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第1話 4 閑話休題

<明日遊びにきなさい  千波矢>

 昨日帰ってメールを確認したら姉からメールが入っていた。

 東京に仕事で行っていたはずだがいつの間に帰ったのやら。

 こっちも修行でいなかったりと久しく会っていないことを思い出す。

 とりあえず姉の命令には色々あって逆らえない身分なのだ。

 姉は壊滅的に朝が弱いから午前中は行かないほうがいいだろう。

 とありあえず昨日聞いておいた真知のアドレスにメールを打つ。

<夕方まで不在するから自由行動で>

 事務所は鍵があいてるし真面目な真知はマチェットでも振り回してることだろう。

 午前中のうちに真知のライセンス受け取りに行ったほうがいいな。

 協会北海道支部は中央区の大通りにある。

 無論車では行かない。

 ぱっと見てもなんの建物なのかさっぱりわからないのが協会のビルだ。

 目立つことを良しとせず日陰であろうとするものらしい。

 入口から入って受付に話しかける。

「すいません。弟子の申請してて受理の電話まだなんですが時間ないので直接来ちゃいました」

 支部長あたりと話させてくれればさっさと終わるんだけど。

 あくまで民間の組織なのでそこまでお役所的ではないため融通が効くのがここのいいところだ。

「少々お待ちください、あ、ライセンスはお持ちですか?」

 財布の中に突っ込まれてるライセンスを取り出し提示する。

「蓮見様ですね。支部長がお待ちです。部屋はわかりますか?」

 おっと予想外に向こうが待ってるとかどうしたものやら。

「えーと最上階ですよね」

「いえ、2階です」

 今確実に笑われた。

 俺の頭の中に地図なんて存在しないんだよ。ついでにコンパスもない。

「ありがとうございます」

 一礼してエレベーターへ向かう。

 報告もメールで終わる時代だし協会にわざわざ足を運ぶことは希だ。大抵の手続きは電話とメールで済む。

 2階で降りる。目の前の扉に支部長室と書かれていて非常にわかりやすい。

 とりあえずノックを2回、

「開いているよ。入りたまえ」

 扉を開けて中に入る。

 支部長は推定50代のおっさんだ。弟子時代に何度か会ったことがあるが全然変わっていない。

「失礼します」

 一応お偉方なので礼儀正しく。

 ちなみに今日はネクタイを締めている。支部長に会うことを予想してじゃなくて姉がきっちりしていないと機嫌悪くなるからだ。

「久しぶりだな蓮見。調子はどうだ?」

「お久しぶりです。まぁぼちぼちですね」

 他愛のない挨拶、さくっと要件聞くか。

「支部長は今日私を待っていたそうですが何かご用件でも?」

 予想していたのか小さく頷き答える。

「蓮見から弟子の申請があったとあればどんな心境の変化があったのか尋ねてみたくなるのが人情というものだろう」

 年の半分は修行でいないことに対するイヤミだろうか?

