魔女の拠点巡り④夜中のロシアへ
邦和では真夜中な頃、青マーズはアメリカで大統領と、金マーズはロシアで皇帝と、白久はドイツでオッテンバッハ父子と話していた。
内容は同じ。病院と避難所に出来る施設の地下に、紅火達が作っている耐震装置を埋め込みたいと、施設の選定と近隣諸国の説得を頼みに行ったのだった。
戦争は回避し、兵器も全て平和利用化したが、神は試練を与えると言ったと伝えた。
その試練――災厄は世界規模の地震だと考えているとも。
協力すれば乗り越えられ得る試練だとも。
その災厄へのカウントダウンは既に始まっている。
しかし残りがどのくらい有るのかは不明だし、作れる数にも限りが有る。
大至急、行動を起こしてほしいと頼んだ。
3人は夜明け前に帰宅すると、金錦の部屋に集まった。
各々が目の前の相手だけに集中していたので報告会だ。
【オッテンバッハ社所有の建物は全てOKだ。
ショッピングモールの類いだけでなく、マジで全てだ。
で、避難所となった場合は食料品やらも提供してくれる。
問題は海底資源採掘施設とパイプラインだ。
これも紅火に頼むしかないんだがな】
【そうなると病院だけでなく発電所やらも対象になりますね。
オッテンバッハ社のみというのは後で問題になりそうです】
【ソコなんだよなぁ。国有は米露が動くだろ?】
【ピックアップされるでしょうね】
【そうだな】
【つまり2国共、乗ってくれたんだな?】
【はい。少々条件はありましたけどね】
【私の方もな。しかし無理難題ではない】
【そんなら大企業所有のライフライン関連は俺が飛び回る。
建設会社の常務としてな】
【ならば私は歴史的建造物だな】
【俺は私立病院を回りますよ】
【お~い青生、どんだけあると思ってるんだぁ?】
【ですが必要でしょう?
最悪、こっそり埋め込みますよ】
【おいおい】【ふむ、そうしよう】【兄貴までぇ】
【時間が無いんですからね】【仕方ないってかぁ】
【では時間が無いので今日も動き始めよう】
【おう】【はい】浄治癒を放つ。
【ありがとう】【ありがとな♪】
キツネの里に保護した人達全ての意識が戻ったので藤慈に任せて動くと決めた3人は、心の内では藤慈の様子も彩桜の様子も見に行こうと決めていた。
【メシも大事なんだからなっ!】
瞬移しようとしたら黒瑯が現れて保護珠に込めた弁当を押し付けた。
【オレは大量に保存食の珠を作ってる!
ソッチは任せたからなっ!】
【動いてたのかぁ】【ったりめーだろっ!】
【【ありがとう黒瑯】】【おう♪】
―◦―
上3人の兄達が出発すると彩桜が目を開けた。
【ドラグーナ様おはよ~♪ どぉだった?】
【俺の身体は まだ使えそうになかったよ。
彩桜は眠っている振りをしていたの?】
天井近くから彩桜を眺めていたので、唐突に目を開けた事に驚いたようだ。
【寝てたよ。ご飯も食~べる~♪
たぶんね、青生兄が離れたから起きたの~】
【まだ連動するんだね】浮かんだまま考え込む。
【連動してたいからいいの~♪
ドラグーナ様、瞑想じゃなくて俺 見てたの?
まだ出てる練習するの?】
【それじゃあ入ろうかな】スイッ。
【居心地はいいんだよね♪】【うんっ♪】
布団を片付けて瞬着替え♪ 台所へ♪
――【黒瑯兄おっはよ~♪ 動物さんご飯~♪】
【おう♪ 彩桜だけは食の大切さを解ってくれてるよなぁ】
【うんっ♪ お弁当もお願いねっ♪】配り行く~♪
【まさか昨日の全部 食ったのか!?
瑠璃さんも入れてたのに!?】
【うんっ♪ 闇も使うから~♪】猫さんと遊ぶ~♪
【闇ってコスパ悪いな】【うんっ♪】
【頑張ってるもんな♪】【うんっ♪】次、犬さん♪
【で、昨日は?】
【双子オバサンの毒薬と惚れ薬、ナディアールさんとキューヤ母ちゃんも持ってたのぉ】
【ゲ……】
【結界ソックリで変だから相談するの~】
【お稲荷様トコか?】
【うん。何かある?】
【そんじゃあ保存食も運んでくれ。
レストランの倉庫、珠だらけなんだよ】
【うんっ♪】
【食うなよ?】
【そのくらい分かってるもん】戻った。
【いっただっきま~す♪】
―◦―
響の部屋に帰っていたサーロンも来たので犬の散歩の後、ノワールドラコ経由でキツネの社に行き、術が得意な人神達と知恵の獣神達に相談した。
そして出発しようと――
【サクラ!】【【お兄ちゃん!】】
――チビッ子マーズに捕まった。
【ラン】すこぶる真剣顔で【指令だ】
【【【へ?】】】初めての真顔にビックリ。
【強い神力が必要な作戦を遂行している赤マーズをサポートするよう。
龍神である紗蘭、飛鳥と獣神の最重要部である魂尾を持つ羽龍にしか出来ぬ事だ。
多くの人々を救う正義の作戦だ。
稲荷堂の隠し作業部屋に行け!】
【【【はいっ!】】】瞬移! 【彩桜……】
【紅火兄、必要でしょ?】【……感謝する】【ん♪】
【彩桜、また離しておきたいの?】
【ソレもだし~、神力必要もホントなの~。
