く。今日の生徒の様子を見るという目的と、あと一つ。

 先ほどまでの、まきちゃんと私の廊下でのやり取りの映像を、ダミーのものに変える。ダミー映像は、廊下に誰もいない時の映像。

 映像をイジる技術も、11年前の悲劇から、私が身につけてきたものの一つ。私はこの学校について、自分が生徒だったころから、少しずつ情報を集めてきた。生徒の個人情報ファイルが見れる機械の暗証番号だって、監視カメラの死角だって把握してる。

 今まで、SS制度崩壊の為に、生きてきたんだもの。だから、国が相手だろうと、この計画を達成してみせる自信はあるわ。

 モニタリングルームでの作業を終え、体育館の近くの廊下へと足を進める。

 おそらくそこには、彼女がいる。


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