947話 予期せぬ来客⑤
伯爵たちが目を覚まし、本題に入る――。
「宝石の加工場を見て確信したよ。間違いなく、オーストロ氏の宝石は絶対に売れる。そして、大陸中に知れ渡るほどの名を刻むと」
かなりデカく言ったな。この人、嘘をつくわけないしな。
「そこまで褒めるのは意外でした」
「あれを見てなんとも思わないの!? 腕利きの職人に、上質な器具、高品質な原石――それが1つもでも欠ければ、こんな素晴らしい宝石は生まれないよ!」
ソファから立ち上がって熱く語る。
宝石好きには、ありえない光景かもしれない。
その隣で、グレースが頷いている。
だが、母親のレティスは興味がなく大あくびして、部屋に入ってきた精霊を追いかけている。
まるで猫のようだ……。
「わかりました……。それで、俺に相談があるのですよね?」
「ああ、オーストロ氏の宝石だが、ほかのところと安くしないでほしい。いくら自分らで採掘して加工して、安くできるとはいっても、あまりにも危険。宝石業界が崩壊してしまうよ。普通の宝石と比べて半分の値段設定にするのはおかしいよ。ミツキくんは安くして売るのに賛成して困っている」
そういうことか、均衡を保つためにしっかりとした値段にしてほしいと。
たしかに、自分たちで解決できて安くできる。
だが――。
「それだけではないと思います。オーストロ家はズイール出身ですよ。話しを聞いたことがあるのですが――ズイールで商売しているときに、権力のある貴族が「品質が悪い、値段を下げろ」と文句を言われたことがあるみたいです。それもあるのではないかと」
「なるほど、権力をかざしてオーストロ氏の価値を下げたと。噂で聞くほどの愚かっぷりだ」
「許せません! オーストロ家の皆さんは涙と汗の結晶を築き上げたのに無碍にするとは、愚かですわ!?」
グレースは怒って涙目で立ち上がった。
さすがの母親も、娘が怒っているのを見て精霊を追うのはやめて、頭をなでて宥める。
オーストロ家もかなり苦労しているしな。
「値段はイデウスさんにお願いします。ミツキさんとフェニッツにもそう伝えますので」
「ありがとう! 君たちには絶対に損はさせないでおくよ!」
伯爵はウインクしながら言う。少々、チャラいところはあるが、信頼して任せられるか。
グレースは大喜びで飛び跳ねていた。
まあ、こちらからしたらメリットしかない話だった。
これで話は終わり――。
「あと、もう一つお願いがあるんだけど、オーストロ氏には許可を取ってもらっているけど、あとはレイくんの許可が必要なんだ」
伯爵は一生のお願いばかりと手を合わしてお願いをする。まだあるのか……、
「そのお願いはなんですか?」
「娘のグレースを魔法学校卒業したらオーストロ氏に預けて宝石加工の技術を学ばせたいのだよ。だから、ここに住ませてほいんだよ」
はい? 魔法を学んでいるのに、そっちの道に進ませるのか……。
その話を聞いた母親は口を開けてただ呆然としている。
この様子だと加工場を見学しているときに決めたな。
「言いたいことはわかるよ。魔法を身につけてそっちの世界に進ませようと思っているでしょ」
「はい、成績も上位なのにもったいないというのは本音ですね」
「あくまで魔法学校に行かせているのは、外の世界で学んでほしかった。たまたま魔法の適正があって魔法学校に行かせた感じかな。もちろん、魔法を道に進みたいと言うなら、大学に進学させるよ。けど、グレースは宝石に魅入られて、そっちの世界で学びたいんだよ。魔法を学んでるより宝石のほうが笑顔だった」
伯爵は天職だと思っているようだ。
たしかに娘がやりたいこと尊重したいしな。
これって、俺じゃなくて理事長のローズさんに言ったほうがいいのでは?
まあ、滞在許可をもらいたいから俺に言っているけど。
まだまだ卒業するのは先だからローズさんには言わなくていいのかもしれない。
もう王都に戻ってしまったし。
「本気で学びたいならわかりました。許可しますよ。いつでも住んでも構わないですよ」
「ありがとう! 恩に着るよ!」
「ありがとうございます、賢者様! この私め、一生懸命努めてまいります!」
伯爵とグレースは大喜びだが、まだ先の話なんだよなー。
それはいいが、母親は口を膨らませて拗ねていますが……。
どうやらそっちの道に行かせるのに納得はいってないようだ。
あとは俺の問題でもないし、家族で相談してくれ。
この場合、説得するのに時間がかかりそうだけど。




