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魔人は暗い瞳を二人の侵入者に向けてくると、右手を前に突き出す。魔人の肉体から微量な魔力が発せられていき、そのかたわらで光が生じた。
光のなかから黒い体毛におおわれた、一メートル半ほどの大型の犬が飛び出してくる。
:犬!
:黒い犬!
:なんか召喚してきた!
:魔犬!
魔人が黒い犬を召喚してくると、コメント欄が浮き足立つ。
真子も目つきを鋭くして、警戒心を一気に引き上げた。
「ガルルルルルルルルッ!」
魔犬は牙をむきながら唸り声をもらすと、地面を蹴って駆け出した。殺意を帯びながら疾走し、レイカたちのもとまで迫ってくる。
「やるわよ、レイカ!」
真子はレイカに声をかけると、返事を待たずに前に出ていき、左手を剣から離した。
真子先輩が戦っているところも視聴者は見たいでしょうからね。そう思って、レイカはうなづいた。
真子は突き出した左手に魔力を集中させると、青い光を放つ。発射された魔力の光は直進していき、迫ってきていた魔犬にヒットする。「キャン!」という金切り声をあげて、魔犬は転倒した。
そのときには既に魔人は次の手を打っていた。
魔人が右手を天井にむかって伸ばすと、頭上で光が生じる。光のなかから、カラスを巨大化させたような大型の黒い鳥が召喚された。
:今度は別のヤツが出てきたぁ!
:でっかいカラスみたいなのだ!
:デカイ鳥とか怖ええええ!
「っ……!」
真子は宙を浮遊する魔鳥に狙いをつけて、左手から魔力の光を連続で放った。
「キシャアアアアアアア!」
数発の青い光が宙を駆けていくが、魔鳥は両翼をひろげて巧みに飛びまわり、全弾ともかわしてくる。
その間に転倒していた魔犬が起きあがって、再び疾走して真子たちのもとに迫ってきた。
一方で魔人はさらに魔力を放つと、地面から光を生じさせる。
続いて召喚されたのは、二メートルを超える大型の黒い猿だ。
:今度は猿!
:黒くてデカイ猿だ!
:魔猿!
:どんだけ召喚してくんだよ!
とてもじゃないが対処が追いつかない。焦燥感をつのらせる真子のもとに、魔犬が獰猛な叫び声をあげて跳びかかってくる。
真子は地面を蹴ると、左に跳んでかわす。ガチリという魔犬の牙が噛み鳴らされる音が聞こえた。
「グアアアアアッ!」
その直後には、距離を詰めてきた魔猿が拳を振りあげて殴りかかってきた。
真子は右手に握っていた剣の腹で、叩きつけられる拳を受け止める。鈍い音が鳴ると衝撃が肩まで突き抜け、踏ん張りが効かずに吹き飛ばされる。ズザザザザザッと靴底が地面を擦れて、後退を強いられた。
真子は全身が熱くなって、呼吸が乱れる。今の打撃で右腕が麻痺したようにしびれていた。
魔人が召喚した三体のモンスターは、ボス部屋に来るまでに戦ってきたモンスターたちよりも明らかに手強い。
:あの犬、鳥、猿は強いぞ!
:真子ちゃんがピンチだ!
:レイカちゃんたち大丈夫なのか!
:逃げたほうがよくないか!
:…………(お母さん)
:た、た、大変だぁレイカぁ! か、母さんが包丁を取り出したぁ!(お父さん)
:包丁!
:いやwww なんでだwww
:お父さんがピンチだなwww
:小林家もピンチwwww
:お母さん怒りを静めてwwww
:レイカさんなら、きっと大丈夫だからwwww
なぜか自宅にいる信治がピンチにおちいっている。どうやら恵美がレイカのことをとても心配しているらしい。
レイカはスマホ画面から顔をあげると、近くにいる魔犬と魔猿を見る。
その二体は「ガルルルルッ!」「グアアアアッ!」と吠えながら、黒い毛を逆立ててレイカを威嚇していた。だが、レイカに近づくのは危険だと直感でわかっているのか、攻めてはこなかった。
「なにかきますね」
レイカがつぶやくと、魔犬、魔鳥、魔猿の姿がかすんでいき、細かな粒子状となって散っていく。三体の粒子は魔人のもとまで流れていき、その身体のなかに吸い込まれていった。
:犬、鳥、猿が吸収された!
:魔人の様子がなんか変だけど……!
:魔人の魔力量がふくれあがってる!
召喚した三体を吸収した魔人からは、怖気立つような膨大な魔力がほとばしっている。
そのプレッシャーに、真子はヒュドラに追いかけ回されたとき以上の死の予感を覚えた。
魔人は両腕を交差させる。カッと目を見開くと、重ね合わせた両腕を左右に向けてひろげた。魔人が内包している大量の魔力が赤い光となって放出されて、地響きを立てる。
放たれた赤い光は大地を震わせ、ボス部屋のみならず外部まで破壊する勢いで膨張していく。
とてもじゃないが回避なんて不可能だ。




