第11話 俺なら、もっと成功させられる
――男爵視点――
「いやー、この万年筆、男爵領の工房のブランドらしいじゃないですか!……素晴らしいですな。しかも、自分からは言い触らさないとは」
初めて見る物だった。
しかし、目の前の人物はさらに語る。
「すでにこれに目を付けている投資家も多い。いやぁ、投資先を探す振りをして顔を売ってたんですか?」
何も答えられなかった。
答えた瞬間に笑いものになってしまう。私は黙って笑顔でその夜会をやり過ごした。
どうやら、知らないところで、わが領の工房が成功させたらしい。
夜会で話しかけてくる貴族たちは、好意的になった。
今日の夜会では、今までの態度が一転していた。
今までは田舎の下位貴族だと相手にされないことも多かったというのに。
――運が回ってきた。
うちの領地の工房が、上手くやったらしい。
そういう芽は、放っておいても伸びるものだ。
先代が遺したものが、ようやく実を結び始めただけだ。
ここで失敗しなければ、
俺を見下してきた連中を見返せる。
俺なら——、
もっと、成功させられるだろう。
いい気分で、タウンハウスに戻った。
投資がしたいという貴族も多かった。
まだ全体を把握できていないから後日……。
そして、そのまま眠ってしまった。
夜会で、少し飲み過ぎたようだった。
◇◇◇
「私はずっと先延ばししていたんです。……ですが、それもここまでです。行きましょうか、お嬢様」
意味を聞いても仕方ない。
彼は、私に聞かせたかったわけではないのだろう。
ならば、私の言葉は一つで十分だ。
「――ええ。行きましょう」
父の執務室で、先日の事を報告する。
「私の作った物が宰相閣下に気に入られて……。それで貴族が乗り気になったようです」
父は一瞬だけ、喜びの表情をうかべ、わざとらしく深刻そうに私に告げた。
「しかし、お前には縁談が来ていると言っただろう……。私がその事業を――」
「いいえ?ご本人に直接おことわりを入れさせてもらいました。さすが、お父様が見込んだ方ですね。これの価値を見抜いていらっしゃいました」
父はいきなり立ち上がり机を叩いた。
「結婚を断った!?何故だ!領地に金も入る、いい条件だっただろう!」
「やはり、目先の事しか考えないのですね……」
「お前とは話にならん!この親不孝者め!」
父は私の頬を叩き、そのまま部屋を後にした。
ノアが手を差し伸べてくれる。
その手を取りながら、私は笑った。
「いつになったら現実を知るのかしら、ね?」
◇◇◇
慌てて領地まで戻り、話題の万年筆を確かめに行った。
相変わらず、寒くて、何もない。
辺鄙な田舎だ。
「私が領主だ。今、成功している事業を拡大してやろう」
「あんたは俺たちを見捨てただろう。逆転しただけだ」
工房へ向かうが、親方には相手にもされなかった。
「これは、お嬢さんと一緒に作り上げたものです。見ず知らずの人に簡単には譲れない」
余計な事を……!
きっとマレッタが言い含めているに違いない。
「私が、いや、男爵家主導ならもっと上手く売れるだろう。マレッタから全権を奪い返せれば、お前たちの立場も……」
手を広げて声を張ったが、誰も相手にしてくれなかった。
何故だ?
何故こうなった?
我が領地の工房だろう?
誰にも相手にされず、屋敷に引き返した。
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