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第1話 6 試験、採点

 翌日の昼間から奥野さんのところへ真知が通うようになった。

 夜には引き続きグール狩りの予定だ。

 とりあえず正午付近に起きた俺は趣味である読書に没頭していた。

 黒電話の着信音で中断となったが。

 真知からだ、電話なんて珍しいと思いつつ通話ボタンを押す。

「もしもし?授業はどうした」

『あ、師匠おはよう。先生の急用で授業なくなったから電話した』

 自習時間ということだろうか。

「なにかあったか?」

 無駄に電話してくるタイプとは思えない。

 穏便な話だといいんだけど。

『それがさ、朝お父さんにバイトの内容とお給料の話したら師匠のところに行くって言い出してさぁ』

 よく意味がわからない。何しに来るんだ?またバイトの面接か?

「すまん、さっぱりわからん」

 寝起きで頭が回っていない。

『危険な仕事に高校生の女子を雇うとは何事だ、みたいなこと言ってたよ』

「なにその男女差別。雇った側に責任あるって言いたいわけね」

 ハンターには女性も多い。師匠も同期も女性だ。

 賃金の高さから危険を推測するあたり頭のいい人なんだろうが固定観念に縛られ過ぎているんじゃないだろうか。

『師匠、私仕事辞めたくない』

 うまいことやってくれということか。

 まぁ元からそうするつもりだったけど悪戯心が疼く。

「おっぱい5分触らせてくれたらいいよ」

 セクハラなことも言ってみる。

 この程度の問題はどうにでもなるんだよ。そんな深刻に考えることじゃない。

『……わかった、いいよ』

 そうそうそれで、よくねぇ。

「いや、待て今のなし。重く考える必要ないって言いたかっただけなんだ」

『わかった、んじゃ3分でお願い』

 まったくわかってねぇ。

 どう言っても伝わらない予感がする。

『あ、先生来たから切るね。あとはよろしく。報酬は後払い』

 と言って電話が切られる。

 後払いで受け取らなきゃいかんのだろうか。

 青少年保護育成条例違反で投獄されたりしないんだろうか。

 親父さんが来ることよりもそっちのことを考え続けていた。

 顔洗って歯を磨いて、っと一応スーツに着替えておくか。

 ヒゲは剃る必要がない、ヒゲが生えないのは数少ない俺の自慢の1つだ。

 会社っぽくみせるために応接間にノートPCを設置。

 ライトノベルは自室にしまう。

 いつ来てもいいように食事済ませておくか。

 とりあえずインスタントラーメンを作るんだが最近の食生活がちょっと乱れているような気がする。

 確か真知の父親は普通の会社員だ。業種やら会社名やらは忘れたがどうでもいいだろう。

 どう切り出されるかわからないから色々なパターンを想像しておく。

 名刺も用意しておく。

 特に汚れてもいないが掃除機もかけておこう。

 家庭訪問に来られる側の心境だ。

 トイレ掃除でもしようかと考えたときチャイムが鳴った。

 ドアを開けると眼鏡を掛け、壮年といった風貌の温和そうな人が立っていた。

「はい、どちら様でしょうか?」

 わかっちゃいるがそう声をかける。

 あ、チャッピーそのままだった。まぁいいか。

「園田和彦と申します。こちらで娘が世話になっていると聞き参りました」

 怒り狂っている感じでもないな。これなら穏便に終わらせられそうだ。

「立ち話もなんでしょうからどうぞこちらへ。」

 リビング兼応接間に通す。

「こちらにお掛けください」

 ソファーを指して言う。あとはお茶でも出すべきか。

「今お茶を淹れますので少々お待ちください」

「いえ、お茶は結構です」

 遠慮じゃなくて時間がないって感じだな。別に無理矢理飲ませたいわけじゃないしそれならそれで全然かまわない。

「そうですか、それでは話に入りましょう」

 余裕たっぷりに言ってみる。

「聞きたいことが色々ありましてね。箱入りではありませんが娘のバイト先に押し掛けるなど過保護と思われそうですね」

