第十四話 『百パーセントの自分の意思で』
去年の事件には、まだ続きがある。
教室が混乱状態に陥っている中、騒動を知らされた担任が駆けつけてその場はおさめられ、一組の展示は中止ということになった。
西野をはじめ何人かのクラスメイトは徹夜で修復作業をしたいと申し出たが、許可は下りなかった。
明日の朝一番に学校で作業をする分にはかまわないとのことだったが、それでは時間が足りない。
結局、一組の生徒は潰れたジオラマを残したまま、教室を去らなければならなかった。
そしてその日の、午後九時過ぎ。
東山は作業道具一式を詰めたバッグを背負って、校舎内に侵入した。
「まさかあんなにあっさりと侵入できるとは思わなかったよ。吹奏楽部や合唱部が最後のリハーサルでまだ残ってたからだろうね。セキュリティシステムも作動してなかったし。教室のドアは閉まってたけど、窓は一か所だけ鍵が開いててさ、もうほんと出来過ぎなくらいに順調だったんだ……。あー、でも、こういうことを聞きたいわけじゃないよね」
考えを整理するように、東山は息を吐く。
「じつはさ、どうしてあんなことをしたのか、僕にもうまく説明できないんだ」
それは本当に、正直な答えだった。
「僕ってさ、昔から自分の意思で何かをしたってことがほとんどないんだ。この学校に進学したのも親に行けって言われたり、春太郎が目指してたから、じゃあここでいいかなって思っただけで、純粋に自分の意思と言うか、信念で決めたわけじゃない。少なくとも、百パーセント自分の意思で決めたわけじゃないんだ」
話しながら、東山は思う。
今までの人生は、本当にそういうことの繰り返しだった。
読書が趣味になったのも、そもそものきっかけは姉が買ってきた一冊の文庫本だった。
いつも誰かの影響を受けてばかりだった。
自分で何かを決めるということが、ほとんどなかった。
そしていつからか、自分が何をすべきなのか、何をしたいのか、わからなくなっていた。
去年の、あの事件の時も。だから。
「何もできない自分が、とても情けなくて、悔しかった。あの時、クラスが大変なことになっているのに、僕は何をすればいいかわからなくて、結局何もできなかった。学校から家に帰る時も、家に帰ってからも、ずっと頭の中がもやもやしてたんだ。そのもやもやに我慢できなくなって、それでつい、やっちゃったんじゃないかな」
結局のところ東山一人の力ではジオラマを完全に修復することはできず、おまけに途中で眠ってしまい、明け方に見回りをしていた教頭に発見され、彼は厳罰をくらうことになった。
しかし東山の努力もあって、朝一番に修復作業をしに来た西野たちの手によりジオラマはなんとか展示できるレベルまで修復できた。優勝は逃したものの、一組の努力はしっかりと人の目に触れることができた。




