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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第3節
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43.普通だけど特別なもの

「ただいま戻りました」


 魔法を覚えられなかった私は、トボトボと商人ギルドに帰ってきた。

 ミラは冒険者ギルドに用事があると言って、途中で別れた。

 現状で魔法を覚えることはほぼ不可能に近い。

 となれば、魔法以外で調査隊の役に立ちそうなことが無いかを聞くためだ。


「お、ちょうどいい時に帰ってきたね」

「すみません、魔法は・・・」

「ああ、そのことはいい。それよりも聞きたいことがあるんだが」

「ええと、何でしょうか?」

「以前、冒険者に傷薬をあげたことがあったそうだね?」


 冒険者に傷薬?

 そういえば、薬草集めを手伝ってもらったお礼に、ギルベルタさんに塗り薬渡したなぁ。

 でもブレンダさんには話たことが無いし、何で知っているんだろう?


「はい、それがどうかしましたか?」

「率直に言おう。その薬の作り方を教えてもらえないか?」


 うーん、あれってお母さんから教えてもらったものだけど、別段隠すほどの秘密の製法という訳ではないよね。でも、製薬系ってアルケミストの資格が必要なんじゃないのかな?


「えーと、そんなに難しい物では無いんですけどちょっと・・・」

「何か問題でもあるのかい?」

「そのー、私はアルケミストでは無いので製薬の事とか教えたりするのって大丈夫なのかなーって」

「なんだ、そんなことか。それなら問題は無い」

「それってどういうことですか?」

「そういえば言っていなかったが、エリスはアルケミストの資格を持っているんだ」


 エリスさん、アルケミストだったんだ。

 ということは、黒いローブを着て、大釜でグツグツとポーションを作成していたとか?

 うーん、エリスさんなら黒より白のローブの方が似合いそうだし、作っているものもポーションよりもお茶って感じだよね。

 あの蜂蜜薬草茶すごく美味しかったし、また飲みたいなぁ。


「それだったら、私よりエリスさんに作ってもらった方がいいんじゃないですか?」

「いや実は、既にエリスには作ってもらったんだよ」

「なら、いいんじゃないですか?」

「それがね、効果が全然違うんだ」

「え?」

「だから、リアが作ったものほどの効果が出ないんだ」

「はぁ・・」

「それで、一度エリスと一緒に作ってもらって、何が違うか調べたいんだ」


 そう言われても、入れている材料はもちろん、使っている機材や作り方だって一般的なやり方のはずだ。技術的にはエリスさんの方が上だろうし、私の作ったものよりも効果がありそうなものなんだけどなぁ。


「分かりました。じゃあ、一緒にやってみます」

「そうか!なら準備はこちらでするから、必要な物があったら言ってくれ!」

「えーと、それじゃあ・・・」



 製薬に必要な材料と道具を伝えると、先にエリスさんと地下に行くように言われた。

 このギルド、地下があったんだ。

 エリスさんに話をすると、ギルドの裏の物置小屋に連れていかれた。


「これ、ちょっと持っててください」

「あ、はい」


 私に灯りの付いたカンテラを渡す。

 小屋の端にあった木箱を動かし、その下にあった板を外すと、地下に降りる階段が現れた。


「すごーい!何だか秘密基地みたいですね!」

「中は少し暗いので、しっかり付いてきてくださいね」


 エリスさんの案内で地下へと降りていく。

 ちょっと薄暗いが、足元は何とか見えるくらいだ。

 階段の先には鍵穴の付いた丈夫そうな木の扉があった。

 ここは大事な打ち合わせや、外部に漏らしたくない商品開発をするための部屋らしい。

 そんな場所に私が入ってもいいんだろうか?

 エリスさんの持っていた鍵を鍵穴に刺して回すと、ガチャリと音がする。

 ギギギィと重たそうな音がして、扉が開いた。


「どうぞ」

「わぁ・・すごい!」 


 部屋の中は思っていたより中は明るかった。

 だけど、蝋燭の灯りだけじゃこんなに明るくないはずだ。

 部屋を見渡すと、ところどころにボンヤリと光っている部分がある。あれは苔だろうか?