「いえいえ、近いうちにこういう機会を持ちたいと思っていたんですよ。何分業種が業種なので」

 もちろん嘘だ。こんな面倒なことははっきり言っていらない。

 おっぱいのためじゃないが精一杯受ける。

「娘から聞いてもなんの職業なのかよくわからなくてですね、説明願えますか?」

 俺の口から言わせたいだけなんじゃないだろうか。

「特殊指定害獣駆除施工士と申しまして、ちょっと変わった害獣の殺駆除、捕獲などが業務内容になります。あ、こちら名刺ですのでどうぞ」

 完璧すぎる答えだ。

「業務は夜遅いことが多いようなのですがそこらへんは何故なのでしょうか?」

「駆除を依頼される害獣の活動時間が夜中のものが多くてですね。深夜2時頃までかかるのが業界では一般的です」

 次にくる質問はなんだか予想がつく。

「真知はまだ高校生なので労働基準法ひにっかかっていると思うのですが?」

 あれ、違った。危険性の話かと思ったのに。

「原則22時以降の就業を禁止する、ですが原則ですので例外があります。私共の業界でライセンスを取得して働くのならばそれは適用されません」

 年少者を集中的に育てることが今後の業界の繁栄に繋がる、だかなんだかで例外が通るようになったんだよな。実際には希少種だけど。

 某県では中学生のハンターがいるとかいないとか。

 親父さん渋い顔になってきたな。うちをブラック企業とでも思ってきたんだろうか。

「では害獣を駆除するという業務内容で娘に危険はないのでしょうか?」

 あーきた。これを乗り越えれば終わりだ。

「雇用主、私になりますね、は被雇用者の安全配慮義務がありまして能力に応じて適切な現場を選ぶことで危険を排除するよう意識しております。もちろん不慮の事故などもあるでしょうがそこもカバーできるがごとく準備しています。」

「賃金が常識では考えられないほど多いのは危険な証ではないのですか?」

 間髪入れずにたたみかけてくる。

 もちろん危険手当込みだがそう言ってしまうのはうまくない。

「私共の業界では危険手当も含めて賃金が設定されているため一般に比べると高額になります。バイトと言っていますが実際は助手に近い扱いですので必然的に賃金も高くなります。参考までに今までの領収証などでも出しましょうか?」

 どこにあるかわからんがなー。助手じゃなくて弟子だし本来ならむしろ月謝もらう立場なんじゃないのか。

 ますます渋い顔で考え込む親父さん。

「いえ、結構です」

 言っといてよかった。

「重ねていいましょう、他の事務所は知りませんがうちではバイトを危険にさらすことはありません」

「……」

 嘘だけど。

 それでも死なせることは絶対にない。

「わかりました……。蓮見さんを信頼させて頂きます。娘をどうかよろしく」

「ええ、お任せ下さい。ですがお金の管理までは教えませんのでご両親で話し合ってください」

 冗談めかしていうと親父さんも釣られて笑っていた。

 娘の心配をする普通のお父さんって感じだな。

「それではまだ仕事の途中ですのでこれで失礼させて頂きます。次はプライベートな時間にお会いしましょう」

 そう言ってお酒を飲む仕草を取る親父さん。

 甘党だけど酒は飲むので悪い提案じゃない。

「ええ、是非」

 そう答えると深く頷いて立ち上がり部屋の外へと歩いていった。

 黙って見送る俺、真知の依頼はこれで達成だ。

 改めて考えると危険はない、だなんてひどい嘘だ。

 善良そうな親父さんに非常に申し訳ない気分になった。

 だが本人の意向を尊重するという考えにブレはない。真知がハンターやりたいならやればいい。

 親の顔色伺って職業選べない、なんていうのはくだらない。

 俺の両親はそれぞれおかしな考えを持っていたがやはり自分たちの考える方向に子供を向けさせたいタイプの人達だった。

 姉はあっさりそれを破りやりたいことをやっていたが俺は19歳になるまで親の敷いたレールの上を走っていた。

 結果として駆除士の道が拓けたのだからまぁ別にどうでもいいんだが。

 今は幸せかと問われると困るしな。

 

