1・2
(1)
遂に修行が始まった。
午前中は実技。午後は座学と実技。ある生薬ではつぼみのまま摘む。少しでも開花すると、効能が低下するから。またある生薬では、茎・葉・実その全てを調達する。
(2)
この日は、プローリアがトワカの滝行を観察してからはや三日が経過していた。
トワカにふらつきが起きる。
「大丈夫ですか。師匠?」
タオルを渡しなが、プローリアは話しかける。トワカはそれを受け取ると苦笑いをした。
「やれやれ。年はとりたくないものじゃな……?!離れろ」
プローリアはトワカ師匠に突き飛ばされた。たくさんのナイフが地面に転がる。ふと見れば、トワカの背中と足にナイフが刺さっている。
「師匠!」
「案ずるな。急所は外れておる」
「チッ。外したか。しぶといじじいだ」
誰がナイフを投げたのかとその当事者を見れば、トールだった。
「トール!あなたなんてことをするのよ」
「見ての通りだ。この爺さんには死んでもらう」
ナイフをその手に持ち、トワカへと差し迫るトールをよそに、プローリアはどうすることもできずにいる。
(いったいどうしたらいいの)
「やめて。やめてよ、トール」
その時だった。リオンとジェシカが駆けつけてトワカの前に立ちはだかる。
「リオン。ジェシカ」
「ここは任せろ。ジェシカ。お前はトワカ老人を」
「ああ」
ジェシカはトワカを抱え、移動する。
「トール。なぜこんなことをする」
リオンが叫んだ。
「知れたこと。トワカを殺すよう命令されたからさ」
「まさか。エメラルダ食医に?」
「さあね」
トールがリオンに襲い掛かる。防戦一方の二人。ジェシカが、ソシアにトワカ師匠を任せ、加勢する。マルカランも自慢のキバと爪で加勢に入る。―すると戦況が変わった。じりじりと岩の壁においつめられるトール。
「さあ、言うんだ。いったい誰の差し金だ」
リオンが剣を突きつけ問い詰める。
「クッここまでか。わかった。言うから命だけは助けてくれ」
トールはナイフを捨てた。リオンは剣を収める。それを見て、ジェシカも剣を収め、マルカランは闘争モードから通常モードへと変化を遂げる。
「ああ。お前たちの言う通りだよ。私は食医の……」
トールが話をしている途中で、苦しみだした。その場で倒れこみ、喉を押さえて、足をくの字にガクガクさせる。
「いったいどうしたっていうの」
プローリアが動揺していると、ソシアが家から戻ってきた。ソシアもこの状況を見て驚いている。―そして信じられないことが起こった。なんと、トールの体が手足からどんどん植物になっていくではないか。
「ぐ、ぐぐあー」
「トール!」
ソシアはトールを抱き寄せる。
「あらあら。みなさんお揃いで。わらわが集まるところにはいつも観衆が多い。いかにわらわが人気者かがわかる。のうダルス」
別の方角から、声が聞こえ、振り返れば、エメラルダとダルスだった。二人の周りには黒装束たちの荒々しい姿。
「ダルス。そしてエメラルダ食医。どうしてこちらに」
「これはこれは。驚いた。リオン王子によく似たお方がおられる」
「いったい何を申されておる。少々お戯れが過ぎますぞ」
「これは面白い。聞いたかダルス。この男。少々リオン王子に似ているかと思うたら、わらわを愚弄しおる。たかだか一般庶民がなんとも無礼。これはおしおきせねば。のうダルス」
「御意」
「ダルス。この俺がわからないのか」
「……」
ダルスは応えない。変わりにエメラルダが言う。
「だまれ。それに……」
エメラルダが嘲笑した。
「考えてみればわかること。このようなむさ苦しい山奥に、一国の王都の王子がおられるはずもない。よし腹は決まったわ。この場で殺してしまえ。仮に本物の王子だったとして盗賊に襲われ、見事立ち向かいお亡くなりになりましたとなれば、その名が傷付くこともあるまい。王都コウリア国もダルスが王となり安泰となる」
「エメラルダ食医。とうとう本性を現したわね。それが本音ってわけ」
プローリアが蔑むようにエメラルダを見る。
「わらわを愚弄する者たちよ。滅びよ。そして永遠にわらわの前から消え、地獄の業火に焼かれ永遠に苦しむのじゃ。極楽には行けぬぞ。お前たちの行き着く先は永遠の生き地獄じゃ」
「ダルス。エメラルダ食医。そなたたちの企み、しかとこの目と耳に焼き付けた。然るべき罪に問うゆえ覚悟されるがよい」
「だまらっしゃい。庶民風情がなんとも愚か。死んで償うがよい」
「くっ。血迷うたか二人とも」
リオンの言葉もつゆ知らず。
ダルスがリオンに飛びかかる。そしてその剣がリオンを襲う。間一髪リオンは自らの剣でその攻撃を受けた。二人の間に激しい火花が飛沫する。
「リオン。ダルスやめてー!!」
プローリアが思わず叫ぶも、当のダルスが素知らぬ顔。
そうしてすぐに黒装束たちはプローリアに襲い掛かる。プローリアを庇うように、ジェシカがプローリアの前に立ちはだかる。
ダルスは強い。現場なれしているダルスにとって逆にそこまで戦場に立っていないリオンとの差が出始める。
ジェシカとマルカランは黒装束たちと争う。プローリアは二人の後ろでたじたじ。なんとか二人の邪魔にならないように細心の注意をはかる。




