表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

(第24章 人生は月の満ち欠けと同じ)

上田知恵は、まだ旦那の浮気に苦しんでいた。35歳の頃の旦那の愛人は、病院から去った時、マルサに情報を流し、上田病院の脱税をリークされ、とんでもない追徴税を請求された。どれだけ働いても返せないほどの金額に、旦那は病んでしまい、目が離せなくなった。

「死にたい」と言う旦那を車で病院まで送り迎えする日々は、3年続いた。どうにか税金を払える見通しがつくと、旦那は元気を取り戻すことができた。この3年間が、不安ではあったけれど、知恵にとっては一番幸せな時だったと、思い出される。

やがて、また旦那の浮気は始まった。若い看護師、ダブル不倫。キャバ嬢やプロの風俗の女性と遊ぶお金がもったいないと、素人相手に手を出し、相手のマンションに転がり込んでは恋人気取りになる。いつも高い慰謝料を払わされる羽目になるのに、懲りもせず、手近な女に次々と手を付けた。

最後は、患者の女性といい仲になった。知恵よりも5歳くらい下の女性で、知恵に似ていた。同じタイプの女性が好きみたいで、女を作ると知恵が嫉妬して競い尽くしてくれるので、浮気しているようだった。この女とは10年以上続いた。若い女なら、まだ我慢もできたが、性悪女で年増となれば、旦那も落ちぶれたものだと情けなくなった。

知恵も還暦を過ぎ、とうとう我慢の糸が切れた。浮気を自慢しながら酔って帰って来た旦那の首にロープをかけて、絞め殺そうとしたのだ。普段なら、武道の心得のある旦那なら簡単に躱せたのだが、泥酔していて体の自由がきかなかったらしい。目を白黒させ、顔が真っ赤になって泡を吹き始め、そこに居合わせた男性たちに止められたらしい。さすがに命の危険を感じ、その日から家に帰らず、どこかのウィークリーマンションでも借りて住んでいるらしい。

旦那は、あれから愛人宅に行かなくなった。知恵が怖くて、愛人とも別れたようだ。何をしても、どれだけ浮気をしても許してくれると信じ切っていたのだろう。男は結局、暴力や力でねじ伏せなければ言うことを聞かない動物らしい。

若い頃は、口答えをしたらお腹を蹴られ、息ができなかったこともある。

友人と遊びに行ったのが気に入らなくて、お皿を投げつけられ、8針も縫ったこともある。生意気だと追い詰められ、掴まれて投げ飛ばされ、骨折したこともあった。それでも笑顔で耐えてきた。尽くしてきたのだ。

従業員への心遣いや経理処理、お金の借り入れや関係省庁への書類の作製などなど。よく働いたし、まめに家事も完璧にこなしてきた。次々と新しい女に騙され、お金を取られ、家族を泣かせてきた旦那に、初めて知恵が反抗し、暴力でねじ伏せた記念すべき日だった。

子供たちも立派に医者になり、旦那の収入に頼らなくても生活していける。あんなに執着していたのに、ふと気づくと、すっかりおじいちゃんになった旦那を見ると、介護という二文字しか思い浮かばない。これから死ぬまで尽くすなんて、まっぴら御免だ。

旦那と別居したら、清々して自分らしく、元気に人生をエンジョイできるようになった。友達だってたくさんできた。毎日が充実している。男なんて、もうこりごり。可愛い孫でもできたら、今度こそ子育てをしたいと思っている。

西岡由美は、あれから不倫相手とはすぐ別れた。15歳年下の努との間に子供ができたのだ。籍だけ入れた。産休を使って、0歳で保育所に入れた。仕事に邁進できるのは、努が子供の送り迎えはもちろん、子育てや家事を全部やってくれるからだ。孤児院で育ったせいで、小さな子供の世話には慣れていたし、女の子だったので可愛くて仕方ないようだった。

結婚したら、由美はなぜだか責任のある部署に移され、役職までもらえて昇給した。社長が退き、娘が就任したために、女性の地位向上が図られたというのも大きい。出産も子育ても、いきなり協力的になった会社に支えられ、イクメンの彼が主婦のように子育てを楽しんでくれて、由美は安心して3人の子供を産むことができた。年子だったのだが、彼が若いので、土日も子供を遊びに連れて行ってくれて、疲れた体を十分休ませてくれるので、本当に助かっている。

45歳の時、彼は30歳。仕事もできる男前の彼は、女子の憧れの的だった。浮気でもするのでは?と疑っていたのだが、全然そんな気はないようだった。「子供に顔向けできないことは、したくない」と真剣な顔で言うので、失笑してしまった。昔の杞憂や畏れが滑稽だった。


