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レイカは真子と共に、『復讐の彼方』の上層を歩く。
既に何度かアンデッド系のモンスターとエンカウントしたが、それらを瞬殺しながら突き進んでいた。
:ここまで何回かアンデッド出てきたけど、レイカさまが拾った石ころを指で弾き飛ばして瞬殺してたなwww
:アンデッドを投石で倒す女www
:頭を潰せばアンデッドも動かなくなるからwwww
:ふつうは聖属性が付与された特殊な武器や魔法で倒すものなんだがwww
:真子ちゃん見てるだけで退屈そうだなwww
:パイセンはしっかりリアクションしてただろwwww
:レイカさんが石ころを弾き飛ばしてアンデッドの頭を撃ち抜いたら、真子ちゃんは唖然としてリアクション取ってたよwww
:レイカのムチャクチャさには前回の配信で慣れたと思っていたけど、こうして改めて見てると、やっぱり頭おかしくなりそうだよ……(お父さん)
:お父さん気を確かにwww
:娘が石ころでアンデッドの頭を撃ち抜いてたら参っちゃうよねwww
:はたしてお父さんは、最後まで配信を見つづけられるのかwwww
:ところでいま何階層だっけ?
:確か第三階層だな!
:わかってたけど、はえええよ!
:出てくるアンデッドたちほぼ秒殺だから仕方ないwwww
:ダンジョンに入る前は心配だったけど、レイカさまの戦闘を見てて何も心配する必要はなかったと確信したwww
:このまま最深部まで行けちゃいそうだwww
左腕に装着したスマホを見ながら、レイカはニコリとする。配信を開始したときよりも同接が伸びているし、コメント量も増えている。これならランキングは上昇しているはずだ。
上機嫌に歩いていたレイカだが、いきなりその足を止める。展開した感知スキルに引っかかるモノがあった。
「多いわね」
隣にいる真子も気づいたようで、腰のロングソードを抜いていた。
レイカは前方に目を凝らす。
複数の足音が近づいてくると、暗がりのなかからモンスターの群れが現れた。リザードマン、オーク、コボルトと種類は様々だ。それらは肉体の表面が腐敗しており、四肢の一部が欠けていたり、眼球が飛び出していたりして、どれもこれもアンデッド化していた。
:たくさん出てきたぁ!
:二十体はいるな!
:ここまでの道中もそうだったけど、やっぱアンデッド系は外見が怖いな……
:絵面がホラー映画そのものや!
:ホラーが苦手な人はこのダンジョンはダメだろうな……
:レイカさん石ころを飛ばして頭部を撃ち抜くんだ!
アンデッドの群れと相対すると、レイカは思考をめぐらせる。
これまでと同じように、ただ石を飛ばして頭を撃ち抜くだけでは芸がない。配信を盛りあげるためには、なにか工夫しないと。
レイカは右手を前方に向けて突き出した。目の前の空間が揺らぐと【アイテムボックス】のなかから、とあるモノを引っ張り出す。
:空間が歪んだ!
:【アイテムボックス】からなんか取り出したぞ!
:異世界の装備か!
:首輪……?
:真っ黒な首輪だ!
:なんかあの首輪、見ててゾクッとしたんだけど……
:探索者だが、あの首輪からはとてつもないまがまがしさを感じる!
レイカの右手に握られた黒い首輪がカメラに映されると、コメント欄がザワついていた。視聴者たちは、なんとなくだがこの首輪の危険性に気づいているようだ。
「レ、レイカ……。それって異世界の装備なの?」
前回のダンジョン探索では、異世界の装備に目を輝かせていた真子だったが、この首輪からはよからぬ気配を感じ取っているようで、肌をあわ立たせながら尋ねてくる。
怖がっている真子に、レイカはニッコリと微笑みかける。
「真子先輩」
「え? な、なに?」
カチッ。
音がすると、黒い首輪が真子の首にはめられた。
一体何が起きたのかわからずに、真子は呆気に取られている。
:……え?
:はめた?
:真子ちゃんに首輪をはめたぞ!
真子の首に装着されると、黒い首輪が光を放った。邪悪さをふくんだ真っ黒な輝きが辺りを照らす。
その光に反応するように、アンデッドの群れは「キシャアアアアアアアアアア!」「グガアアアアアアアアアア!」「ガルルルルルルルッ!」と獰猛な雄叫びをあげてくる。
さきほどよりも凶暴化したアンデッドの群れが一斉に駆け出してくると、真子に向かって殺到してきた。
「ひっ……!」
なぜか大量のアンデッドたちから狙われることになった真子は、悲鳴をあげる。
だが、殺意に満ちたアンデッドたちが真子のもとに到達するよりも速く、レイカは手近にあった大きめの石を拾うとそれを握り砕き、ダダダダダダダダダダダダダッと破片を指で弾いて飛ばした。
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボッ!
連射される石の破片がアンデッドたちの頭部を撃ち抜き、次々と転倒させていく。
:レイカさんが石の破片を飛ばした!
:アンデッドたちの頭を撃ち抜いて吹き飛ばしてる!
:てか、アンデッドたちなんかおかしくないか?
:これまで出てきたヤツよりも凶暴化してる!
:積極的に真子ちゃんを狙ってるぞ!
:もしかして、あの黒い首輪のせい?
「みなさんが察しているとおり、アンデッドさんたちの様子がおかしいのは黒い首輪が原因ですね。あれは『呪いの首輪』といって、装着した者は周りのモンスターの敵意を一身に集めて狙われるんです。しかもモンスターを凶暴化させて、戦闘能力を高めてしまいますからね。うかつにはめてはいけませんよ」
「え?」
首輪について得意げに説明してくるレイカを、隣にいる真子が真っ青な顔になって見ていた。
:うかつにはめてはいけませんよって、注意してる本人が真子ちゃんにはめたんですがwwww
:呪われた首輪を真子ちゃんにはめるんじゃないwwww
:なんてものをはめてんだwwww
:隣で説明を聞いてた真子ちゃんが、信じられないものを見る目で、ドヤ顔のレイカちゃんを見てて大草原!
