第10話 人は見かけによらない
日が落ちて夜になると、男たちは設営をし始めた。本日はここでテントを建て、野宿をするらしい。
「おい」
「ひ、ひゃい!」
男性陣から離れた所にある石の上で、ちょこんと体育座りで一人座っていた蕾。
『バカ!声が大きい……!』
『す、すいません……!』
後ろから急に声をかけられ、つい裏返った声が出てしまった蕾。軽く男に叱られた。
実は、男は自分の仲間にもまだ蕾の存在は明かしておらず、秘密にしていた。
「……パンだ。今日はこれが夕飯だ」
「わぁー……!ありがとうございます~ッ!」
蕾が渡されたのは男が蕾が食べやすいようにと、薄切りに切ったパンであった。
たかが一切れのパンだが、今の蕾にとっては十分な大きさであった。
「うわぁ~……!頂きますーッ!」
『よかった~!もうお腹ぺこぺこだったんだよね……!』
っといっても、支給されたパンは水分が完全に抜けきっており、石のようにガチガチに硬くなってしまっていた。
もぐもぐ……もぐもぐ……。
「あ、あれ?」
『こ、このパン、ちょっと硬いなぁー……』
頑張って蕾はパンをかじるが、噛みきれない。
隣に座る男は黙々と一言も喋らずにパンを咀嚼している。
同じパンである硬いパンを食べ進めているのに、蕾は一向に減らない。
仕方ないので蕾はパンを食べやすいようちぎろうとする。
「んー!」
頑張ってちぎろうとしても今の小さな体になってしまった蕾の体ではなかなか硬いパンはちぎれなかった。
でも、お腹は物凄く空いていたので必死にパンをちぎろうとする蕾。
「……」
ずっとその光景を黙って眺めていた男は、隣で何やらゴソゴソと動き始めた。
「おい」
「ひえ……!」
『う、煩かったかな……?』
突然声を掛けられ、ビクつく蕾。だが、男から差し出された物は以外なものであった。
「ほら」
「えっ……?」
男の手から差し出されたのは蕾が食べやすいようにちぎられたパンであった。
「あっ、いや……。お前があんまりにパンが硬過ぎて、食べづらそうにしていたから食べやすいサイズにちぎったのだが……。やはり、迷惑だっただろうか?」
「ううん!頂きますッ……!!」
不思議にパンを見つめた蕾の顔を困った顔と捉えたのか、パンを一度引っ込めようした男の指を、口元から涎を少し垂らしながら必死に止める蕾。
パクりっと豪快にパンに齧り付いた蕾。ようやく無事に、食事にありつくことが出来た。
パンの味は正直言うと酷いものであったが、背に腹は変えられず、大人しく硬いパンを蕾は食べ進めた。
気を利かせてパンをちぎった男は、なんとかパンを食べられた蕾の様子を見て、安堵の溜息をつく。
「小人……一つだけ言っておくぞ。別に俺はお前になんの危害も加えるつもりもない。だから、そんな意味もなく一々怯えるな。……流石に俺も少し傷つくぞ」
「ご、ごめんなさい……」
『本当だ、地味に落ち込んでる……!』
男の顔を見ると確かにとても複雑そうな顔をしていた。
怒っていない時のその顔は、西洋人のように彫りの深い顔に、スッキリとした鼻、海と同じ色をした青眼、オールバックにきちんとまとめられた金髪……。
それはただの顔立ちのいい、人間の男性であった。
『案外この人、顔はムスッとしてて怖いけど、いい人なのかも……!』
この、顔が少し怖い男性の意外な一面を覗けたようで蕾は少し優越感に浸り、和んだ。
「えへへッ……!」
「な、なんだ……ッ!その、さっきから俺の顔を見てニヤつくのはッ……!」
「何でもないです♪」
思わず口元が緩んで仕方ない蕾。その自分の顔を見て、ニヤニヤしてくる小人の顔を見て、少し照れた様子だが気に食わなそうに男は蕾を見た。
そんな和みきった空間の中、男共の騒がしい声が聞こえてきた。
「フゥー!やっと明日には故郷に帰れるぞー!」
「よしゃー!嫁にやっと会えるぜぇー!」
戦場から無事に生還した者たちは明日故郷に帰れることを喜ぶ。
だが、喜ぶことはいいのだが些か度が過ぎていたようで、食事中だというのに踊り始めたり、馬鹿騒ぎする者が出始めた。
男の額に青筋が浮かんだ。
「ゴルァァァアアア!!貴様ら、食事は黙って静かに食べんかぁーー!!」
「う、うひゃーッ!?」
男の鬼のような形相と怒号が荒れた道の草原に響き渡った。折角、和やかだった雰囲気はどっかに吹っ飛んでいってしまった。
『やっぱ、まだ怖いかも!』
明日はついに、男の故郷であるベレストルへと足を踏み入れることとなる。




