くつが欲しい!
昨日の午前中、サニタリー用品作り一人作業。
早々に飽きて寝てしまっていたんだけど、起きたら小人⋯⋯ではなくて、美形の青年二人が、ナプキン製造の申し子のような速さで縫い進め、苔詰め作業。
まるでその手つきは工場生産。
当初は、何日かかることやら。
生理が終わってからの転移で良かった、なんて思ってたら、もう翌朝には出来上がっていた。
一体、彼らは何者なんだろう。フリルエプロンで料理番の兄と、筋肉ガッチリレースブラを、胸あてと勘違いして愛用している弟よ。
あっという間に出来上がってしまった私のサニタリー用品。
数も倍だ。二十枚。ありがてえ。
暖炉のある部屋の棚に置かれていた大量のサニタリー用品を手に取ると、さっそく自室となった部屋に持っていく。もちろん兄弟二人にお礼を忘れない。
朝から金髪を輝かせ、満足気ににっこり笑う二人の姿。
湯シャンのお陰か、二人の頭皮のシットリ加減も少しは軽減してると良いな。
照れたように見目麗しい弟が、後ろ髪を掻いた。
その瞬間、頭からパラパラと白い粉が舞った。
朝日を浴びてキラキラ輝く。
クッソーーー!!!あんなに湯シャンしてるのにまだフケが出るってどういうことよ!皮膚病か!?
今度は弟の頭を徹底的にかき出してやるわ!!
朝から私は、笑顔で、心は鬼の顔になりながらそう心に誓う。
朝食を済まし、木の枝で歯を磨く。うがいの為に外へ出る。
おっと、サニタリー用品に使われた苔へのお礼も忘れちゃいけない。
外に向かって遠く、毟り散らかされ、ところどころ禿げた緑にも礼を言う。
次もまたちゃんと生えててね。毟るから。
「さて、今日はなにをしようかな?床掃除は手が荒れるから、たまにが良いのよね」
(なにもせずに寝ようかしら?)
と、考えていたが、ふと足元を見る。
なんやねん、この履物。なんで紐で縛ってあるのさ。
皮袋だから。
唐突な不愉快。
女は気分屋なのさ。エセ関西弁も出るってもんだ。
「決めた!」
私は、暖炉の部屋に戻って、金髪の美形の二人に声高高にこう言った。
「一郎!二郎!私、靴が欲しい!靴作りたい!協力して!」
「はあ?」
「くつ⋯⋯?」
「靴ぐらい分かるでしょ!?履物よ!はーきーもーの!」
私が足に履いているものを指し示してみせると、
「履物なら今履いているもので、十分でないのか?」と、一郎。
「全然十分じゃ無いわ」私の反論。
「いや、充分だろ、我儘言うなよなぁ〜」これは、二郎。
「なんでぇ?靴欲しがっちゃダメなの?」
「ダメに決まってんだろ。うちにはそんな余裕は、ありませーん」
「やだ、なにそれ。どこの家も時代も、世界が変わってもそれ言うの?」
「誰が言ってんのか、知らねーけど、贅沢ってもんだろ。今履いてんので我慢しろ。破れたら縫え。以上!」
「うえーん、いちろ〜。二郎があんな事言う」
困った時はママに頼むのだ!
私は、一郎に近づきエプロンの端を掴むと二郎を指差し訴えた。
一郎は困った顔で、柳眉を下げると
「タロタロ⋯⋯、欲しい気持ちと作りたい気持ちがあるのは山々だが、まだその履物を買って日が経たぬではないか。今あるものを大切に使ってから。新しい物が欲しいという話は、それからだ」
ガガーン。
ママからも冷たくあしらわれてしまった⋯⋯。
無いなら作るのに、既にある物を欲しがるのはダメらしい。
(よく分からない世界⋯⋯)
私は、二郎が座る隣の椅子に座ると、テーブルに突っ伏した。
「よく分かんねーけど、なんでそんなに欲しがんだよ」
二郎が聞いてきたので、
「だって、皮袋に足突っ込んで、紐でしばるっていうのが理解できないんだもん。私の国では靴っていったら、もっと自分の足のサイズにぴったり合ってて、履きやすくて脱ぎやすくて⋯⋯いや、種類によっては違うか?まあ、とにかく動きやすいものなの」
と、答えると
「⋯⋯⋯⋯ふーん。そりゃ、お前のが特別安物だからだろ」
と、二郎から返答された。
「どういう意味よ」
と、私は何気なく二郎の足元を見ると、こいつ、ちゃんと革のブーツを履いていた。
(どゆこと!?)