:レイカちゃん、視聴者に伝わるように首輪の説明をきちんとしててえらいわ(お母さん)
:首輪の説明はいいとして、その首輪を先輩にはめるのはよくないだろwwww
:お母さんはレイカさんのやることなら、なんでもオッケーなんだなwwww
「ちょっ、これ……! 外れない! 外れないんだけど、この首輪っ!」
真子は左手で首輪をひっつかみ、力任せにガチャガチャと引っぱる。だけどぜんぜんビクともしないし、壊れる気配もしなかった。外すための仕掛けも、どこにも見当たらない。
ガッチリと締めつけてくるように、真子の首にからみついている。
「真子先輩ったら。それは『呪いの首輪』ですよ。名前のとおり、呪われているので外れませんってば」
レイカはおかしそうに笑いながら人差し指を立てると、パチンとウィンクをしてくる。
それを聞いていた真子は、崖から突き落とされたように愕然としていた。
:なにわろとんねんwwww
:笑いながら残酷なことを言ってるんですが、この血塗れ女wwww
:レイカさんが笑ってるのに、真子ちゃんが絶望してるという構図がおもしろいんだがwwww
:二人の温度差やべぇwww
:ウィンクかわいいwwww
:きゃああああああああああああああああああああ! レイカちゃんのウィンクかわいいいいいいいいいいいいい! もっとしてええええええええええええええ!(お母さん)
:母ちゃんうるせぇなwwww
:お母さん黙ろうwwww
:うちの娘の倫理観がズレてるのは、異世界に行ってたせいだと信じたい……(お父さん)
:違いますwww
:残念ながら違うよ、お父さんwwww
:これまでの配信を見るに、たぶん倫理観だけは異世界に行く前からおかしかったwwww
:すべてはダンジョンハンターとゲームの影響かとwwww
:小林レイカという女の子は、異世界に行く前から狂ってたと思うwwww
:ダンジョンハンターの作者がこの配信見てたら、胃が破壊されてるかもなwwww
レイカは石の破片を飛ばしてアンデッドたちを撃ち抜きながら微笑むと、異世界で過ごした日々を振り返る。
「異世界でルリアさんにその首輪をはめたときも、凶暴化したモンスターの群れに狙われて泣き叫んでいましたね。ふふっ、今となっては懐かしい思い出です」
:コラwwww
:その首輪、ルリアちゃんにもはめてたんかいwww
:どんな思い出だよwww
:笑って振り返るような思い出じゃないだろwwww
:聖剣寝取られて、モンスターの集団に襲われて、勇者かわいそすぎだろwww
:ルリアちゃん、レイカさんに関わったせいで散々だなwww
異世界での出来事を思い返すと、視聴者たちからツッコミのコメントが寄せられた。隣にいる真子もドン引きしている。
「アレで最後のようですね。てい!」
石の破片を飛ばして、残っている最後の一体のアンデッドの頭部を撃ち抜く。
これで全てのアンデッドを殲滅することができた。
ただ石の破片を飛ばすよりも、こうやって異世界で入手した装備を見せていったほうが、やっぱり盛りあがるみたいだ。
レイカが満足げに微笑んでいると……ボコッ、ボコッ、ボコッとあちこちの地面がふくらみはじめた。そこから腐った腕が生えてくる。新たなアンデッドたちが、しゃがれた声をあげながら地中から這い出てきた。その数は、さっきの倍以上もいる。
アンデッドの群れが湧き出てきたのを目にして、真子は背筋を震わせる。
:たくさんのアンデッドたちが地中から出てきたぞ!
:ガチもんのホラー映画やん!
:なんでこんなに出てきたんだ!
:もしかしてこれ、あの呪いの首輪の影響か!
:首輪に引き寄せられてアンデッドたちが出てきたのか!
:どうすんだよ!
:でもこれだって、レイカさんの計算のうちだろ?
:首輪を取り出した時点で、こうなることは織り込み済みだったはず!
:言われてみればそうだな!
:焦らなくても大丈夫だ!
:一瞬ガチで焦ったよ……
『呪いの首輪』に引き寄せられて、新手のアンデッドたちが地中から出てきたが、レイカにとっては想定内のことだ。視聴者たちはそう信じていた。
「あ、あれ? やば……」
:おおおおおおい! レイカさんが焦ってるぞwwwww
:ぜんぜん大丈夫ではないようですがwwww
:計算のうちだと思っていたけど、まったく計算できてなかったwwww
:この子ふつうにめっちゃ驚いてるんですがwwww
:そういえばレイカさんは黒髪ロングのクール系な外見に反して、中身はおバカだったwwww
途方もない数のアンデッドたちが出現すると、レイカは少しだけ動揺してしまった。コメント欄も荒れている。
視聴者たちを落ち着かせるために、レイカは平静を装って話しかける。
「し、心配はいりません。すべて計算どおりデスヨー」
:ウソつけwwww
:俺にはわかる、これはウソだとwwww
:いまのリアクションでウソだと判明したwwww
:演技下手すぎるwwww
:とりあえずレイカさん、カメラから目をそらさずに喋りましょうねwwww
:レイカは演技力が終わってるんだから、ちゃんと本当のことを言いなさい(お父さん)
:演技力が終わってるwww
:演技力が終わってるのは親公認だったwwww
冷や汗を流しながら言い訳してみたが、バレてしまった。




