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プライマリーローズ~地味目な私が学年一の美男子と付き合うことになってしまった  作者: 伊可乃万


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第1話

              1


「指野さん、好きです。私と付き合ってください」

 体育館の裏でそう下級生に告白された指野美咲は、いつものようにこう切り替えした。。

「悪いけど、あなたの気持ちには答えられないわ。私は男の人が好きだから。それよりあなた、アノマロカリスはお好き?」

「え? アノマロカリス?? ですか? それは・・・」

「あなた、アノマロカリスを知らないの? 有名な古生物じゃない。この左胸のブローチを見て」

 そう言うと、美咲は自分に告白してきた乙女に、胸元に付いていたアノマロカリスの小さなブローチを自慢げに見せ付けた。

「カッコいいでしょ? 私はアノマロカリスが大好きなの。あなたがもし大好きなら、お友達ぐらいにはなってあげてもいいよ」

「御免なさい、それはちょっと・・・」

「何よっあなた私のことが好きなら、アノマロカリスも好きになりなさいよっ」


 唐突に怒り出す美咲に、女生徒は怯え、そして御免なさいっと叫んで全速力で立ち去ってしまったのであった。

 

 指野美咲、十五歳。高校一年生の冬。


 生まれ持ったイケメン風の綺麗な顔立ちと手足の長い抜群のプロポーション故、学内で女子生徒の多くから彼女は密かに慕われていた。しかし当の本人のアノマロカリス信仰が仇となり、告白されては敬遠され、まともな友達は一人しかいない、という、正に受難の日々を過ごしていた。

「美咲ち、相変わらずだね」

 美咲達のやりとりを遠巻きに見つめていた彼女の親友、狩川亜美奈が、ニヤつきながら声をかけてくる。

「全く、失礼しちゃう。自分から好きとか言ってくるくせに、私の信仰を披露したらドン引きして皆逃げちゃう。亜美奈ぐらいよ、私のことをわかってくれるのは」

 美咲はやはり自分と同じように胸元にアノマロカリスの小さなカフスを身につけている狩川に愚痴を零す。

「まあまあ美咲ち。来年からはこの学校も共学化されるし。そうなったら男子生徒も入ってくるからさ、そうしたらお互い彼氏が出来るんじゃないかな?」

「そうだといいんだけどね」

 美咲は軽く息を吐き、狩川と共に寒空の中を校舎に向かって歩いていった。


 美咲と狩川は中学校時代からの付き合いである。お互い仲良くなり、同じ室蘭西高校に通い、学内のカーストには所属せず、お互い二人だけで、それなりに楽しい学園生活を送っていた。

 そんな彼女の人生を変える転機は、高校二年生になってからだった。なんと自らの唯一の友達である狩川と、クラスが離れ離れになってしまったのである。この事実に、泣き虫の美咲は号泣し、盟友に抱きついた。

「落ち着いて、美咲ち。クラスが離れても、お互い仲良くやろうよ。ご飯一緒に食べよう」

「うう、亜美奈、約束よ? 絶対に私を見捨てないでね」

「もちっ」


 美咲の通う室蘭西高校は共学化され、女子生徒も男子制服を着ることが許される事になった。それを知った美咲は狂喜し、さっそく二年時から男子制服を着込むことにしたのである。