 それとも……

「逸材、かもしれないと思いましてね。バイト扱いは無理とのことでしたので弟子にしたまでです」

 素直に答える。

「ふむ、協会の仕事はなんであれ受けてきたお前だが……弟子をとってスタイルを変えるかね?」

 やはりそっちの話か。

 それなら答えは決まっている。

「弟子をとろうが私は私のやり方を変えるつもりはありません」

 今まで通りどんな、仕事だろうとこなす。それだけだ。

「弟子も同じ道に?」

 それは先送りすべき問題なんだよ支部長。

「継承するまでは通常の案件しかやらせません。継承した後なら彼女の自由とします」

「ふむ。まだ幼い弟子だが善導したまえ。ライセンスはこれだ」

 懐かしい弟子のライセンス。支部長はさっきの答えで納得したんだろうか。

「私は蓮見のようなハンターが増えることを期待しているよ」

 つまり、ブラックハントもできるように育てろ、と。

「期待に応えるのは私ではなくて彼女ですね。それではこれで失礼します」

「うむ。しっかりな」

 一礼して退室する。今俺が抱える問題を表面化させてくれるとはありがたいことだ。

 エレベーターで1階に降り受付のお姉さんに手を振って外に出る。

 そろそろ姉のところへ向かったほうがいいだろう。


 蓮見千波矢は駆除士ではない。かと言って一般人でもない。

 術師、プロの拝み屋ってやつだ。

 それも予知を始め念動力、召喚、呪具設計と多才を誇り業界屈指と言われる術師。

 現在は協会と契約を交わし北海道の霊地の管理人もやっている。とはいえ仕事はそれだけではないらしく年の半分は東京で仕事をしている。

 定住しているのかいないのか怪しいところは姉弟似ている。

 北海道にいるときは北区にある、控えめに言ってボロアパートに住んでいる。年収から考えると絶対おかしいのだが姉が気に入っていると言えばそれまでだ。

 姉弟仲はいいのだが如何せん姉は天才、会話が成り立っているようで成り立たない。

 そこがまたおもしろいような気がしないでもないが苦労はする。

 アパートの薄暗い廊下の奥に一際暗い部分が姉の部屋の入口だ。

 チャイムを押す。

 中からかたかたと変な音が響いてくる。

 そしてゆっくりと扉が開く。

「待っていたわ刑。さぁ上がりなさい」

 着物姿だが裾に木製の何かが複数ぶら下がっている。これが音の正体か。

「久しぶり姉さん。着物の裾に何かついてるよ」

「うふふ、これはね、付けているのよ」

 なんだか非常に嬉しそう。それがなんなのか説明して欲しいところだが立ち話もなんだし部屋に上がる。

 1LDKの室内は奥の部屋が寝室で手前の部屋がリビングだ。リビングの隅には部屋の高さ限界ぎりぎりサイズのトーテムポールがある。まだあるのかこれ……

「刑、お姉ちゃんは刑がロリコンと知ってとても悲しいわ」

 座ったとたんに突然ひどいことを言われた。なんだその否定しづらいデマは。

「ちょ、ちが」

「わかってるわ。でも18歳になるまでダメよ?」

 何もわかってないような!

 何がダメなのかわからないけど聞きたくない。

「姉さんが何を言ってるのか相変わらずわからないよ……」

「刑が師匠だなんて少しおもしろいわねぇ。うふふ」

 どこで知ったのか、とか聞くまでもないだろう。予知したか支部長に聞いたかの二択だ。

「今度連れてきなさい。占ってあげるから」

 怖いもの知らずの真知でも流石に怖がるんじゃないだろうか。

 それなら連れてきてもいいな。

「姉さんのは占いじゃなくて予知でしょ」

「あら、そうだったわね。些細な間違いよ」

 予知、この能力だけでも大金を稼いで生きていける能力。だが姉はあまり予知したがらない。理由は先のことが見えすぎたらつまらないから、だとか。

 代わりに呪具制作の能力は濫用する。さっきの着物の裾に付いていた木片も何かの呪具だろう。

 これは俺もお世話になっている。

「姉さん、刀の改造ありがとう。すごい使い勝手いいよ」

「あぁ錆びず、朽ちず、折れない、代償に・・・・・・」

「持ち主をその刀で斬ると必ず大ダメージ」

 研ぎがいらないのはそういう理由だ。大ダメージと表現を甘くしたが多分死ぬだろう。

「元から呪われている刀だもの、改造は簡単だったわ。デュランダルって剣をイメージして改造したのよ。うふふ」

 並の術師にはそんなことはできない。

「でも危険なのが問題よねぇ。少し先を見ておきましょうか?」

 予知してもらえるならありがたい。本当に今日は機嫌が良さそうだ。

「是非おねがい。俺もこの先を知っておきたい」

 姉は目を閉じ俺の額に手を添える。

 体感的に1時間ぐらいだろうか。予知を終えたらしい姉が目を開く。

「ふぅ。なんだかおもしろいことになるわねぇ」

 え、そんだけ?

