第1話『プロローグ』
一、芋虫アバターで正しい姿勢を取ること。
一、蜘蛛アバターで正しい姿勢を取ること。
一、蛙アバターで正しい姿勢を取ること。
人間の進化を描いたドキュメンタリーよろしく、『セイマン・アース・オンライン』は清らかな正しさを追い求めたVRゲームだった。
正しい姿勢を取ると6時間ごとに進化を遂げて、100周する頃には人間アバターとなっている。救いようのないVRゲームが世に蔓延る中、『セイマン・アース・オンライン』は万民に救いようのある結末を与えた。
『セイマン・アース・オンライン』、俗称『セイマン』は開発元が海外に拠点を置くVRゲームで、洋ゲーとひとくくりにされてしまった曰く付きのゲームである。
人間へと進化するためには100日の苦行に耐えなければならない。正しい姿勢とはすなわち…………
「――――よし。頂点種になった」
俺、二木探吾はこのゲームで頂点を極めた達成感を得ながら『セイマン』をスタートした。
アバターは人間。そう、まさしく人間だ。
キャラメイクを施した6時間はあっという間だった。人間アバターになれたのは幸運だった。人間の域を出なければどんなキャラメイクも可能なので心が躍る。
芋虫から苦行だった。
真人間に至るためのプロセスを経たようであり、人間の過去を崩壊させるプロセスを経たようでもある。
人生というログをリセットされた気持ちになれた。リアルで死ぬほど暇じゃなければ100日も無駄にしないよな。
俺はリアルの100日をこのゲームにベットした。
そして頂点に至った。
頂点に至った最初の人間かと言うと、このゲームが1年前に発売されていることから察して欲しい。他にもいるにはいて何やらよからぬことを企んでいるという。
小耳に挟んだ程度では、昨今問題となっているモンスターの出現と密接に関わっている。現実世界でモンスターが現れるようになったのだ。
「ステータスは……こんな感じなのか」
ステータスウィンドウを見て俺は唸り声を上げる。
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名前 ダン伍
【ハンターランク】 S
【モンスターランク】 S
【ダンジョンランク】 S
【アタックランク】 S
【ブレイクランク】 S
HP 400
MP 400
SP 400
DP 1000
スキル
称号
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【ハンターランク】、【モンスターランク】、【ダンジョンランク】、【アタックランク】、【ブレイクランク】はそれぞれ晩成期間で全く別のステータスに昇華される。それまではアルファベットと数字での表記だ。
全てS判定なのは人間の特権である。超越した人類に至るためには100日の苦行に耐えてS判定を取らなくてはならない。
HP、MP、SPの次にあるDPでガチャを回せて、ランクやスキル、称号、アイテムなどを獲得出来る。このDPも正しい姿勢を取り続けると増えていく。
「【モンスターランク】だけは勘弁だな。自動的にランクSだけども」
ランクは鍛えれば上がる。初期画面から鍛えられる。ステータスポイントの割り振りがない代わりに鍛えれば上がる仕様だ。
がむしゃらに鍛えるとSランクからAランクに落ちたりする。俺は少なからず事前情報を得てから始められた。オールランクSのプレイヤーだ。
「ガチャを回すか」
DP300を消費してガチャ3回を回す。
・スキル 【アイテムボックス】(UR)
・スキル 【直剣術】(R)
・【モンスターランク】(+2)
【モンスターランク】……! 不味い。ランクSからランクSSSになってしまった!
【モンスターランク】を上げると社会的に殺される。ガチャ運がないとリアルで抹殺されるんだ。何を言おう、モンスターによってだ!!
【モンスターランク】が高まった者は強制デスゲームとなる。
俺は【モンスターランク】が上がってしまった。【ダンジョンランク】と相殺出来るという検証結果はあるが、【モンスターランク】が上がったら最後と巷では囁かれる。
「【アイテムボックス】と【直剣術】か……URだとかなりの強スキルだ」
SRには【魔剣術】や【魔杖術】というMP消費の大技がある。リアルに反映されると心強いスキルだ。モンスターをワンパンで倒せるんだ。
「【モンスターランク】が上がった以外は良かった方だな!」
残りのDPで武器を調達してひとまず準備は整った。
モンスターを倒すごとにランクは上がっていく。ランクが上がるとHPなどの能力値が上がる。
直剣を装備してDPは空になったので、ガチャを回すにはモンスターを倒してDPを稼ぐ必要がある。
『このアバターでゲームを開始しますか?』
初めて選択画面が出てきて、俺はようやく初期画面から解放された。
濃い森の中に霧が立ち込める。
冷徹な生き物が周囲をうろつく気配がしてびくりと肩が跳ねた。
「怖いな。ここまでリアルなのか」
茂みに隠れてじっとしたくなる恐ろしさに突き動かされた。ひょいひょいと木を登ってSランクの身体能力を確認する。
「いいな! 快適に動ける!! これがSランクだ!!」
大きな声を上げると遠くの小鳥が飛び立った。視力補正まであるのか。至れり尽くせりだな。
「本当にゲームとは思えないほどリアルだ。痛みはないよな」
痛覚パラメータの設定に誤りがないのを確かめる。
リアルと遜色ない仮想空間で、初期画面からリアルさを追求。根も葉もない噂ではあるが、ゲームの世界が現実に飛び出してくるような錯覚を抱いても無理のない濃密なフィールドだ。
「蜂型モンスター。プレイヤーか?」
木の上から見回すと、蜂型モンスターや蝶型モンスターが散見出来た。プレイヤーカーソルが見えてふむと頷く。
「近付くと取って食われそうだな」
「きゃああああっ!」
「……ただの悲鳴だよな?」
近くから悲鳴が聞こえた。物騒な森だと悲鳴からは遠ざかる。
大半のプレイヤーはモンスター種。
100日の苦行に耐え抜いていない劣等種たちだ。関わる時は狩る側としての意地を見せなくてはならない。
「蜘蛛だ」
「シャアアアッ!?」
体長1メートルの蜘蛛を見て反射的に直剣を振るっていた。
ズシャリッと重たい斬撃が響いて、地面すれすれに止まった剣先を見る。蜘蛛プレイヤーは真っ2つになった。
「人間は狩る側だな。はっはっはっ」
プレイヤー云々を差し引いてもモンスターのように突撃してくれば相応に対処する。
殺してしまった罪悪感は特になく、俺は悲鳴の上がった場所に近付いた。経験値と割り切ってしまえばいいんだ。
「しかしそれだと【モンスターランク】が上がってしまうか……? あ、ゴブリンだ」
「グギャギャッ!」
ゴブリンは天然のモンスターでいくら斬ってもランクに響かない。プレイヤーを倒すと悪影響がありそうなのでゴブリン討伐だ!