 真知はだいぶ遅くなるようなので先に今日の仕事を決めておいた。

 方針としてはなるべくグールが対象で数が多すぎないものだ。

 正式な駆除士の弟子として修行して独立、さらにそこから2年経っている駆除士がわざわざ選ぶような仕事ではないがこれも可愛い弟子のためだ。

 あぁ言い直そう、弟子(仮)のためだ。

 21時頃真知が事務所に現れた。

「お疲れ。どうだったんだ?」

「んー内緒」

 ちょっと疲れた様子でそう言う。詳しくは聞かないでやるとしよう。

「あと1時間で出るけど今日はやめておく?」

 安全管理上あんまり疲れているなら連れて行かないのもありだ。

 昼間に「危険はありません(キリッ)」とかやった手前というものがある。

「いや、いかないと特訓の意味ないから」

 そう言うと準備を始める。なんて真面目なんだ。

「昼間に親父さん来たよ」

「あぁお父さんから聞いたよ。なんかすごい納得してたけど何言ったの?」

「規則の説明と我が社のポリシー」

 うさんくさいが事実だ。嘘ついたことは黙っておこう。

「ありがと。問題なく続けられそう。あ、報酬は今払う?」

 忘れてた。自分で言い出した以上はきっちり回収するべきかもしれない。

 所謂建前でさわれるもんならさわりたいだけだが。

 もう開き直って自分に正直に生きていこうと思う。

「んじゃ今もらおうかな」

 心臓がばくばくしてきた。逆境に弱いのはいつまで経っても変わらない。

「そ。んじゃはいどうぞ」

 俺の真正面に立ってそう言う真知。とことん度胸のある弟子だ。エスカレートして襲われるとか考えないのかね。

 そんな度胸はないが。

「顔見ながらだと恥ずかしいんだけど」

 とことんチキンな俺である。

「んじゃ後ろ向くから後ろからどうぞ」

 言い放ちさっと後ろを向く。色々と経験豊富なのかもしれない。俺も経験ないわけじゃないが。

「では失礼して・・・・・・」

 うしろから抱きしめるように胸に触れる。

 今まで生きててよかった。

 大きくはないがそこはどうでもいい。

 触ってるということが大事なのだ。分かるだろ?