 と、呆然とした顔の俺を見て嬉しそうに語りだす。

「貴方は大きなものを失うわ。

 そして代わりに別のものを得る。

 それが貴方にとっていいことなのか悪いことなのかはわからないのだけれど。

 そこから貴方の道は2つに別れる、でも選ぶのは貴方じゃないわ。

 ふぅ、今言えるのはこんなところかしら」

 姉は予知したこと以上は話さない。内容は自分で考えるしかないのだ。

 気になったのは、大きなもの失う、というところ。

「あらあら、考え込んじゃったわね。お茶でも淹れてくるわ」

「ありがとう、ちょっと考えさせて」

 もし刀が原因で失うというのなら俺の命だろう。代わりは有り得ない。

 一般常識的に得てはいけないものを何かを代償に手に入れる、という言い方のような気もする。

 ちょっとスマホにメモっておこう。

「はい、お茶よ。色々混ぜて甘くしておいたわ。うふふ」

「ありがとう、甘党なの覚えてたんだね」

 色々ってなんだって思うのは思うけど体には悪くないだろう。

 ん、お茶と一緒に羊皮紙とペンを持ってきている。予知は自分でメモしないはずだけど。

「これ?創作意欲がわいたから設計図を描くのよ」

 姉は絵が上手い。どのくらい、と聞かれてもこまるが美術の専門学校に通っていたぐらいだ。

「なんの設計図?」

「武器、剣・・・・・・なんという剣なのかしら?」

 別の紙に簡単に書いてくれる。

「カトラス?にしては随分大きいような」

「そうそれよ。改造カトラス。設計図は描くから刑が作るのよ」

 鍛冶はできないんだけど。

「言い方が悪かったわね。いつもの武器屋さんに設計図と材料を持ち込むのよ」

 いつもの武器屋とは俺が愛用しているミリタリーショップ(裏は何でも屋)だろう。

「武器はまにあってるんだけど・・・・・・」

「絶対に必要になるわ。うふふ」

 予知で見たことと関係してるっぽいな。これは素直に作るべきだろう。

 姉はすさまじい早さで設計図を仕上げていく。

 金属の種類から刻む文字まで精密に。

「ふぅ、できたわ。刑、確認してちょうだい」

 中身を確認する。全長90cm重量1200gって俺の刀と同じだな。

「これはどんな剣をイメージして設計したの?」

「刑の刀と同じデュランダルよ。ただしこっちはきちんと聖遺物で作られているから呪いはないわ。刑の刀の兄弟、いえ、兄妹かしら。うふふ」

 というかわかるのはそこまでで混ぜるものやらさっぱりわからない。

「姉さん、材料がさっぱりわからない」

「刀身は普通の鋼よ?」

「そっちじゃなくて混ぜ物のほう、間違いなく持ってない」

 聖人の骨とか書いてあるような気がするんだけど。聖遺物ってこれのことか。

「材料はちゃんとこの部屋にあるわ。刑は心配性ね。うふふ」

 ボロアパートに博物館レベルのものが置いてあるとはルパンでもわからんよね。

「設計は私なのだから銘も決めなくちゃね。そうねブルーミング・リリィにしましょう」

 咲き誇る百合?どんな意味だ。

「可愛い名前でしょう。うふふ」

 考えるだけ無駄か。

「設計図に書いといてね。柄に刻んでもらうから」

「それもそうね。」

 値段で考えたら恐ろしいことになりそうな剣だな。聖剣のカテゴリーになるんだろうな。

「さて材料を揃えるから今日中に持って行くのよ」

 今日とはまた。出来上がる日になにかあるのだろうか。

 今の刀を失ってブルーミング・リリィを得る。有りそうだが俺にとっていいことなのか悪いことなのかわからない、という文に結びつかない気がする。これだけの剣なら誰にとっても悪い話じゃないような。

