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(第10章 浮気される側とする側の対決)

「この間はごめんなさい」と由美は知恵に言った。あれからすぐ知恵を食事に誘ったのだが、「何のこと?」と、あっけらかんに笑う知恵に拍子抜けして「二人で会うの初めてじゃない?」と笑った。「犬猿の仲だもんね」いつの間にか、そういう関係になって、仲裁役の裕子がいなければ、どうなることかわからないので会わないでいたのだ。「でも、一度ゆっくり飲みたかったんだ」と由美は言った。

「由美は愛人してて奥さんには悪いと思ったことはないの?」とストレートに聞いてくる知恵に何と答えたらいいのか迷っていた。「悪いと思っているけど、好きなの。ごめんなさい。」と言って、知恵の目を上目遣いで覗き見る。戸惑いながら、知恵の目に怒りの炎を認めた時、由美は哄笑した。「純粋に恋をしているから、奥さんはもう愛されていないのだから別れてちょうだいと、言われたら殺したくならない?」と睨み返す由美に、その本意が測れずに困惑するしかない知恵。『それとも、アンタの旦那なんて好きでも何でもなかったけれど、寂しかったから寝ただけ』って言ったらどんな気持ち?」と悪戯そうな目を向ける。「愛人の譫言なんて、どうだっていいんじゃあないの?問題は旦那の気持ち。愛人がどんな人物だって、どんな気持ちなのかってどうでもいいこと。お仕置きをしないといけないのは旦那なんだから」「わかってる。でも、人の者を盗む奴は、許せないのよ」と知恵は怒鳴るように由美の言葉を遮る。「大切な者が多いほど、失くすのが怖いのかもね。愛人なんて、何も失うものなど無いでしょ。心の底では、絶対に奥さんには叶わないし、別れるつもりなんてないのを知っていて信じているフリをする。そして、奥さんが、妬ましいのよ。そうやって、苦しむ姿を見たくなるの。だから、一番奥さんがダメージを負う言葉を選んで言うけれど、本当にそう思っているかどうかは疑わしい。性根の悪い女性は自分が不幸なものだから幸せそうな家庭を壊したくなるみたい。誰でもいいのよ。ただ、乗ってきそうな男と幸福そうなその妻さえ目に留まれば。【他人の不幸は蜜の味】憂さ晴らしして、幸せそうな家庭を壊して、奥さんに勝っている自分の方が優れていると思いたいだけなんだから。そんなワナにかかってどうするの?大学時代、六人もの旦那の恋人たちを蹴散らして結婚して、医者の奥さんというポストを手に入れたんでしょう?知ってるわよ。あの手この手で今の旦那をゲットしたこと。愚痴って、泣いてるヒマがあったら、相手との密会場所に乗り込んで写真でも撮って、ついでに声を録音して、アメリカの浮気騒動を放映している【チーター】みたいに、とことん二人を卑しめて慰謝料をしこたま取って、社会から抹殺してやればいいのよ」と一気に言った。「由美が、そうされたら?」「一番困ることを教えてあげている」と言うと二人で大笑いした。「ありがとう。そうよね、浮気のひとつやふたつ。いや百でもするならすればいい。その分、落とし前はつけてもらう。旦那の愛情なんて、もうどうでもいいような気がしてきた。家でじっと自分ばかり見ている男もうっとおしいし、色気もなくて女にモテないのも嫌だわ」と、すっきりした顔をして、スクリュードライバーを一気飲みして「すいません。ビール大ジョッキで二つお願いします。」と威勢よくオーダーした。

「知恵らしくなってきた。そうでなくっちゃ」と自分もジントニックを飲み干し、大ジョッキを受け取りカンパイして、豪快に一気飲みをした。知恵の方が断然早かったが、由美も負けじと頑張って飲み干すと、一気に酔いが回って陽気になった。「本妻と愛人が一緒に飲みに行ったら、案外こんな風にメチャクチャ仲良くなって、二人で一緒に旦那を懲らしめる策を企てるかもね。」と由美は言ったが、「それは、絶対にない。懲らしめるのは泥棒猫の方よ」と凄んできた。「旦那が本当に好きなんだ」と呆れて言うと「違う。女の意地よ」と【天城越え】の一節を声を殺して歌いだす。「いっそ殺していいですか」と。「いいわけないだろうが。たかが男のために人生棒に振るな」と由美が怒鳴る。

