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如月二十三日
だれよりも うつしたくない 君なのに
大好きな人。大切な人。
お見舞いに来てくれたのは、すごく、それはもう苦しさだって忘れてしまうくらいに、嬉しいことである。こんな嬉しいことが他にあるだろうか。辛さにも、勝る喜びであった。
とはいえ、そんなことを喜んではいられない。
嬉しさは消えるはずもないけれど、喜んではいけないと思った。
だって君はとても大切な人だから。
この辛さを君に味わってほしくなんてない。
僕のせいで君が苦しむだなんて、絶対に嫌だ。
「手、握っていてあげるよ。そうしたら、少しは安心するんじゃない?」
絶対にうつしくない。君にだけはうつしたくない。
だのに、優しく君がそう言ってくれると、弱い僕の意思は、崩れてしまうのだった。
あまりに優しくしてくれるものだから、甘えるように、手を伸ばしてしまうのであった。
君の隣にいると、ひどく甘えん坊になってしまうのかもしれないね。
顔が赤くなっているのは、病気のせいばかりじゃないような気がした。