矢島裕子の娘は、大きくなるにつれ男前の父に似てきた。整形美人の裕子とは違い、くっきりとした二重で、すらりと背も高い。頭もいいので、最近はどちらが親なのか分からないくらい、しっかりしている。外資系の会社に就職し、年収も高いらしい。母は「女だてらに仕事なんてしていたら、婚期が遅れるわ」と難色を示して反対している。

父は、政財界の新年会で、今度は孫の結婚相手を見つけようと必死だった。その時、娘を見初めて結婚を申し込んできた相手こそ、あの時寝た西井勝の息子だったのだ。今まで本当の父親が誰なのか、気にはしていたが、強いて詮索しないようにしていた。隼人は今どこで何をしているのかも分からなかった。

賢い娘はそれを察して、父親のことは聞いたりしない。しかし、成功者はもともと5パーセントしかいない。裕子が昔関係を持った男は、今も政財界で力を持っている有能な人物ばかりだった。

密やかに西井勝と会い、手に入れた髪を調べたら、やはり一致してしまった。娘との縁を切るために、西井の息子にはハニートラップを仕掛け、マスコミにもリークした。そして、絶対に関係を持たないよう、娘の父親は西井だと、本人にも告げた。

脅すつもりも揺するつもりもなかったのに、大金を振り込んできた。「娘に対する精神的な慰謝料」と言って。本当は、知らなかった娘への謝罪だったに違いない。しかし、これからも娘に真実を告げるつもりは、さらさらない。

関係した男性と、遊んだつもりもなかった。その日だけの営みだったが、その瞬間、誠心誠意愛していた。特に西井の時は、恋していたと思う。若き政治家として華々しく出馬したての勝は、日本の未来のためにと夢を膨らませていて素敵だった。

離婚後、結婚を申し込まれたが断った。矢島家の資金が政治家の勝には役に立てただろうが、婿養子に来てほしいとは言えないし、無理だと思った。しかも、あの頃、ダブル不倫を疑われたら裁判には勝てない。お腹の中の子の父親が、隼人でないと知られるのはまずかった。なので、たった一夜の気の迷いだったと、結婚話は無下に断ったのを覚えている。

西井と、あるパーティーで顔を合わせた時に、ホテルのラウンジで待ち合わせて、お金のお礼を言った。そして、「もし私に何かあったら、お願いね。娘を助けてあげて」と頬にキスして、西井と別れた。

あの頃と変わらず若々しい裕子とは違い、西井のお腹は中年太りで、髪も白いものが混じっていた。芸能界で次々に若い人と仕事をしている裕子は、西井の老いに気がつき、初めて自分の年齢を感じて苦笑した。

宮坂晴子は、離婚はしていないが別居しており、もう何年も主人とは顔を合わせていない。子供の結婚の支障にならないかと思い、離婚を踏みとどまっているが、主人も綺麗になった晴子を、前のようにひどく扱うことは、さすがにできないらしく、何も言ってこない。

仕事は、女性の感性を生かしたお洒落なカフェやスイーツの店、裕子とのコラボで芸能人向けの会員制クラブや、ライブが楽しめる大人の社交場などなど。次々に成功し、今は現場の管理や教育システムの構築など、広範囲に任されている。洗練されたスタッフに恵まれ、海外にも進出した。

日本人の「おもてなしの心」や「一期一会」の美意識が世界から注目され、その先駆者として、マスコミでも「女性経営者」の成功者として紹介された。この時、裕子のネットワークに助けられた。

今は中之島のタワーマンションを買い、一人で住んでいる。子供たちも社会に羽ばたき、たまに連絡はあるものの、仕事が忙しいらしく会うこともない。

「今度、彼氏を連れて行くね。きっとママは驚くと思うけど」と娘が言った。彼は、昔付き合っていたハンサムな彼にそっくりだった。そう、男前だから、きっと浮気するだろうと思い、捨てた彼の子供だったのだ。

あれから彼は、友人と会社を立ち上げ、今では一部上場を果たし、その代表取締役となって成功していた。もちろん、結婚しても浮気などはしていないらしい。そして、あの時の恋心が娘にバトンとして渡され、また出会えた不思議。

幸せそうな娘たちを見ていると、昔の恋心が懐かしく思い出され、複雑な気持ちになる。相変わらずダンディな彼の、まっすぐな視線に戸惑う晴子。

「奥様が亡くなられて、一人で子育ては大変でしたでしょう?」と聞くと、「母が育てたようなものだから」と笑った。その笑顔を見た時、

『あぁ、私はこの笑顔に惚れたんだった』

と、胸がキュンと熱くなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