「なかなか楽しそうですね」と野田博が声をかける。このバーのオーナー。他に飲食店を何軒かやっている青年実業家だった。独身時代からのお馴染みさんということもあって、たまにカクテルをご馳走してくれる。「野田さん、聞いてよ。今から旦那の浮気相手の家に乗り込んで刃傷沙汰になると思うので、ついて来てもらえませんか?」と知恵が絡む。「相変わらず、情熱的ですね」と笑っている。「じゃあ、由美ついて来てよ。愛人のマンションすぐ近くなんだから」と完全に出来上がっている。「嫌よ。止めて刺されるのはどんくさい私のような気がするもの。相手を刺し殺すくらいなら、とことん愛人と修羅場やっておいでよ。知恵なら、きっと勝てるから。ねぇ、野田さんもそう思うでしょう?」と流し目をして同意を求める。

「綺麗なお嬢様方にスムージーをご馳走しようかな?ビタミンCがたっぷり入っているので、悪酔いには、すごくいいですよ。」とウエイターにグリーンとオレンジ色したお洒落な飲み物を持って来させた。

「このフルーティな方を知恵さんに、お野菜中心のグリーンの方は由美さんにピッタリだと思いますよ」と優しい声で囁くように言う。水商売で成功しているだけあって、客のもてなしが上手だ。「そうそう、今度知恵さんのお誕生日、美味しいシャンパンをプレゼントしますから、旦那様とでもご一緒にいらして下さい」と笑顔で言った。「私の誕生日、覚えていてくれたの?」もちろんと言うように頷く野田に知恵は思わず抱き着いていた。「コラ。この酔っぱらい。すいませんね、野田さん。いつものことですが……」と由美が知恵を叱ったが、野田もまんざらでもなさそうなので知らんフリをした。「僕なら、知恵さんに、こんな寂しい想いなんてさせないのに」と由美に聞こえないよう耳元に口を近づけて囁く。野田は学生時代に飲みに来ていた時から知恵にぞっこんだった。だから、一緒に来た由美にもサービスがいい。知恵も野田の気持ちを知っているから特別扱いしてくれるこの店で飲みたいのだ。若かりし頃からの自分を知ってくれているこの店で、自分を愛してくれている男がいる所でなら、自信を取り戻せる気がするのだろう。野田の優しい抱擁に身をまかせて、こんな甘い囁きを聞くと、知恵はとろけそうになった。

鍛えられた胸や腕の筋肉がデザイナーズブランドの洒落たスーツの上からも感じられる。もう、何年も旦那に抱かれていない知恵は、潤いの無い女の部分が熱くなるのを感じた。由美がいなければ、このまま野田と間違いを起こしてしまうかもしれない。しかし、同時に、女の打算が動く。『もし自分も浮気をしたら、旦那はどう思うだろう。丁度いいと言わんばかり、離婚されるかも知れない。しかも法的にも不利になり、離婚しても、慰謝料ももらえないだろう。』と、「ごめんなさい。飲み過ぎたみたい。次は私のお誕生日、旦那と来てたっぷりお祝いしてもらうから。その時は、お願いね」と満面の笑みで野田から体を離す。「一番いいお席をご用意して、お待ちしています」と、いつもの接客モードに戻っている。『こうやって野田は、どれだけのお金持ちの奥様方のハートを射止めているのだろう?』と由美は横目で見ながら、スムージーを一口飲む。「美味しい。体にいいのはわかっているけど、自分で作るのは面倒だもの。野菜不足の独身には嬉しいメニューね」と一気に飲み干した。




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