如月八日
一人では あまりに寒い 夜だから
どうして君はいつも、堂々としていられるの? 凛としていられるの?
あぁ、こんなに寒いのに、こんなに辛いのに、君は一つも弱音を吐かない。
君の強さの分だけ、僕が弱くなってしまうよ。
「……もう私、嫌だよ。今夜だけで良いから、傍にいて、裕ちゃんの傍にいたいの。ねえ、駄目かな?」
なんだか寂しくなって、待っているのも辛くなって、仕方がないから、食事も一人で食べてしまおう、そうして一人で寝てしまおう。そう思った頃、君は帰って来て、そう言ったんだ。
強いんじゃなくて、周りが君に強さを期待し過ぎたんだ。
だから君はそれに応えようとして、だれにも弱いところを見せられなくなったんだ。
いつの間にか、恋人である僕にさえも。
僕だけは君をわかってあげるべきだった。僕だけは、君の安らげる場所になってあげるべきだったのに、ごめんね。
他の人と一緒になって、君にすべてを任せて、押し付けて、君を苦しめてしまっていた。
「明日からは強い私に戻るから、今日だけ、お願い……。本当に今日だけだから、裕ちゃんと二人のときだけ、だから抱き締めてよ」
彼女のこんな姿は見たことがなくて、驚き戸惑ってしまった。
しかし彼女が辛くて泣いているんだ。さすがに僕だって、もっと男らしくならなければいけない。
「無理して強くあり続けなくて良いんだよ。僕の前でまで、完璧でなくても良いんだよ」
珍しく素直に弱音を吐いた彼女。
ここで僕が彼女を愛でて、少女のように扱ったなら、反対に照れて彼女はまた冷たくなってしまうことだろう。
彼女が本当の彼女でいられるようにしてあげないといけないのだから、僕は少しだけ素っ気ない態度。
「お風呂に入っておいで。その間に、二人分の食事を作っておくよ。そうしたら、一緒に寝るとしようか。一人で越すには、今夜は少しばかり、寒さが厳しいからね」
そう、君も寒かったんだよね。
寒かったから、傍にあった温もりとして、僕を求めた。ただ、それだけなんだよね。
付き合っているのはたまたまで、本当は僕のことなんか、好きでもなんでもない。
君の方から告白してきたくせに、そんなことを言うような君だから。
抱き締めて、頭を撫でて、なんてしていたなら、冷静に戻って僕を突き飛ばすんだろう。




