28
そして画面内の映像が切り替わると、火の手に囲まれた都市の中央広場が映し出された。そこには、二つの人影があった。
一つは獅子の頭部を持ったモンスターだ。大柄な肉体には黄金の鎧を装着していて、二本の足で仁王立ちしている。全身から放たれる威圧感は、都市で暴れている他のモンスターたちの比ではない。
強烈な存在感を放つ獅子頭のモンスターと対峙しているもう一つの人影は、破損した白銀の鎧を身にまとい、黄金の光を帯びた剣を握っている金髪の少女だ。美しい顔は疲労感から曇っており、窮地に追いつめられているのは一目瞭然だった。
:あれは!
:このまえの女の子!
:レイカさんが攻撃した金髪の少女!
:まさか……
「はい。ルリアさんが勇者です。握っている黄金の剣は『勇者の聖剣』と呼ばれるものですね」
異世界に来た直後に出会っていた金髪少女が勇者であることを、レイカは淡々とした口調で視聴者に伝える。
:ルリアちゃんが勇者だったのか!
:な、なんだってええええええ!
:言われてみれば、聖剣っぽい金ピカの剣を握ってる!
:ピンチみたいだな!
:鎧がボロボロだし、かなり疲れてるようだ!
:獅子頭のモンスターのほうは、ぜんぜん余裕って感じだな!
:レイカさま異世界に着いて早々に勇者を攻撃して、仲間にしそびれてたのかwwww
:やっぱ進むルートまちがえてただろwwww
「ちなみに敵対しているライオンさんは、獅子王さんといってモンスターたちの首領になります。結構強い方のようです」
:ライオンさんってwwww
:確かに頭部はライオンだけどもwwww
:映像越しでも迫力がスゴいのに、レイカちゃんのライオンさん呼びで獅子王の格が落ちたwww
ルリアのことだけでなく、敵のモンスターについても解説を入れる。これで視聴者もおおまかな状況は把握できただろうと、レイカは胸を撫で下ろした。
:というかレイカちゃんいないな?
:レイカさんがいないのに映像が表示されてる?
:なんでだ?
「【記録魔法】は、わたしが不在のときの様子も映せるんですよ。おそらくわたしがいないときの出来事も、なんらかの力で記録されていたんでしょう」
:相変わらず説明がフワッとしてるなwww
:レイカさんよくわかってないまま、記録魔法を使ってるだろwwww
:レイカ。物を使うときは、ちゃんと説明書を読まないとだめだよ……(お父さん)
:お父さん、魔法に説明書なんてないですwww
:レイカさまは説明書とか読まずに家電とか使っちゃうタイプなのかwww
:レイカちゃんがいないなら、別にこのシーン飛ばしてもよくない?(お母さん)
:よくねぇよwww
:ボロボロの勇者とライオンさんが敵対してるのに、お母さんぜんぜん興味ないなwww
:お母さんが興味あるのは娘のことだけですwwww
両親もまじえてコメント欄が盛りあがっていると、映像のほうで動きがあった。
「っ……! わたしは、こんなところで倒れるわけにはいかない!」
ルリアはなけなしの力を振りしぼって叫ぶと、聖剣を構えて駆け出した。獅子王のもとまで突っ込んでいって斬りかかる。
振るわれた黄金の刃が半月を描く。
だが、弾き飛ばされたのはルリアのほうだった。
獅子王は一歩だけ横に動いて斬撃を造作もなくかわすと、剛腕を振るってルリアを殴り飛ばした。
後ろに吹き飛ばされたルリアは「ぐっ!」と顔をしかめながらも、転倒しないように体勢を保って立っていた。けど、鎧越しとはいえ相当なダメージが入ったようで、ガクリと地面に膝をつく。
:強い!
:え? いま何したの?
:動きがぜんぜん見えんかった!
:ルリアちゃんの姿がブレたと思ったら、吹っ飛ばされて膝をついてたんだが!
:探索者の目から見ても……勇者と獅子王はかなり強い!
:特にあのライオンはヤバい! こっちの世界にある高難易度ダンジョンの最下層ボスより強いかも!
:そんなのが地上を動きまわってるとか、異世界恐ろしすぎるんだが!
:ガチで地獄みたいな世界だな!
かがみ込んだルリアを目にすると、獅子王は「グルルルル!」と牙を剥いてくる。
「どう見ても力の差は歴然です。それは獅子王さんと対峙したルリアさんが、一番よくわかっていたでしょう」
レイカは映像を見ながら、ルリアの心情を代弁する。
「くっ……! ダメなのか? わたしはここで……」
ルリアは悔しそうに眉間をひそめると、顔をうつむかせた。まとっていた戦意が薄れていく。
心が折れて敗北を認めれば、死が待っている。死ぬのは自分だけではない。今も泣きながら逃げまわっている都市の人々だって救えなくなる。
それがわかっていても、現実はどうしょうもなくて、もうルリアは立ちあがることができなかった。
ルリアは全てを投げ捨てて、諦めようとする。
そのときだった。ルリアの周りに、幽霊みたいに透けている半透明の人物たちが浮かびあがってきた。
「おまえはまだ、その聖剣の真の力を引き出せておらん! 信じるのだ! 己が勝利する未来を!」
浮かびあがった白髪の老人が、そう叱咤してくる。
「もう俺の言葉を忘れちまったのか? おまえさんならなれるって、言ったはずだぜ? 本物の勇者ってやつにな」
半透明をした黒髪の中年男性が笑いながら、親指を立ててきた。
「わたしたちと過ごした日々を思い出して。そうすれば、きっとまた立ちあがれるよ。あのときから、ルリアは立派な勇者だったんだよ」
半透明の青いロングヘアの女性が、はげますように笑いかけてくる。
「師匠……! みんな……!」
浮かびあがった半透明の人たちの声を聞くと、ルリアは顔をあげて瞳に涙をにじませた。
:いや、誰だよこのオッサンたちwwww
:なんか急に知らんキャラが何人も出てきたぞwwww
:半透明の知らない人達がいきなり出てきたんですがwwww
:結構重要なキャラっぽいwwww
:なんてこった! 大事なシーンなのに誰一人わからねぇwwww
:感動するところなんだろうけど、意味わかんなすぎてポカ~ンだわwww
:レイカ! ちゃんと説明して!(先輩)
「【記録魔法】がわかりやすく、ルリアさんの頭のなかに浮かんだ人達を映し出しているようですね。それと、このシーンは前に映像を見せたときよりも、だいぶ時間が経ったあとになります。その間に、ルリアさんにもいろんな出会いがあったんでしょう」
:レイカさんが異世界に来てから、結構時間が経過したあとのシーンなのかwww
:イベントを飛ばしすぎてるwww
:できれば時系列順に見たかった……(先輩)
:パイセンに同意www
:冗長だとしても時系列順に見たいなwww
:レイカちゃんが飛ばしすぎたせいで、キャラに感情移入できないwwww
:漫画を数巻とばして見せられてる気分だwww
:シーズン1から、いきなりシーズン5まで来たようなものかwww
:なんでここまで一気に飛ばしちゃったんだよwwww
本来であれば、盛りあがるはずのシーンなのだろうが、レイカがいきなり飛ばしすぎたせいで、視聴者たちはついていけなかった。




