6
「『黒きくらげ入り粥』。『クコの若葉のお浸し』。『杏仁豆腐』です。粥には『クローブ』と『レモングラス』と『クコの実』が。さらに杏仁豆腐にも『クコの実』が入っております」
「うむ」
「私は、トールの容態から、生薬の効能を考え、『クローブ』と『レモングラス』と『乾燥黒きくらげ』と『クコ』らを頭の中に思い浮かべ、それらを薬として、煎じて飲ませることにしました」
「それで?」
「なぜなら、私は四川省にある薬膳料理を食し、その味に感動し、これが薬膳料理の極みであると、大きな思い違いをしていたのです」
「そうじゃ。四川省にある飲食店のわしの弟子たちは自称じゃ」
「え」
「もう気付いておろう。前にも言った通り、わしは弟子はとらん。わしの出版した本を読んで勝手に習得したつもりでおるのじゃ。わしが直々(じきじき)に教えたわけではあるまいて」
「やっぱり。そうだったんですか」
「さよう。本来薬膳料理とは、単に料理に漢方薬を加えた料理というものではない。わしはあえて本には記しはせんかった」
「はい」
「そうか。お前はこの本を読んだことがないのじゃな」
「いいえ。実は読んでしまいました。恥ずかしながら」
トワカ師匠は笑った。
「そしてそれが大きな間違いであったのでございます。トールはそれらを含んでも一向に容態は改善しません。そして私は気付いたのでございます。薬膳の極意を」
「うむ。申してみい」
「『五性』の『熱性』・『温性』・『平性』・『涼性』・『寒性』。私はそれらを無視しました。目の前に悪寒で苦しんでいる者がいるのに、私は平性の茶を飲ましたのです」
「そうだったのか」
「はい。愚かでございました」
「生薬の効能を活かすも殺すもcook次第じゃ」
「はい。私は、自身が選んだ生薬の効能を最大限活かす料理は何かを考え、熱性の粥に重きをおいたバランスの良い薬膳料理を作るに思い至ったのでございます」
「うむ。見事じゃ」
そう言ってトワカは目の前の薬膳料理も食し平らげた。
「私は勘違いをしておりました。真の薬膳とは、『五味』と『五性』にあるということを」
「うむ。風邪をひいたトールからヒントを得たのじゃな」
「はい」
「なるほど。それがかえって下手な先入観にとらわれず、真っ直ぐな心意気でもって邁進する心と勇気が芽生え、精進することとあいなったのじゃ」
「ありがたきお言葉。真にありがとうございます」
「真の薬膳料理とは、一つ一つの食材のもつ薬効の調和のうえに成立しておる。そのこと決して忘れるでないぞ」
「はい」
「よし合格だ」
「ありがとうございます」
「明日から、薬膳料理の実践じゃ。プローリア精進せいよ」
「はい。師匠」
プローリアはニコリと歯を出して笑った。