狙う者たち
(1)
ダルスはまだ戻らない。取り込んでいるのだろう。彼は王族なのだ。そもそも自由が許される身ではない。
私は、マルカランと、リアス海岸に行く。下を見下ろせば断崖絶壁。風もビュービュー吹いている。怖い。でも友達のためと覚悟を決める。
人ひとりがなんとか通れる道を、崖につかまりながらおそるおそる下へ下へとくだっていく。マルカランもついてきてくれる。心強い。海に届くか届かないかのところまで下にきて、あと50メートルくらいの道の先に洞穴が見える。
「あれか!」
目的地を見つけて私は勢いづく。崖にそってつかまりながら少しづつ進んでいくものの、波の勢いが強くなってくる。寄せては返す波が岩場に激しくぶつかる。その水が私にかかる。
「きゃー冷たい」
そうして進んでいく道で私はすべった。海水で道がぬれてすべりやすくなっていたのだ。私はバランスをくずしてそのまま海に落ちた。
「マルカラン、くるんじゃない」
飛び込もうとしたマルカランを一喝して私は海の中へ落ちた。
「泳げない」。私は海の中で、顔を出したり沈めたりして近くにつかまれるものがないか手をばたばたさせるも、思ったより海は深く、沈んでいく。「だめ、このままじゃ……」。
それでも私は必死であえぎもがく。
(2)
「バシャーン」と水しぶきがしたのはわかった。私を抱きかかえてくれたことも。それだけだった。私は意識を失った。
(3)
気付いたら、マルカランとダルスがいた。でもダルスは頭に包帯を巻いて横になっていた。そしてもう一人見知らぬ女性が側にいた。
「……私は?」
「あんた、感謝しなよ。この男が海に飛び込んであんたを抱きかかえて助けたんだ」
「それでダルスは、ダルスは大丈夫なの?」
「そうか。ダルスっていうのかい。傷の手当はしたからもう大丈夫だろう。安心しな」マルカランが、「ニャー」と鳴いた。きっと安心したのだろう。
「ありがとう」
女性は、後ろを振り向いてそそくさと歩き出す。
「ちょっと、まって。あなた名前は?」
「『ジェシカ』」
「私はプローリア」
「訊いてないんだけど」
「ジェシカはなんでここに?」
「多分あんたと目的は同じ。……鳥骨鶏さ」
「そうなの。じゃあ、一緒にいこうよ」
「いやなこった。それになんか勘違いしてるみたいだから言っとくけどね。私はあの鳥骨鶏を殺しにきたんだよ」
「えっ、なんですって!」
「あんた。卵をねらってきたんだろ。残念だったね。すでに卵は私が持ち去ったよ。それに鳥骨鶏を殺そうとしたら、肝心のメスがいない。それで時期を見直すことにしたのさ」
「どういうこと?」
「あら、わかんないのかい。どうせ殺るなら恋人同士のほうがいいだろう。愛する者が殺される姿を間近で見せつけてやるのさ」
「なんてひどいことを」
「お前に何がわかる」
そう言って、ジェシカは去っていった。
(4)
「…僕は?!」
「気付いたのね、ダルス」
「君は……誰?」
「えっ。なにいってるの。ダルス王子様。私です。プローリアです」
「ダルス。プローリア。わからない。僕はいったい何者なんだ。……う、う」
ダルスは頭を押さえる。私は顔面蒼白になった。マルカランはダルス王子の周りをくるくると駆け回る。