 灯りで照らされた部屋の中はしっかりとした石造りで、中央には椅子やテーブルも置いてある。

 どこからかチョロチョロと水の流れる音がすると思っていたら、部屋の隅に水路のようなものがあった。水路には飲めそうなくらいに綺麗な水が流れていた。

 ここ、食料があれば何日か籠れそうじゃない?


「お、二人ともいるね」

「お待ちしておりました。いつでも始められます」

「もっと良い器材があったんだが、本当にこんなので良かったのか?」

「はい、いつもの使い慣れた物の方がやりやすいので」

「そうだな。アタシも仕事をするときはいつも使っている道具の方が使いやすいからな」

「じゃあ、材料を仕分けしますね」


 ブレンダさんが見やすいように、テーブル越しにエリスさんと向かい合う形にした。

 材料の量はもちろん、品質も同じになるように分配する。

 あとは手順通りに作るわけだけど、難しい手順が無い分、個人の力量の差はあまり出ないと思う。

 まずは私が先に作り、エリスさんが時間差で追いかけて作るという流れだ。


「ふむ、材料の量も品質も同じようだな。ということは、やはり手順か?」

「じゃあ、始めますね」

「お願いします」

「まずは薬草と毒消し草が均等になるように置いて、形が無くなるくらいまですり潰します」

「はい」


 ゴリゴリゴリゴリ。

 地下室の空間が広いせいか、いつもよりよく響いている。

 この薬を作っている感って、結構好きなんだよね。


「こんな感じでしょうか?」

「はい、全体が均一になっていていいと思います」

「ふむ、ここまでも一緒か。とすると原因は・・?」


 改めて人に見られながら作っているとちょっと緊張するなぁ。

 監視されながら作ってるってこんな感じなのかな?


「で、あとは少しずつ油を加えてペースト状にしていきます」

「はい」


 ネチャネチャネチャ・・・ネチネチネチ。

 よし、音が変わった!

 緑色のクリームの中に、薬草のつぶつぶが見える。


「音が変わってまとまったら、これで完成です」

「こちらも完成です」

「うーん、どちらも全く同じように作っていたようにしか見えなかったな」

「そうですね。作り方も見た目もまったく同じに見えます」

「問題は効果だね」


 ブレンダさんは懐からナイフを取り出し、刃の状態を確認する。

 ・・もしかして私、用済みで消されちゃう?!

 と思っていたら、ブレンダさんは自分の両手の親指を刃に押し当てる。

 親指から血が流れ出てくる。


「ちょ・・ブレンダさん何してるんですか?!」

「ん?ああ、実際に使ってみるのに怪我していないと分からないだろ?」

「だからと言って、自分の指を切ること無いじゃないですか!」

「そんな大袈裟な。大した傷じゃないし、本当に同じ効果ならあっという間に塞がっちまうさ。エリス、頼むよ」

「はい」


 エリスさんがブレンダさんの傷口に、それぞれの薬を塗り込む。

 良く効く塗り薬なのは認めるけど、過信しすぎじゃないかなぁ。

 薬が塗り終わったを確認して、傷口のある方を上に向けて観察する。

 そんなにすぐ効くとは思わないけどなぁ・・


「そろそろだな。残っている薬を拭きとってみてくれ」

「では、私が作ったのから拭き取ってみましょう」

「え?もうですか?」


 そう言って、エリスさんの薬を塗った方の手を拭いて軽く指で押してみる。

 じわっと赤い液体が傷口から出てくる。

 ほら、そんなにすぐに効くわけないじゃない。


「ふむ。じゃあ次はリアの作った薬の方だな」

「はい」

「変わらないと思うけどなぁ」


 私の作った薬も同じように拭き取り、軽く指で押してみる。

 ほら、じわっと赤い液体が・・・あれ、出ない?


