タロタロ、数こなす
「なーんか、外側削るだけなら、そんなに苦じゃなくなってきたわ」
ショリショリ削りながら言ってみた。
ちなみにめんどくさいので木のブロックふたつを荒削りしたら、中をくり抜く作業をすることにした。
今は木のブロックを、靴の形に荒削り中。
少しでも切れ味が悪くなったら研ぎをお願いしていたせいもあるけど。
フリルエプロンを身に着けた山姥の如く、刃物研ぎをしていた一郎は、私の言葉にニッコリ。
「それはきっと、その行為が身についてきたという証拠だな」
と言いながら、ゴト、と一本。
木のブロックがテーブルに置かれた。
なんでやねん。
「いや、おかしいでしょ。苦じゃなくなっても『もっと削りた〜い♪』なんて、一言も言ってないでしょ」
恐ろしい⋯⋯!わんこそばの如く、木のブロックのおかわりが来る!
「そうか?⋯⋯てっきり物足りないのかと」
「どんな気遣いよ」
話しながらナイフを操る。
失敗に次ぐ失敗をしてきたせいか、この工程だけは、効率が良くなってしまった。
木のブロックを目視で分割し、それぞれ荒く削りだす。その行為を一周。
そして、調整で二周とする頃には、靴の形に整え削りだされている。
ふふん、我ながらなかなか効率が良いじゃない。
「ふむ。進める手に迷いがないな」
感心したような一郎の声。
そして、テーブルに、ゴトッ。なんでよ。
「絶対、おかわりは削らないわよ」
親方の睨み炸裂。
「そうか⋯⋯」
⋯⋯なんで残念そうなのよ。
「ちょっと!二郎の方からも一郎止めてよ!」
一郎の弟、二郎を呼ぶと「なんで俺なんだよ」と、めんどくさそうに、私たちの側に寄ってくると
「タロタロ、諦めろ」ゴトッ。
「だから!なんでそーなるのよ!」
イラッとする!!
往年の芸人ギャグをかます祖父のモノマネの如く、二人の前で身体をひねって前足を蹴り出し、両手を揃えて後ろ手に振りかぶりながら、ジャンプしてやろうかと思うほど、イラッとする!!
「前も言ったけど、兄貴はこうと決めたらこうとしか動かねぇんだよ。お前が数をこなしゃあ納得する。頑張れ、タロタロ」
ゴトッ。
「増えとるやないか!」
なんで減るどころか増えるのかな!?
テーブルの上には削りかけの木のブロックとスパルタ兄弟二人が置いた木のブロック。ブロックだらけ!
(ダメだ、こいつら!私のこと削り機かなんかと勘違いしてんじゃないの!?)
「こんなにブロックばっかり削ってたら頭どうにかなっちゃう〜!指も太くなっちゃうぅ〜!」
クッサイ革手袋を脱ぐと、両手で顔を覆って泣き真似してみたが。てか、手ぇクッサ。
「大丈夫だ、タロタロ、心配するな。数さえこなせば、頭で考えなくとも身体が動く。現にお前はもう、そうなりつつある」
一郎の言葉を聞きながら、泣き真似で顔を覆った両手から、隙間を開けて覗いて見たら、
スッ、
と、おかわりブロックが一郎の手に持ち上げられていた。
◯ラ◯もんのポケットかよ!!
次から次へと手品師みたいによぉ〜!
「待ったぁー!!!」
私の大声に、テーブルに置かれそうになるブロックが寸前で止まった。
「今、テーブルに置いた分しか削りません!残りは後日!!以上!!」
これ以上、てんこ盛りわんこ木材にされたらたまるかっての!!
「ならば、削り出しが終わったら夕食にしよう」
一郎からのまさかの言葉。
(な、なにそれ⋯⋯終わるまで飯抜き!?)
冗談じゃないわよぉーー!!
いくら味がしないスープだからって、クズみたいな野菜しか入ってないからって、石みたいに硬いパンだって、定時に食べさせてよぉ〜!!
「ひどい!御飯食べられないなんて!!」
「なに、終わらせれば良いだけの話だ。私が見ていた限り、タロタロならやれる」
キラキラした笑顔で、そうフリルエプロンの山姥は言うのだった。
◇◇◇
シュ、シュ、シュ!
シュ、シュ、シュ!
床に落ちていく、木材削りカス。
そんなものに目なんてくれる暇なんてない!
シュ、シュ、シュ!
シュ、シュ、シュ!
「すげぇ、タロタロ。お前どこにそんな技隠し持ってたんだよ。めちゃめちゃ速ぇじゃねぇか」
「今、話しかけないで。集中が削がれる」
削りに削った木材が、靴の形へと変わっていく。
一本、二本、三本――。
「終わったぁ!!飯ぃー!!!」
飯のためなら本気出す!!
早く私の前に、飯出さんかい!!!
「随分、早く終わったな。すごいなタロタロ、見直したぞ」
そう言いながら一郎が、私に言う。
へへ!どんなもんだい!早く飯くれよッ!
「だが、遅くなると思い、今準備を始めたところだ。これで、時間でも潰して待っていてくれ」
と、ゴトリ、と置かれたのは、おかわり木のブロック。
「だから!なんでそーなるの!!」
気づいた時には、ポーズを決めて、ビョン!と、ジャンプをかましていた。




