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運命の邂逅 -3-

 道中、晶はスィラに様々なことを尋ねた。魔法のことについても尋ねた。彼女は魔法が使えるようだったが、この世界において魔法を使える人間はむしろ少数派のようだった。晶は魔法を使ってみようと思ったが上手く使えなかった。コツを聞いてみたがよくわからなかった。


「私は魔力をきちんと知覚することから始めたけれど……」


 スィラはそう言っていたので晶もそうすることにした。最初スィラは晶のことを恐れている様子だったが時間が経つにつれてそれも薄れていった。それに晶が思ったことはこの世界では人殺しがそこまで珍しいことではないのかもしれないということであった。あるいは単にスィラが変わった女性ということなのか。そのどちらなのかはわからないが晶としてはスィラが自分を恐れることがなくなったというだけで十分である。


「アキラは、どこから来たの?」


 スィラが言った。その質問には非常に答え難かった。まさか『異世界から来た』とは言えないだろう。さて、どう答えるか。晶は考えて言った。


「ちょっとした島国だ」

「島国? 名前は?」

「知らないと思うぞ?」

「知ってるかもしれないでしょ」

「日本」

「ニホン?」スィラは首を傾げた。「知らないなあ」

「ほら」晶は言う。「やっぱり知らない」

「うん」スィラはうなずき微笑む。「やっぱり知らなかった」


 街は賑わっていた。果物を売っている屋台やら何やらが街に溢れている。


「スィラ」晶は言う。「君の親友、スノウと言ったか? 彼女はどういう人物だ?」

「とっても優しい子かな」スィラは微笑む。「そして、とってもかわいい子」

「ああ、すまない。そういう意味じゃあないんだ」晶はスィラに言う。「スノウはどういう立場の人間なのかということだ」

「……それは」スィラは申し訳無さそうに言った。「ちょっと、言い難いかな」

「どこの国の人間だ?」

「……それ、わかるんだ」

「少なくともこの街の人間ではないことはわかっていたけどな。スィラも違うのか?」

「秘密。でも、スノウが捕まっていて、それを助けたいという気持ちは本当」

「そうか。それで十分だ」


 むろん嘘である。本当は山ほど聞きたいことがあった。しかし聞かない方がいいと晶は判断したのである。聞いても無駄だと判断したのである。


「あそこ」スィラが前方の巨大な邸宅に指を向けた。「あそこにスノウが居る」

「そうか。なら、まずは情報収集と行こう」



      *



 クレアはある都市に商売に来ていた。商売相手はその都市の領主だったのだが、彼は非常に気に入らない奴であった。結構な金持ちであり金稼ぎに関しては結構な才を持っているようだったが、人間的には非常に気に入らない奴だった。身体は武人のごとく鍛え抜かれておりその眼からは砂漠の太陽を思わせるほどにギラギラとした光を放っていた。欲望の光、強欲の光。欲しいものは何でも手に入れようという思いの光である。結局、彼との商談は破談となったが、彼はそれと関係なく自分たちに興味を持っているようだった。


 彼女が長野晶と出会ったのはその都市から帰ろうとしている時であった。


「すみません、ちょっと、いいですか?」


 クレアはそう声をかけられて振り向いた。声の主は見たこともない服装をした一人の青年であった。例の領主のせいで少々不機嫌になってはいたが、だからと言ってそれを表に出すほど愚かでもない。彼女は朗らかに「何ですか?」と言った。


「俺とイケナイ遊びをしませんか?」


「しません。では」


「ああ、すみません」青年は微笑んだ。「あなたが美し過ぎて。思わず」


 クレアは青年のことを非常に胡散臭い奴だなと思った。


「実は、少し聞きたいことがありまして」

「それは?」

「この都市の領主について」


 その言葉にクレアは思わず反応してしまった。それを見て彼は微笑みを深くした。


「見たところ、あなたはこの都市の人間ではなく、この都市の領主に良い感情を抱いていないようだ」

「そうだとすれば」何なのか。そう尋ねるより先に彼は言う。

「事情がありまして、俺は彼の家に侵入して囚われの姫を救出しなければならないのです。そのために少しでも情報が欲しいのですが、ご協力、願えませんか?」



      *



 晶が話しかけた女性は名前をクレアという金髪金眼の非常に美しい女性であり奴隷商人でもあった。奴隷商人というところに晶は思うところがあったがそれは一旦保留しておくことにした。今はそれより優先すべきことがある。