「5分、経ったよ」

 集中しすぎていた。慌てて手を離す俺。

「ごちそうさまでした」

 照れ隠しにどうでもいいセリフを言う。

「お粗末さまでした」

 気のせいか顔の赤い真知。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 あ、どうしようこの空間。

「う、打ち合わせしましょう」

 真知が至極真っ当な提案をする。

「そ、そうだな。えーと大学のキャンパスにゾンビが出たって話なんだけど問題なのはちょっとした森になってるってことかな」

「探すのが大変ね」

 ふぅ、と息を吐きながら真知が感想を言う。

「不意の遭遇とかもありえるだろうから昨日よりちょっと面倒くさい」

 森だと木の密集具合にもよるが刀が振りづらいということもある。

「あとは移動しながら聞くわ。時間でしょ?」


 今日の依頼は大学のキャンパス内にある森の中ということだった。

 歩くこと10分程度、自分の位置を思いっきり見失ったがグールを発見。

 少し開けた場所を緩慢な動作で移動している。

 俺は真知にやってみせろ、と合図を送る。後ろから肯定のサインが送られる。

 真知が俺より前に出て慎重に進む、まだ見えていないだろうが気配は掴んでいるようだった。

 自分の身体能力でもし真知が危機に陥ってもすぐに助けられる位置まで移動する。

 真知はやはり真後ろからの奇襲をえらんだようだった。

 マチェットを両手で脇構えのような構えで近寄っていく。

 昨日よりもう少し近づいた標的との距離約15mからダッシュを始める。

 グールも気がつき迎撃しようと向かってくる。

 相手の手が触れるか否かの距離でマチェットの重さで回転しグールの首にマチェットを叩きつけ手を離す。

 なるほど、両手持ちに遠心力で威力を上げたのか。

 グールは吹っ飛びはしたが首が落ちるほどではなく立ち上がり真知に迫ろうとしている。

 真知はすでに射撃の準備を終え標的を見据えていた。

 精度をあげるために距離を少しでも縮めようとしているのだろう。

 そして射撃が開始される、タタタンと3発ずつ5回の射撃だった。

 正しい射撃だだった。

 射撃が終わってほとんどの弾があたっているにも関わらずグールはまだ動いていた。

「師匠、今日はここまでしか準備してないわ」

 ギブアップ宣言も潔い。

 俺は茂みから飛び出し居合の要領でグールの体を2つに断つ。

 技術でもなんでもなく超越した筋力で斬っただけだが。

 程なくしてグールが消滅し真知が駆け寄ってくる。

「今日思いついたことは全部やってみたけどダメだったわ」

 少し不機嫌そうに言う。

「いや、発想はいいんじゃない?もっと重い斧とかだったら首断ててたと思うけど」

「斧はイヤ。刀剣で頑張りたい」

 すさまじい拘りようだ。

「あともうちょっと工夫したら斬れそうだから頑張れ」

「明日は師匠の斬り方をもうちょっと観察したいかな」

 あまり参考にはならんと思うが。

 

