第1話 5 コミュニティ、名前はまだない
18時過ぎに真知が事務所に現れた。
「師匠お疲れ様ー」
「よう、お疲れ」
学校が終わって真っ直ぐきたわけじゃないだろう。
前に言ってた特訓とやらだろうか。
そこは敢えて詮索しない。
「今日何時からだっけ?」
「20時に居酒屋さん。今思ったけど真知を連れて居酒屋は色々とやばそうな」
深く考えていなかったがどうなのだろう。
まぁリーダーがなんとかしてくれるだろう。
「そのコミュニティって何人いるの?」
「俺を含めて3人。できたばっかりの弱小コミュニティだよ」
中身は濃いんだが言ってもわからないだろう。
メンバーを紹介するときに濃さが伝わるように頑張ろう。
「師匠、銃のメンテナンスの仕方教えて」
「ああ、忘れてた。ベレッタはよくわからんけどなんとかしよう」
ググりながら分解し清掃していく。
油とかは流石に常備してあるので問題ない。
俺のコルト・パイソンは見た目が気に入って買ったのだがあまり使わない。
ちなみに真知の銃にはフルメタルジャケットが俺の銃にはAP弾が入っている。
真知が自分でこれがいいって言う弾があればいつでも変えてやるつもりだ。
AP弾は対人を意識してのものだがまだ真知には言わない。
最後に銃口を通してメンテナンスを終わる。
「意外に簡単でしょ?」
「思ったより単純な作りなんだね。ありがとう師匠」
さてそろそろ歩いていけば丁度いい時間だ。
「おーっす。刑遅いよ」
20分前に着いてるのに文句言われる不思議。
「恋ちゃんが早すぎるんだって、30分前は常識ってどこの国の常識だよ」
遅れてくるよりはいいけど。
「あ、噂の弟子ちゃんね。アタシは宮藤恋、こいつの姉弟子だよ」
「園田真知です。よろしくお願いします」
普通の挨拶だ。真知が猟奇的になるのは刃物が絡んだときだけらしい。
「奥野さんは?」
奥野さんとはこのコミュニティーのリーダーで俺と恋ちゃんの後見人でもある人だ。
時間はきっちり守るタイプのはずだが。
「吾輩を呼んだかね?」
背後にいた。
俺より高い身長に筋骨隆々の身体。
「まずは皆座りたまえ」
奥野さんが着座を促す。
奥野さんの隣に恋ちゃん、俺の隣に真知で向かい合う。
「まずは飲み物の注文だね」
喉が乾いた俺が言う。
店員さんを捕まえて注文をとってもらう。
真知はアルコールやばいだろうとのことでコーヒーを頼んでいた。
「蓮見に弟子とは面白い話であるな」
「だよね! 最初聞いたとき笑っちゃった」
結構評価がひどい。
真知が可哀想な生き物を見る目で俺を見る。
「真面目に師匠(仮)やってますってば」
恋ちゃんにはタメ口だが奥野さんには一応敬語を使う。
恋ちゃんは誰にでもタメ口だ。
「だから面白いんだってば」
笑いながら答える恋ちゃん。
「ふぅ、とりあえず、園田真知、16歳、駆除士希望。あとは自己紹介で」
「園田真知です。今は弟子(仮)なのだそうですが正式な弟子目指してます。よろしくお願いします」
ぱちぱちと拍手を送る2人。
「弟子(仮)とは蓮見も宮藤もやったあの試験であるな?」
「ですです。これは最低限ってことで」
深く頷く奥野さん。
「ではこちらも自己紹介しようではないか。奥野英忠駆除士である。メインアームはトンファーで怪異には使えないことも多いが総合格闘をやっているのである」
奥野さんは仕事のときはプロレスラーのようなマスクをしている。
何か効果があるんだろうが趣味としか思えない。
「次はアタシね。宮藤恋、駆除士だよ。メインアームは小銃+銃剣。刑の弟子だと誤解するかもしれないから言っておくけどこの業界銃をメインに使ってる人多いんだよ」
そういえば言い忘れてたな。
でもまぁ刃物狂の真知には関係ない。