「やはりな」

「はい。全く同じ手順で作っていたのに、ここまで効果が違うと正直驚きを隠せません」


 エリスさんは一瞬、少し悔しそうな顔をしたがすぐにいつもの冷静な顔に戻っていた。


「一体、何をしたんだリア?」

「何をしたといっても、同じように薬を作っていただけなんですけどね」

「私もそう思いました。でも、効果が圧倒的に違います」

「そういえば、この塗り薬のことってどこで知ったんですか?冒険者が何とかって言っていましたが」

「ああ、その話か。魔獣討伐の際、二体目が出てきた時にリアの方に吹っ飛ばされていったやつがいただろ?」


 そういえば、そんなこともあったなぁ。

 あの人は大丈夫だったんだろうか?


「そいつの胸に大きな傷跡があって、ものすごい出血をしていたんだ」

「その人、そんな状態で大丈夫だったんですか?!」

「当然、虫の息だったよ。そこに別の冒険者がやってきて、とある人からもらったという塗り薬を使ったんだ。そしたら、あっという間に傷口が塞がって驚いたよ」

「その人は助かったんですか?」

「ああ、傷はもちろん痛みもかなり和らいでいたよ。そのまま最後の片づけまでやっていたくらいだよ」

「良かった・・」

「それで出所を突き止めたら、リアに辿り着いたということだ」

「そうでしたか」

「アタシはアルケミストじゃないからね、エリスが見たら何か分かると思ったんだが・・」

「道具でも材料でもない、作り手自身の特別な能力かもしれませんね」

「それって、魔力うんぬんの話ですか?」

「かもしれないですね。アルケミストは薬を作ることに特化していますが、魔力の無い人も多くいます」

「へぇ~、魔力が無くてもアルケミストにはなれるんだ」

「はい、魔力を持っている人は本当にごくわずかにしかいないですね。大抵は王宮御用達の専属アルケミストですが」

「もしかして、私才能あるのかな?」

「どうでしょう。でも専属アルケミストになるなら、家族の死に目にも会えない覚悟はしないといけませんが」

「うーん、それは嫌だなぁ」

「結局、エリスでも分からずじまいか」

「実は、ちょっと気になることがあるんです」

「珍しいな」

「昔、これと同じ薬を塗ってもらったことがあるんです」

「ほう、それは興味深い。で、どこでだ?」

「15年ほど前の話です」

「15年前、か。ちょうどこの国を(めぐ)って大きな戦争があった時だな」

「はい、あの日私は戦禍から逃れるために家族と共に避難していました」


 エリスさんの口からその時の話が淡々と語られる。

 逃げる途中で家族と離れてしまい、落ちてきた瓦礫で怪我をしてしまって動けなくなったこと。

 エリスさんを助けてくれた白いローブを着た女性のこと。

 その女性が使った薬が、私の使った薬によく似ていたこと。

 そういえば、戦争の時のことは村の勉強会の時でも詳しくは教えてくれなかったな。

 お父さんもお母さんも、その戦争には行ったんだろうか?


「大変だったんですね」

「はい、戦争が終わった後も大変でした」

「その時の怪我って大丈夫だったんですか?」

「はい。ほら、ここですよ。ほとんど分からないでしょ?」

「ほんとだ、遠目だと全然分からないや」

「あの人は、私がアルケミストになる切っ掛けをくれた恩人です」

「じゃあ、お母さんはその人から薬の作り方を教えてもらったのかもしれませんね」

「そうですね。結局、私にはあの薬を作ることは出来ませんでした。しかし世の中、どこに縁があるか分からないものですね」


 縁かぁ・・

 私とユリも、どこかの縁で繋がっているのかな?

 もし繋がっているとしたら、どこなんだろう。

 近いうちに分かるのか、それともおばあちゃんになって死ぬ間際に分かるのかな?


 でも、なんとなく予感がする。

 きっと近いうちに答えが見つかる、そんな気がするんだ。


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