 それから3日、同じようなことが続いた。

「今日はどうする?」

「最初から最後まで私がやる」

 きっちり仕上げてきたらしい。

 どんな大技なのか観戦させてもらおう。

「前方200m、グールだ」

「師匠の視力ってどのくらいあるのかしら……」

 5.0ぐらいかな。

 継承が終われば近い、もしくは俺以上の視力になるわけだが。

「50mまで近づいてからやるわ」

 その距離が一番最初の一撃に適しているのだろう。

「わかった、あとは自由にやっていいぞ」

 残り100m、真知が抜刀する。

 残り50m、ダッシュ開始。

 こちらに気づいたグールが迎撃しようと手を伸ばす。

 慣れたものでそんなものお構いなしに遠心力を乗せた一撃を首に叩き込む。

 そのままの勢いで左足を右足の前に出し左足を支点に軽く跳躍、跳躍と共に回転力を加えた右足の踵で首に刺さっているマチェットに一撃。倒れこむグール。

 俺が見せた後ろ回し蹴りを応用してローリングソバットにしている。だがそれだけでは足りない。

 着地と同時に右足の踵を高く振り上げ執拗に首へかかと落としを入れる。

 かかと落としはマチェットを狙わず純粋に首への打撃だがそのお陰でマチェットが首から外れる。

 素早くマチェットを拾い上げローリングソバットの要領で回転力を加えたマチェットを先程までマチェットが刺さっていた部分に叩き込む。

 今度は首の切断に成功し首を失ったグールが火に包まれる。

 一瞬の余韻を残してグールは消滅した。

「おー。4連続技か。だいぶ考えたな。っていうか随分頑丈な靴だな。安全靴?」

 肩で息をしている真知に話しかける。

「安全靴っていうかハンター御用達の靴だって奥野さんが買ってくれた」

 借り1追加されました。

 しかし真知の身体能力はこんなに高かっただろうか。

「もしかしなくてもすっごい練習した?」

「学校のテストなんて目じゃないぐらいには頑張ったよ」

 笑顔で言う真知。

 テストも頑張れ。

「ふぅ。なにはともあれ課題達成だな。お疲れさん」

 缶コーヒーを手渡しながら労う。

「ありがと。これで正式な弟子?」

 まぁそういう話だったしなぁ。

「とりあえずこの仕事片付けてから話そうか。弟子になるかならないかは真知が決めることだけど話しておかなきゃならんことがある」

「わかった。でももうグールいない気がする」

 俺もそんな気がする。

「ま、一応ね」

 今のうちに何を話すか整理したい。

 継承するかしないか、多分継承することになるんだろうな。

 タバコに火を点け紫煙をくゆらせる。

 姉の言葉を思い出す。

 『大きなものを失ってその代わりに別のものを得る』だったか。

 超越者の能力を失って弟子を得る、と考えたが俺にとっては最悪だし世間一般の超越者にとっても決していいことじゃないだろう。

 引退決めてる人ならともかく。

「んじゃ戻るか」

「了解」

 継承は別に構わない。

 問題は俺が人殺しだと伝えることだ。


「ま、座って」

 継承の前に聞いてもらわなきゃいけないことがある。

 座るように勧めはしたけど対面のソファーじゃなくて何故か横に座る真知。

 まぁどこでもいいんだけど。

「駆除士には何か大きな秘密があったり?」

 なかなか話出さない俺にせっつくように訊く。

「単純に言うと怪異を狩るのが表の仕事、もちろん秘密なんだけど裏の仕事がある」

 どう話すかなかなか決まらない。決断力というか語彙が弱いんだな俺。

「裏の仕事ってのはブラックハント。略さないで言うとブラックリストハント。意味わかる?」

「わかんない」

 そりゃそうか。

「つまり、お尋ね者とか賞金首になってる人間を対象にしたハントってこと」

 ずばっと言ってみる。

 どういう意味かぐらいはすぐわかるだろう。

「それはつまり、人間を……」

「そう。人間を殺す。捕縛することもあるけどね」

 あっさり言ってみる。

 重い言葉だが当たり前のように。

「そのブラックって人達は犯罪者なの?」

 もう何も隠す必要はないしさくさく進めてしまおう。

 何かすごい悪いことをやっている気分だ。

「協会に所属してない超越者、超越者の説明は後でするよ、術師、ここら辺は勿論でそういった人間を幇助する人間あるいは組織、なんてものが対象になる。北海道じゃ暴力団とかね。会合ででていたルルイエなんかはその最たる例だろうね」

 大きなところはこんな感じでいいはず。

「やーさんとケンカするってこと?」

 ちょっと違う。

 いや大分違うか。

「先に超越者の説明しとく。本当にそのまま人間を超越してる者を指してそう呼ぶんだ。勿論俺も超越者、奥野さんも恋ちゃんもそう。駆除士の半分以上は超越者だと思う。何がどう超越してるかって言うと・・・・・・」

「身体能力」

 正解。

「そう、普通じゃ考えられない身体能力を誇る」

 そこが一番大きいところ。

 あと2つあるけど見せてないからわからないだろう。

「師匠が片手でグール真っ二つにしてたりするから何かあるんだろうな、とは思ってたよ」

 まぁあれはわかり易すぎたな。

「身体能力の中には五感も含まれてて個人差はあるけど大抵人間を超えてる」

 俺は視力と味覚が特に上がった。

 味覚とかどうハンターの仕事に活かせばいいのかわからない。 

「視力5.0って冗談じゃなかったのね」

 5.0じゃきかないと思う。

 さて次の話に進もう。

「身体能力だけじゃなくて他にも2つある。1つは特殊能力、これは持ってる人が希だけど。もう1つは増える能力、継承って呼ばれてる」

 特殊能力は1人しか見たことがない。

 でも確実に存在するものだし伝えておかなければならない。

「師匠の特殊能力は?」

「残念ながら俺は持ってない。超越者になったときから使える人とそのあとの修行で開眼する人と2通りらしい」

 俺もいつかは開眼するかと思って修行してる。

 確率的にはかなり難しいとは思うが。

「じゃあ継承って自由にできるの?日本人みんなそれになれば駆除士廃業になっちゃうよね?」

 素晴らしい先読み。

 頭のいい弟子は楽でいいな。

「継承には回数制限がある。法則性はほとんどなくて記録によると多くて4回、平均して2回。さらに継承したはいいけど受けた側に何も変化がなかったって記録もある。継承を使い切ると超越者の能力の大半を失うんだけど、継承失敗か、と思ったら自分の能力まで失って大騒ぎになったらしい。それでも継承しなきゃ超越者が絶えちゃうしね。継承したがる、増えたがるのはある意味本能だって説もある」

 うまく伝わっただろうか。

 超越者の説明なんて聞いたことしかないからだいぶ難しい。

 真知はなんだか考えこんでるようだ。

「ブラックハントの依頼の話に戻るけど、拒否権は勿論ある。だけど断り続けていたりすると大きな依頼が来なくなる。一人前とみなされなくなるってことなんだけどね。何でも、狩れてこそハンターだと俺は思うんだけど真知はどうかな。ちなみに恋ちゃんは断り続けてる。そのお陰で本人曰く底辺、なんだよ。」