「今の課題でつまづいてる部分あったら遠慮なく2人に聞いていいからね」
「うん、そうする。奥野さん、ちょっと訊きたいことあるんですがいいですか?」
さっそくか。
この話聞いてもいいのか悩んでいたら恋ちゃんに声かけられた。
「ここじゃタバコ吸いづらいだろ?ちょっと外いこうぜ」
ナイスだ。
「それじゃちょっと行ってきます」
店の外にある灰皿を囲んで話す2人。
おっとその前にタバコに火を点ける。
「刑、例の課題ってことは継承予定してんの?」
煙を吐きながら答える。
「予定してるよ。流石に1回目で力失う程運悪くないでしょ」
「そっか、優秀なんだねあの子」
継承とはそのままだが超越者の力を継承することである。
1回のみと決まったものではなく多くて4回、平均2回と言われている。
ちなみに継承の力を使い切ると超越者としての力も大半を失う。
故に継承を受けるというだけで優秀と言われるのだ。
「身体能力や判断力もそこそこなんだけど直感が半端じゃない」
「刑も高いって言われてたけどそれより上ってこと?」
「測定器があるわけじゃないからなんだけど多分俺より上」
テストできればいいんだろうけど明確な基準がない。
それこそ俺の直感だった。
「仕事の方はどうすんの?裏の方も続けるの?」
「俺には裏って認識ないんだけど、まぁ変わらずやるさ」
そう言ってタバコを消し灰皿に入れる。
「あんまり無茶しないようにね」
恋ちゃんも同じ動作をとり店の中へ戻っていく。
続いて俺も。
「師匠、明日から仕事始まるまで奥野さんのところ通っていい?」
なんだ藪から棒に。
「奥野さんから技伝授してもらうってことね」
格闘術になるんだろうか。
「心配せずともよい。吾輩は弟子も卒業してる身ゆえヒマはある」
「奥野さんがいいんなら行っておいで」
弟子1人卒業させてる奥野さんだから心配はない。
「奥野さんのとこ終わったらアタシのとこにもきなよ」
「恋ちゃんも弟子とればいいじゃん」
正論すぎる俺。
「協会からもそういう話はくるんだけどさぁ。まだまだ現役でいたいしちょっとね」
まぁわからんでもないけど人の弟子に何を仕込むつもりなんだか。
「では明日からに備え今日は深酒せんほうがよいな」
真知を連れてハシゴは避けたいので同意。
「無事に弟子になってからやりなおでばいいしね」
恋ちゃんも同意してくれる。
弟子(仮)なんて状態はさっさと終わらせたいという熱い思いが伝わったのかもしれない。
「では解散ですかね」
切り上げに入る。
「その前に連絡を一点だけ、ルルイエという名の組織が謎の召喚儀式だの魔人錬成だのを目論んでいるという噂が耳に入った。各自注意しておくように」
「魔人錬成?」
勿論聞き覚えがないわけではないが。
「人間の上に怪異を召喚するあれ?」
と恋ちゃんが補足してくれる。
「まったく意味がわからんのだがやろうとしてはいるらしい。協会の依頼で調査することになったら十分に気をつけるのだぞ」
よくわからない話だが一応覚えておこう。
「連絡は以上だ、では真知くんは明日から学校が終わったら吾輩のところにくるがよい。一応名刺は渡しておくが詳しい場所は蓮見に訊くとよい」
「あ、アタシも名刺あげるよ。わかりやすいとこにあるから遊びにおいで」
名刺を受け取る真知。
このコミュニティに入るかもハンターになるかもわからないが悪くないことだろう。
「ありがとうございます。今日は楽しかったです、次は弟子になってから」
居酒屋は成人してからだろう、とかいうツッコミは控える。
何を特訓するのかさっぱりわからないが進展はあった、明日からが楽しみだ。
派手な大技が期待できそうな気がする。
そういえばこのコミュニティいつになったら名前決まるんだろう。




