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第五話 『バッドエンド』

 話の方向性がうまくつかめず、東山はたずねる。


「えっと……、どういうこと?」


「桃太郎の話には鬼が登場するだろ。鬼ってのは怪物としての鬼だけじゃなくて、式神としての鬼、鬼神なんかもあるじゃないか。陰陽師が使役するやつだな。桃太郎の話に登場するのは式神のほうの鬼なんだよ。で、村は陰陽師の隠れ里みたいなものなんだ。そうだとすればあの話の不可解な点に説明がつくのさ」


 なんだか話がおかしな方向に走り始めたな。

 そう思いつつも、東山はいちおうノートにメモをとる。


「鬼たちは村人によって生み出された式神なんだよ。だけど、何かしらの理由で制御できなくなり、鬼たちは術者の手を逃れるために近隣の離島へ逃げたんだ。村の秘密を知っている鬼が外部の人間と接触すると、村にとって困ったことになる。そこで村人たちは鬼を始末するために新しい式神を生み出した。それが桃太郎なのさ。途中で出会う犬、猿、雉もおそらくは式神の類だろう。で、桃太郎一行は鬼たちを殲滅し、村の秘密を守った。持ち帰った宝物ってのは、村の秘密のことだったんだな」


「あー、なるほどなるほど……。で、この話のオチは?」


「鬼を生み出し、そして殺すために新たな鬼を生み出す人間こそが、本物の鬼だったってかんじでどうだ? 鬼は自らの心のうちにいる、みたいな教訓も追加で」


「いやいやいや、後味悪すぎでしょ。そこはさ、無理やりにでもハッピーエンドにしたほうがいいんじゃない?」


「ハッピーエンドってのは、つくるのが難しいんだよなぁ。バッドエンドのほうが簡単なんだよ。大体、この救いようのない話をどうやって救うつもりなんだ?」


「それは、たとえばほら、桃太郎が鬼たちを説得して、村に連れて帰るとか」


「逃亡した鬼たちを村人が、いや術者が許すとでも思うか?」


「うーん、じゃあそこも桃太郎がうまく説得を……」


「ついでに言うと、桃太郎も命令に逆らったんだから、ただじゃすまないよな」


「桃太郎を巻き込まないで!」


「そもそも桃太郎の童謡だと、桃太郎とその一味はおもしろいおもしろいと鬼たちを切り伏せて分捕りものをえんやらやしてるんだぞ。そこは原作を忠実に再現してだな」


「なんでそこにこだわるんだよ! 大体、式神とか陰陽師とかもうすでに十分原作クラッシュしてるって。そもそもクラスの女子同士で殺し合いの、いや、一方的に虐殺されていくシーンをやらせるのは、さすがにいやだよ」


「大丈夫大丈夫。最近は少女同士の血生臭いバトルロイヤルってジャンルも市民権を得ているから、受け入れられる余地はある」


「どこの世紀末の市民の話だよ」


「それにな、特進クラスの女子がバッタバッタとなぎ倒されていくんだぜ。他のクラスの女子にとっちゃ、ざまあみろってかんじで受けると思うんだ。自分たちより上の連中が無様に倒されていくさまを見物するのは、さぞかし気分のいいことだろうよ」


「なんでそんな歪んだ方向性の支持を集めようとするの。もっと正攻法を目指そうよ」


「じゃあ、他にアイディアはあるのか?」


「…………ない」


 今は、と東山は小声でつけ加えた。

 西野はやれやれと首を振り、東山は力尽きるように机に突っ伏した。


 教室のドアが開いたのは、それから間もなくのことだった。

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