「なんで、私が皮袋に紐巻いただけのものなのに、あんたのは革のブーツなのよ!?」
「は?そりゃ歩くからだろ。家ん中にずーっといるお前と違って俺は働いてるからな」
へへん、と鼻であしらわれた。
「うわーん!一郎」
困った時の一郎ママ!
一郎は、フリルエプロンを脱いでいた。
もう仕事に行く時間なのか。ならば着替えを手伝ってもらわねば、と、ふと一郎の足元を見ると、革ブーツ!?
コイツも革靴族かよ!
「うわーん!裏切り者!!」
一郎の胸には飛び込まず、途中で方向転換。
そのまま部屋の長椅子にちゃんと座ると、座面に突っ伏した。
「な⋯⋯に?なんだ⋯⋯、裏切り者?」
困惑げな一郎の声に、二郎が「よせよせ、相手にすんな、いつものイカれ症状だよ」と、一郎を制す。
⋯⋯⋯⋯ひどい!!聞こえてるんだけど!!
座面突っ伏した状態で、抗議した。
「なんで、二人とも革靴なのよー!!!私も革が欲しい〜!!袋の靴より革の靴〜!」
と、叫んだが。
「タロタロ、それは無理だ」
容赦のない一郎の声、言葉。
グアーン。
「なんでぇ〜?」
むくり、と起き上がって一郎を見る。
一郎は、私の隣に座ると、私の乱れた髪をなおしつつ、⋯⋯てか、手洗った?⋯⋯⋯⋯こう言った。
「単純に、高いからだ」と、美形の憂い顔。
シンプル答え。なるほど。
「じゃあ、仕方ない」
なんだか妙に納得した。
「なんで、俺の言葉には反発したんだよ」と二郎から抗議の声。
「そりゃあんな言い方されたら、誰だってムカつくわ。てか、よくもまた人のことイカれ⋯⋯、とか言ってくれたわね〜⋯⋯て、そういえば、あんたたちのうなじ、まだ拭いてなかったわ!仕事行く前に拭くからね!革靴の恨みも込めて!」
私は、窓から遠く木々の間から見える空を見る。
「それと今日も晴れてるから湯シャンよ!蒸し風呂よ!二郎、あんたさっきフケ出てたから、今日は徹底的にかき出してやるから!覚悟しておくことね!」
と、言ったが「へいへい」と軽くあしらわれた。悔しい。
「大体、お前に革の扱いとか無理だろ。外出て手袋の二の舞で悲惨な事になるぞ」
と、前回薪用の手袋作りの際に、水洗いでお盆のようにカッチカチにさせた皮を引き合いに出された。
そういえば、あん時は、二郎の筋肉で解決したっけ。
「ふぅん、革って水が苦手なのね」
「⋯⋯⋯⋯今さらかよ⋯⋯」二郎から呆れた顔をされた。
「なによ⋯⋯、良いじゃない人は関心を持って初めて学習する生き物なのよ⋯⋯て、ん?てことはあんた達が雨で早く帰ってきたり休んだりするのって⋯⋯」
革の靴のため⋯⋯?
(大雨の中、苔毟りした時、こいつら靴履いてたっけ?⋯⋯うーん、ダメだ。思い出せない。ついでに私の足も、必死すぎてたから思い出せない⋯⋯履いたっけ?)
雨で仕事できないじゃなくて靴のためだったという衝撃の事実。
「雨の日はほとんど出歩かないか、木靴で出歩くかだな」
と、横から一郎の言葉。
木靴!?
オランダの工芸品しか思い出さないが、あれ、雨対策だったのか⋯⋯。
てか、木靴あるの!?