 クレアからは様々な情報を得た。と言うより、クレアと一緒にいた少女から、と言うべきだろうか。彼女はクレアの奴隷らしいが晶にはただの付き人またはメイドのように思えた。彼女の名前はスウ。容姿からは幼くも思えたが魔王の例もあるからそれを当てにしてはならないだろう。実際、晶はそれが気になって彼女の年齢を尋ねた。「女性に年齢を訊くことは失礼だと重々承知ではあるが……」という調子で。それを言った時、クレアとスウは驚いていた。……余談だが、クレアはスウ以外の奴隷と一緒にはいなかった。他にも多くの奴隷を抱えているらしいが今は待機させているという話であった。

 スウは言った。「外見でわかりませんかー?」

「容姿と年齢は一致しないものだからね。最近そういった少女と……そう言えば、結局、彼女の年齢は聞いていなかったな。まあ、君よりも幼く見えるがおそらくは結構な年齢だと思われる少女と会ったんだよ。だから、外見ではわからないね」

「それって誰ですかー?」


「君らの王だ」


 その言葉にスウはぴくりと眉を跳ねさせた。

「……それはどういう意味ですかー?」


「君がそうだと思った理由はもう一つある」

 スウの言葉を無視して晶は人差し指を立てて言った。

「クレアさんは見たところなかなかに用心深い性格をしている。そんな人が君のような少女だけを連れて出歩くとは思えない」

「私が魔法の天才だっていう可能性は考えなかったんですかー?」

「だとしても、クレアさんのような人が君の外見から推測される年齢の少女と二人だけで出歩くなんてことは考え難いね」

「……魔法を応用すれば老化を」

「わざわざ君のような年齢の肉体に止めておく必要がどこにある?」

「油断させるために」

「ありえない。メリットとデメリットを天秤にかければ明白だ」

「……はあ」

 スウは嘆息した。

「あなた、何者ですかー?」

「君たちのように美しい女性の味方さ」


 この会話中、クレアは神妙に何かを考えている様子だった。晶はそれも気になったが後にすることにしてとりあえずこの都市の領主に関する情報を聞き出した。


 結果、十分とは言い難いが実行可能ではあるだけの情報を得た。晶は簡単に計画を考え今夜実行することにした。スィラが言うには出来る限り早くした方がいいとのことだったのである。それならば実行可能であるだけの情報を得たならばすぐ実行に移すべきである。むろん、失敗すれば晶はどうなるかわからない。最悪死ぬことになるだろう。しかし晶にとってそのようなことは些細なことだった。自分の命よりも美女のことを優先する。晶にとってそれは絶対的な決まりだった。地球に居た頃からの決まり。実際にそれで命を落とすことになるまで――正確にはその直前にこの世界に飛ばされたらしいが、それまでずっと守ってきた決まりである。今更変えるつもりはないし変えられない。


 とにかく、晶は今夜にでも計画を実行するつもりだった。誰も連れて行くつもりはない。こんなにも危険な計画に美女を連れて行くなんてことは晶にとって出来る限り避けたいことであった。地球に居た頃は何度かそういうことをしなければならない状況に陥ったこともあるが、あれは例外である。そもそもアンジェラは一緒に行かなければ怒るし……まあ、この話はどうでもいい。結論を言えば、晶は単身この都市の領主の邸宅に乗り込むというだけの話である。


 結局、どうやって魔法を使うのかはわからなかった。魔力を外に出して操作するというのが予想以上に難しいのである。これでは銃を扱った方がマシだ。と言っても、この世界では晶が使っていたような銃は未だ発明されていないようだが。魔法があるならばもっと文明が発達していてもおかしくないと思うのだが……まあ、地球とこの世界では文明の始まった時期が大きく異なるのかもしれない。今度この世界の歴史でも調べてみよう。

 生きて帰ることができたなら、だが。


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