 これで全部話した。

 あとは真知がどう判断するかだ。

「質問、師匠は人を殺したの?」

「殺したよ。多分これからも」

 答えていて胸が痛い。

「仕事だから?正義だと思ったから?」

「仕事だからってのは勿論ある。でも人殺しに正義はないと思ってる。それでも殺すのは目的があるから」

 そう目的を達成するまで止まるつもりもない。

「目的って?」

「それは超個人的な話だから言わない」

 拒絶。

 誰にも理解される必要がない。

「わかった、師匠にはもう聞かない。弟子になるっていうのはその超越者になるっていうことなのね?」    

「そう、継承されて始めてスタートライン」

 ここまでは継承に相応しいか見ていたに過ぎない。

「じゃあ私はまだ本当の駆除士の世界を見ていないってことね」

「そう。ここで降りるのもありだし正式に駆除士の世界に足を踏み入れるのもあり」

 血で染まっただけの世界じゃないのは確かだが多く血が流れるのも確かだ。

 死ぬかもしれない、言わなくても伝わっているだろう。

「継承を受けるわ。楽しいだけの世界じゃないのは当たり前だもの」

 軽く頷く。

 まぁこうなるような気はしていた。

「んじゃ俺流だけど駆除士の心構え言うから頭にメモっといて。たいしたことじゃないけど」

 前置きして語りだす。

「特殊能力を獲得したら口外するな。必殺的なものがあるから奥の手にしたほうがいい。

 殺すと決めたら確実に殺せ、躊躇するな。逆に殺される可能性あるからね。

 相手の力量を見定め相手の方が強いと判断したなら何をおいても逃げろ。死ぬよりマシって話。

 殺したい人間を作るな。それが自分の道になっちゃうから。以上」

「全部了解、話さない、躊躇わない、無茶しない、恨まない」

 重畳。

 まだ話すことがある。

「あと超越者の誓約ってのがあってこれも頭に入れといて。

 この力を悪用してはならない。

 この力は常に研鑽されなければならない。

 以上2つ」

「本当に当たり前のことばっかりなのね」

 当たり前だけど難しい。

 少なくとも俺は偉そうにこれを言える立場にない。

 だが弟子を持つという責任を果たすために必要なことだ。

「守れるならそれでいいさ。もう継承しちゃう? 儀式は簡単で1時間もあれば終わるけど」

 また少し悩んで言う。

「感覚が変わるっていうか人間やめるようなものなんでしょう?」

「いや、さほど感覚的には変わらない。ふとした拍子にあぁ人間超えちゃってるなぁ、って思う程度」

 劇的な変化っぽいが力は意識して使わなければあまり普通の人間と変わらない。

「わかった。やっちゃいましょう。これからもよろしく師匠」

 ぺこりと頭を下げる。

「ああ、よろしく。んじゃ右手出して」

 言われた通りに右手をすっと出す真知。

 出された右手の掌に俺の掌を合わせる。

「目を閉じて来るものを受け入れるイメージで、なんていうか心を開く感じで」

 目を閉じる。

 俺の中にある塊を右手から流し込む。

 初めてやったがやり方は間違っていないようだ。

 出し切るイメージで力を込める。

 真知が小さく震える。

 その状態が続いた。

 少しでも継承し忘れなんてものがないように必死になって送る。

 やがて俺の中で1つの力がなくなったような感覚があった。

 これで終わりなのだと超越者の力が言う。

「はい終わり。あっさりしたもんでしょ」

 真知がゆっくり目を開きあたりを見渡しながら言う。

「視力に大きな変化はないわね。ね、師匠の刀振ってみてもいい?」

 早く実感したいのだろう。

 俺も不発ではないことを確認したい。

「ほれ。あんまり本気で振るなよ。抑え気味に、そうだな体の軸がブレないように振ってみろ」

 真知が抜刀する。

 正眼に構え前を見据える。

 すっと一閃、体の軸もブレていない。完璧な一太刀だと思う。

「うわ、刀が手の延長みたいだった」

 超嬉しそうだ。ぶんぶん振り回すのはやめてくれ。俺が死ぬ。

「継承終了」

 継承されたときはそんなことはなかったのだがひどく眠い。

「師匠、この刀ちょうだい!」

「ダメ」

 真知の武器も考えなきゃなぁと思いながら意識が沈んでいく。

 まぁ時間はたっぷりあるしあとは起きてからだな。

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