「そんな制服にしたら、男の子が寄って来なくなるんじゃないの?」

 狩川の正論にも、男装が趣味の美咲は意にもかいさず、これが私だから、と突っぱねるのであった。


 北海道は五月の初旬になると桜前線が押し寄せてくる。指野美咲の歩く通学路は見事な桜並木となっていた。

 しかし当の美咲も男子制服を着ながらも、桜に負けず劣らずの無自覚な美貌を振りまいていた。長い髪を、後頭部で首元一つに纏め、髪先を胸元に垂らしている。

 自慢のおでこからは髪の毛を少し垂らし、黒縁の眼鏡をかけていた。

 そんな美咲であったが、同級生となる二年生のクラス内では孤高の存在として扱われ、孤立しがちになっていた。

 特に学内のカーストには所属していない彼女は、話し相手がおらず、お昼休みや空いた時間は毎日、少年漫画の世界に浸る、そんな日々を過ごしていた。

 通学路を歩いている途中、女生徒達の喋る声が美咲の耳に聞こえてきた。

「ねえねえ、どさんこイケメン女子高生コンテストが今年も開催されるらしいよ」

「今年はウチの学校から応募者が出るのかな」

「学内選抜で選抜投票があるらしいよ」

「どうしよう。私、応募してみようかな」

「駄目よ、もう選抜される人は決まってるもの」

「ああ、藤堂さんね。」

「そう。彼女以外ありえないでしょう」

 どさんこイケメン女子高生コンテスト。

 それは今の美咲には一切関係の無い話題であったが、彼女は多少の好奇心を抱いていた。

 そんな少女の美咲に、いつものように気軽に肩を叩き挨拶をしてくる女生徒がいた。

 狩川亜美奈である。

「あっ亜美奈、おはよう」

「美咲ち、どう? 新しいクラスにはもう慣れた?」

「全然。私のクラスでは誰もアノマロカリスなんて知らないの」

 美咲とは同学年で、学年首位の成績を持つ才女でもある狩川は、とても明るく前向きな性格で、クリッとした瞳と生まれつきの金髪の可愛い系の顔立ちをしており、新聞部期待の星として活動していた。

「そか。じゃあ、またお昼ね」

 そう言って、狩川は小走りで先に校舎へと入っていった。  

 

 お願いだからもう女子に告白されませんように。素敵な彼氏が出来ますように。 


 美咲は日々そう願い、二年生になった毎日を過ごしている。しかし学校の下駄箱に着くと、下級生の全て女子からの大量の手紙が入っており、美咲の心を悲しませた。男勝りそうな容貌をしていた彼女は男よりも女性達に圧倒的な人気があり、二年になってもよく女子生徒に告白されていた。それが指野の心にささくれを作っていた。

 美咲の通っている高校は、女子校だったが、美咲が二年生になったときから共学になり、大量の一年生男子が入学してきた。そしてジェンダーレス制服が採用され、先進的な考えを持っていた指野はいち早く、学校の女子高生で唯一スラックスタイプの制服に切り替えたのである。

 そんな入学したばかりの一年生の男子生徒達は、校庭で通り過ぎる美咲を高値の花のように扱い、一切のちょっかいも出してこなかった。美咲も自分から後輩達に話し掛けることはなかったので、自然と女子に囲まれる生活を過ごす日常になっていた。

 どうしたら、この不本意な日々から抜け出せるだろう。

 私だって高校生、恋がしたい。

 女性じゃなくて、男性と。

 美咲は日々悩んでいた。実家が牧場ということもあり、美咲は多くの後輩達から牧場の女王様と呼ばれ、敬愛の念を持たれていた。それがまた美咲の心を激しく掻き毟った。

 美咲の住む室蘭は、五月は北海道の中でも比較的過ごしやすい気候になっている。その代わり夏は高温多湿で冬は強風に煽られ非常に寒い。

 工業が盛んなことから鉄のまち、の異名を持つ室蘭で牧場を経営している指野家は、特殊な立ち居地であった。

 室蘭の名物はカレーラーメンで、美咲の大好物であるが。ただクラスメイトにラーメン屋を営む家の生徒達が沢山いるので、美咲はそういう生徒の店は避けて、生徒の親が経営していない店を選んで入ってカレーラーメンを楽しんでいた。

 また室蘭は、焼き鳥も有名で、それも美咲の大好物であった。食べても太らない体質の彼女は、学校帰りの傍ら買い食いに励むのが辛い学校生活を乗り越える支えになっていた。

 美咲の通う学校は室蘭でも有数の進学校で、共学化される前はお嬢様が通う学校だった。当然偏差値は高く、入学してくる子は地頭の良い人間ばかり。そんな高校に入れただけでも美咲は自分に自信を持ってよいのだが、イマイチ美咲は自分に自信が持てずにいた。

