過去
「軽い記憶喪失ですな」
医者は淡々と述べた。私は医師と二人診察室にいる。
「どういうことです?」
「頭を強く打ったショックで一時的に記憶を失っているのです」
「直りますか?」
「ええ」
「良かった」
「ただ……」
「ただ?」
「ショックで記憶を失ったわけですから、再び記憶を取り戻すためには同じくショックが必要です」
「それは頭をぶつけることですか?」
「話はそんな簡単なことではありません。彼の中で、記憶を取り戻すような内的ショックが必要なのです。へたに同じような外的ショックを与えてしまった場合、今度は完全な記憶喪失になって二度と記憶を取り戻さない可能性だってあります」
「そ、そんな……」
「事はデリケートなのです。一時的なショックとはいえ、記憶喪失になってしまったということは、少なくとも彼の中に、何か精神的な悩み・『闇』と医学の専門用語では言いますが、元々あった可能性があります。この闇が、今回、岩に頭をぶつけたことで現れ、記憶喪失が発生してしまった」
「そうなんですか」
「はい。今の状態は覚醒前のもろいガラスのような状態です。ガラスの中に水が満たされればそれでよし。もし、そうではない刺激を与えるようなことをしてしまえば、ガラスは割れて彼の記憶は永遠に戻る事はないでしょう」
「そ、そんな……」
「悪い事はいいません。王都コウリア国にある病院に入院なさい。そこなら設備も整っているし、今後の治療への光もある」
「わかりました」
病室で休んでいるダルスのところに戻る。側にマルカランがいて、ダルスはあやしていた。