ランは理解して連れてってくれたの~】
【そっか。それで今日は何処から?】
【夜中のロシアから~。
次が高嶺さんトコで、魔女の丘~】
【夜中に意味があるの?】
【乗っ取られてたヒト達、反省してるから~】
【あのお姫様も?】カロリーナ様。
【まだ会いたくにゃいのぉ】
【やっぱりね♪ ボクもだよ♪
ショウは連れてくよね?】
ヨーシェしたくないので話題転換。
【うんっ♪
力丸とモグにも紅火兄のお手伝いお願いするの~♪】
【ボク達も早く終わらせて合流しないとね♪】
【うんうん♪】出発するの~♪
―◦―
稲荷堂の隠し作業部屋はカケルが居る作業部屋を拡張したものだ。
神力が高くなければ見える事すらもない広い空間で、普段は馬頭ショップで受注販売している猫型ロボット掃除機を祓い屋ユーレイ達が作っている。
ここ最近は、災厄は大地震だと想定して、耐震装置を可能な限り多く作ろうとしていた。
紅火の弟子スサとヤタが住んでいる部屋は隠し側で、遅くまで作業した二人が起きて部屋から出ると、神とユーレイで満員御礼だと理俱に言われて作業部屋で部品を作ろうと決めたのだった。
作業部屋側に入るとカケルが眠っていた。
「ん? また新しい弟子か?」
「起こします?」
「だな。邪魔だしな」
【あっ、赤虎師匠【おはようございます!】】
【お早う。まだ寝ているのだな】
【はい。コイツ何か変じゃありませんか?】
【これもまた超越者様の妨害なのだろう】
神力炎を放った。
「わああああっ!?」
目を開けてビックリなカケルは飛び起きて部屋の隅へ。
「五月蝿い」「ぎゃああっ!!」
大きく弧を描いて戻った神力炎に包まれた。
「赤虎師匠、コイツ大丈夫なんですか?」
「ユーレイは死なぬ。
無視して構わぬ。平常心だ」「「はいっ!」」
【浄化炎だ。瞑想させてくれ】【【はいっ!】】
―・―*―・―
ロシアの桜マーズ 空マーズ 忍犬ショウは大帝城から軍本部基地へと探りつつ走っていた。
【お城の地下じゃないの?】
【んとねぇ……戦争しよぉとしてたでしょ?
基地に行く途中で神力補給してたと思うんだよね。
だから森の中に――】【ナンかあるよ~♪】
遠くでショウがピョンピョンしている。
そこそこ離れて平行進行していたので瞬移で集まった。
【下に隠してる不穏禍からの違和感だねぇ】
【ショウは探し上手だね♪】なでなで♪
【僕、犬だも~ん♪】尻尾が嬉しさブンブン♪
【昇華闇障暗黒、激天大闇呼吸着!】
地面に闇呼玉を当てた。
暫し静かに待つ。
【吸着おっしまい♪ 滅禍しにゃいとね~♪
サーロンせ~のっ【滅禍浄破邪大っ輝雷!】】
闇呼玉に凝縮した不穏禍を浄滅した。
【最初から滅禍しないの?】
【ユーレイ勝士さん弱ってると思うから~】
【あ……そうだよね。でも居なかったんだね?】
【うん。でも……】
【また噛みつき玉? 持って来るよ】
ユーレイに戻って地下へ。すぐに浮上。
【全部、中に入ってたよ。
毒薬か惚れ薬かのビンも持って来たよ】
魂納袋を地上へ。自分も出て具現化。
【彩桜?】
【人神様の真核もある。
俺達の魂材様みんな居る……魂の強いトコばかり……】
【他の人神様も居るの?】
考え込んでいるらしく言葉は無く、首だけを横に振った。
サーロンとショウは静かに待った。
【俺達の魂を作ったの、悪ダグさん。
だとしたら悪ダグさんが真核とかの強いトコ抜いて魔女に渡した?
……うん、当たりだね。
悪ダグさん、魔女と悪神の手下?
……微妙? 邪魔されてる?
じゃあ……魔女か悪神の欠片――あ、魔女、終わったんだから入ってないねぇ。
んと、ダグさんに悪神の欠片 入ってる?
ラス1、ダグさん?
……また微妙なのぉ?】う~ん……。
拾知と相談しながらの独り言だ。
『悪ダグさん』とは、魔に堕ちていた頃のダグラナタンの事だ。
【ね、彩桜?】
【うん、あのね。魔女の欠片は終わったの。
ブルー様が終わりて言ってくれたの。
でも悪神は残ってるの。ラス1。
でね、ドラグーナ様を分割して人神様の再生魂材で包んだの悪ダグさんなの。
前の敵神で、今の敵神なザブさんに封じられてるの。
その封珠、ザブさんのお腹の中。
悪ダグさん、真核抜きしてるから、故意に意思ある再生魂材ばっかり選んだんだと思うの。
神力強い真核が欲しくて、カモフラでドラグーナ様を包んだとしたら……ダグさんに悪神 入ってて動かしてた……としか思えない】
【うん。ボクも そう思うよ。お社に戻ろうよ】
【うん!】
ロシアの魔女は帝妃にそもそも潜在していた魂片やら、漢中国の祖母魔女(怨霊)の半分やらでした。
その何れか――何れにせよオーガンディオーネが埋めていたものを森で発見しました。
そして至ったのは、敵神ザブダクルのお腹の封珠に閉じ込められているダグラナタンに魔女の息子・悪神オーロザウラが入っていた、という事。
でも、今は近寄れなくて、どうしようもないんですよね。