 学校自体も少子化の波には勝てず、生徒集めに苦戦していた。

 そのため前述の通り美咲の前の学年までは女子高だったが、彼女が二年生として進級した年に共学化し、男子生徒も進学してくるようになったのである。

 しかし当然のことながら美咲の同学年、及び上級生には男子生徒はいない。

 男子生徒の少なさから学内は女の園と化し、陰惨な学内カースト制度が蔓延していたのである。

 美咲達生徒全員が校舎に入り、一時限目の授業を受け始めたころ、校庭を一人の男子が悠然とした調子で闊歩していた。

 長身で目鼻立ちの整った、いかにもイケメンといった様子の青年で、室蘭西高校の制服とは違う制服を着ている。

 彼の名前は今井大志。

 警察官の父親の都合で東京から北海道に引っ越してきたのである。

 彼の夢は警察官僚になること。

 正義感に溢れており心優しいが、言葉使いに少々荒い一面を持っている。

 そんな彼が今日学校にやってきたのは室蘭西高校の編入試験を受けるためである。

 窓際の席に座っていた美咲は、校庭を歩く今井大志をいち早く発見した。

 遠目から見ても堂々とした歩き方からカッコよさが伝わってくる、そんな男性だった。彼を見つけた美咲の心音は少しだけ上昇した。

 

 美咲と狩川は昔から互いに正義感が強く、中学校時代にはよく苛めをしている生徒の間に入って仲裁をしていた。しかし高校に入ってからも、二人は特に行動を起こさずにいた。しかし、自分のクラスで苛めが行われている事を知った美咲は、狩川にその事実を相談し、そして二人は何とか止めさせようと奮闘することにしたのである。

 しかし生まれつき正義感が強い美咲は、苛められていた生徒を助け舟を出してしまったことから、苛めていた最上位カーストのリーダーで同じクラスになった藤堂麗華のターゲットにされてしまった。

 そのきっかけとなった事件は教室の掃除中に起こった。

 掃除当番だった美咲は一人黙々と教室内を掃除していたとき、同じく当番だった藤堂麗華がバケツに入った汚れた水を、苛めている女子に吹きかけたのである。

「あはは、いい気味」

 藤堂はずぶ濡れになった女子生徒をあざ笑った。それを見た美咲は健全な正義感から、我慢できずに

「ちょっと、藤堂さん。彼女が可愛そうじゃないっやめなさいよっ」

 と一言言ってしまったのである。それを聞いた藤堂は美咲の方を向き、

「何よ、あんた。文句あるの」

 と凄んできた。

「そんなことして、何が楽しいの」

「楽しいわよ。自分より劣った人間が自らの前にひざまづく快感は一度味わったら止められないわ」

「そんなの、最低だと思うんですけど」

「何よ、あんた。生意気ね」

 二人の間に雷鳴が如き炸裂音が響くかのような緊張感が走った。それを止めたのはずぶ濡れになった生徒であった。

「お願い指野さん。私は大丈夫だから、もう止めて」

「井上さん」

 井上と呼ばれた少女は藤堂に頭を下げた。  

 井上小鈴

 生まれつき茶髪の髪の毛を持つ女の子で、指野とは異なる系統の可愛らしい容姿をしていた。

 新体操部期待の星でもあり、その経歴が藤堂の虫の居所を悪くして、更に自分の趣味を否定されたことから藤堂の苛めの標的になっていたのである。

「藤堂さん、申し訳ありませんでした」

「ふん、解ればいいのよ。それより指野。あんた生意気よ、生意気。井上にも飽きたし、これからはあなたを苛めることにするわ」

「え」

 そして苛めから逃れた井上は藤堂のカーストに所属し、藤堂達は美咲への嫌がらせを行うようになった。

 それに怒った美咲と狩川は藤堂に反論しようとしたが、ぐっと心を押さえつけた。

 まさか自分がいじめの対象になることは正に晴天の霹靂であった。

 指野と狩川の圧に押された藤堂達は、直ぐに二人を無視するようになった。

 美咲は自分で自分を激しく攻め立て、辛い学校生活を過ごす羽目になっていった。

 

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