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(第8章 浮気は男の甲斐性なのか?)

知恵が幼い時に、父親が愛人通いしていた。九州の男は女に働かせて、酒や女や賭け事に遊び人が多かった。知恵の母も、浮気夫に悩まされ続けた。幼い頃、父に連れられて行ったのは、下着姿の若い女性のところだった。その女と父は、いつも、どこかに消えてしまい、知恵は、お手伝いさんらしき人に遊んでもらっていた。それが、父の愛人で、知恵を連れて行くことでカモフラージュしていたことは、随分大きくなって気がついた。

粋な着物を着ざらして、夕方になると訪れる女の色気を振りまいたいやらしい顔。肌を露わにしたシミーズ姿。働きづめの母の姿。やがて、愛人の元から帰ってこなくなった父。女手ひとつで育てあげた三人の子供。みんな大学まで入れ、二人の弟は立派な会社に就職し、愛妻家で浮気ひとつせず家族を守っている。母のような悲しい女にだけは自分の女房をしたくないと思っているようだ。反面教師になったようで、幸せそうだ。

なのに、知恵は母と同じ浮気男と結婚。実母の苦難を、まるで継承しているかのようだ。あるいは、母を苦しめていた、あんな父でも知恵は愛していたのか?求めて、同じタイプの男に惹かれてしまったのか?離婚はしなかった母だが、父の死に際しても、頑なに受け入れを拒否したらしい。それが、細やかな母の仕返しだったのか?そんな母親のような生き方はしたくない。絶対に愛人なんかには負けない。

結婚以来、旦那には愛人のいない時はなかった。いつも愛人を自営する病院の看護婦や事務員として雇って、働かなくても給料という形で愛人手当を渡していた。何人の愛人が妊娠したことだろう?しかし、何故か一人も生まれることはなかった。死産か?流産か?悪霊か?生霊の仕業か?知恵だって、二人の子供が産まれたとはいえ、何人もの生まれることの出来ない子がいた。子供が親を選んで生まれて来ると言うが、途中で辞めてしまった子が、これほど沢山いたのは何か因縁めいたことがあるに違いない。そんな中で五体満足で、頭も容姿も人並み優れた男女の子宝に恵まれたことは、知恵の執念の賜物かも知れない。

叩かれても、失神しても決してめげない。辞めない。諦めない、不屈の精神は、中学時代から始めた剣道のおかげかも知れない。痛みや苦しみには強い。男性が弱音を吐いているしごきにも耐えた精神力は、それからの知恵の生き方に反映しているかのようだった。叩かれれば叩かれるほど、虐げられれば余計に燃え上がる。「絶対に負けない」という思い。そうやって、今までも乗り越えて来た。乗り越えられた、それが、知恵の自信。なので、不思議と思ったことは実現できた。叶うまで辞めないからだとも言えるが。結婚してから三人目の愛人は、病院の会計をしてくれている女性だった。三十代後半のキャリアがあり、病院の経理を長年担当していた。そのせいで医院長の旦那と一番近いところで仕事をしていて深い仲になったらしい。旦那の外泊が多くなって、ある時から生活費が振り込まれなくなった。経営状況でも悪いのかと心配もした。聞きたいけれど、旦那が家に帰って来ないのだから、どうしようもない。お金のことを、とやかく言うのも見苦しいと思い言うことが出来なかったのも悪かった。その愛人は生活費を自分の口座に振り込んでいたようだ。旦那は知らなかったらしいが、小さな子供を抱えて、収入が一円もなかったのだから、知恵は必死で働かざるを得なかったのだ。旦那は悪びることもなく、一か月に何度か、思いついたように帰って来る。なので、幼い子供たちは別れの時、「バイバイ、また来てね」と言う。「帰って来てね」とは言わない。父親不在が日常になっていた。訪れる日には、ご馳走を作ってもてなす。これが毎日だと、きっと疲れてしまうことだろう。

家政婦を雇って、たまに仕事に逃げられるのも、精神衛生上、良いことだと思っている。旦那の愛人のせいで、必要仕方なく仕事に邁進せざるを得ないという言い訳で、子供の近くにいることが出来ないのも誰からも責められない。子供が熱がある時などは、本当に後ろ髪を引かれる思いがする。疲れた時は、眠ってしまった幼い我が子の姿に癒やされる。子供のためなら何でも出来る。誰かのために尽くすのが好きなのだ。子供たちが、必要としてくれている。自分が仕事をしなければ、生活してはいけない。そんな状況下で、「ナニクソ」と歯を食いしばって頑張ると、不思議と底力が出て来るのだ。

高級住宅地に新築の一戸建てに広い庭。それを用意してくれた旦那は、それだけで自慢できる。高級車だって、経費で払ってくれている。生活費だって、幼稚園前の子供たちなら、そんなにはかからない。この広い土地と家屋を利用して、この周辺のお金持ちの子供たちのために幼児教育の会社を立ち上げようと奮闘している。それは、同時に自分の子供たちのためでもある。特に、長男は、何としても将来医者にしなければならない。後継ぎとしての教育は、幼い頃から妻の仕事と決まっている。天才児を作るために、右脳教育や七田チャイルドアカデミーにも早くから通わせていた。なのに、長女は集中力があるのだが、長男は勉強に興味をあまり示さない。どちらかと言うと、芸術家肌のようで、絵を描くと上手い。優しくてファッションセンスも抜群だ。友人も多く、じっとしているタイプではない。有名な占い師にも見てもらったが、医者には向かないらしい。「たぶん、将来長女が跡取りになるだろう」と言われた。薄々感じていたが、姑たちが、それを許してくれる筈がない。

「出来ない」と言われれば言われる程、燃え上がるのが知恵の性分だった。どこか男勝りで、負けず嫌い。他人に助けを求めたり、弱みを見せたことなどない。女子会でも、一番優位に立ちたいがために人一倍見栄を張る。「私は、一番恵まれている。旦那が浮気するのも甲斐性があるから。人たらしの旦那だから、沢山の人が集まり、儲け話も持って来てくれるのだ」自分の父親のことを考えたら、全然ましだと思っている。地位や名声、権力や財力のない男なんて、全然関心がない。出来ない男とは、つきあいたくない。負けるのは嫌いだが、旦那は、自分より上の男でなければ、リスペクト出来ない。少々の悪さなんて愛嬌だ。色気のない男なんて、もっとつまらない。今は、二人の子育てに夢中なので、一番手のかかる旦那を愛人宅で面倒を見てくれているのは、考えようによっては助かる。今は生活費をもらえていないが、そのおかげで外で好きな仕事をする言い訳になる。

結婚する前も、有名化粧会社で、毎年売り上げベスト三に入っていて、ハワイ旅行や賞金を頂いていた。接待で、社長夫人をホストクラブに連れて行ったり、夜遊びなら誰にも負けない自信がある。人脈も、情報網も持っているから、どんな新会社だって立ち上げ成功させる自信はある。狙った獲物は逃がさない。そうやって、旦那も射止めたのだから。人は、明確な将来の夢がある者だけが、幸せを掴むものだ。大きな渦を起こすから、波風は大きいのがあたりまえ。何もない平凡な日々など、こちらから願い下げだ。前へ、前へと高みを目指し、エネルギッシュに動き回り、絶えずチャレンジしているのが知恵の生き方なのだから。


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