「刑、押し入れの奥に壺があるから取ってくれないかしら」

「了解、中身なに?」

「骨よ。うふふ」

 骨壷かよ。

「さぁこれで全部の材料が揃ったわ。落としたりしてはダメよ。流石にこれだけの材料は揃えるのにそれこそ骨が折れるから。うふふ」

 本当に上機嫌だなぁ。この材料あったらもっといろんな呪具作れたりするんじゃないだろうか。

「勘違いしてはだめよ、刑。これは私のためでもあるのだから」

「なるほど。予知の中に姉さんが出てきたってことだね」

 こう見えて切羽詰っているのかもしれない。俺の運命にも関係してくるっぽいし確実に完成させなきゃな。

「んじゃ俺そろそろいくよ」

「私は明日からまた東京だから次はいつになるかわからないわね。元気でね、刑」

「姉さんこそ元気で」

 部屋を出る。最後まで姉は上機嫌だった。

 しまった車でくるべきだった、骨やら高価な宝石やらもって地下鉄乗りたくない。

 仕方ない、タクシーだな。

 手早くタクシーを捕まえ行き先を告げる。

 拳銃の件もあったし武器屋は丁度いい。なんだか今日は昼間からよく動く日だな。

 タクシーで20分程度走ったところで目的地に到着する。

 代金を払って素早く降りる。

 ビルに入ってエレベーターに乗り込み5階を押す。荷物が荷物なだけにさっさと終わらせたい。

 店の中に入るとやっぱり客はいなかった。

「お、蓮見さん例の入ったよ」

「そりゃ重畳。それとは別件でさ、剣のオーダーメイドってできる?」

 流石に設計図から剣を注文したことなどない。

「どんな剣か言ってくれればどんなものでも作るよ」

「あ、そりゃ助かる。これ設計図」

 2枚からなる設計図を手渡す。さてどんな反応が返ってくるか。

「蓮見さん、材料が無茶だ。金の問題じゃなくてこんなの揃えらんねぇよ」

「実はここにその材料が全部あるんだ。他に問題は?」

 目を丸くするおっちゃん。気持ちはわかる。

「いや、ない。この設計図通りに作ればいいんだろ?なら大丈夫だ」

「工期はどのくらいになる?」

 その日なにかあるかもしれないんだから知っておきたいのが人情だろう。

「とりあえず普通に剣作るのと変わらないから1ヶ月ってところかなぁ」

 ゴールデンウィーク明けぐらいか。スマホに予定を書き込んでおく。

「おっけ、んじゃそれで。銃のほうの話しようか」

「ベレッタと弾150発で15万てところかな」

 高いのか安いのかわからん。まぁいいか。

「おっけ。んじゃそれで。あ、ホルスターもいるわ」

「用意してあるよ、ホルスターはおまけでいいや」

 この店で買い物する前に値段下調べしたほうがいいんじゃないかとは常常おもっていたんだ。

 あの剣の制作費とかどうなるんかなー。工程的には普通の剣作るようなもんだしなんとかなるかなぁ。

 実際のところハンター儲かる。

 何といっても命を賭けてやっているのだから報酬がいい。俺のようにブラックハントもする人間なら尚更だ。

 出る分もでかいが入る分もでかい、というところか。

 ベレッタと弾を手渡される。かなり重い。 

 確かベレッタだけで1kgはあるはずだから当然といえば当然なのだが。

 刃物大好き娘こと真知はたいして喜ばないだろうが銃は必需品だ。俺のようにまったく当たらない人間でも急に備えて携帯しなければならない。

 おっちゃんにお礼を言って外に出る。今日は天気がいい、絶好の墓場日和だ。

 俺は再びタクシーを捕まえて自宅へと戻って行った。


「あ、師匠お帰り」

「ん、ただいま」

 すでに事務所に来ていた真知。

 勿論マチェットを振り回している。

「ほい、これサイドアーム」

 買ってきた銃を手渡す。

 袋の中身を見て微妙な顔をする真知。

「重そう」

「実際結構重い。でもあれば戦術に幅できるから」

 諭すように言う。

 グール退治のヒントになれば、と思ったのだが。

「今日も墓場でグールだからそれ使う算段立てておいた方がいいよ」

「うーん、いきなり使って当たるものなのかな」

 多分あたらない。

「できるだけ近くで3発ずつ大きな的を狙うのがコツかな」

「やってみる。師匠は銃あんまり使わないけどどうして?」

「斬ったほうが早いから」

 本音だ。

 大型の魔獣とか相手なら使うこともあるがグール程度に使うことはまずない。

「やっぱ斬るのが一番だよね」

 薄く笑って言う真知。怖いから。

「んじゃさっそく行ってみようか」


 結果として首にマチェットを刺して弾が切れるまで銃を連射したにも関わらずグールは倒せなかった。

 まだまだ工夫が必要なのだろう。

「明日もグールやる」

 ムキになってる感じもする。

「明日はコミュニティの会合あるから仕事はなしかな」

「コミュニティって?」

「駆除士同士で組んで仕事回しあったり情報交換しあったり一緒に仕事したりする感じ」

 それで大体あっているはずだ。

「会合には私もでるの?」

「出来ればでてほしいかな。体術や射撃の専門家がいるから話聞けるし」

 というか3人しかいないのだが。

「わかった。場所と時間教えて」

「帰ったらメール確認して教えるよ。

 なんだか今日は変な人(弟子含む)とばっかり会って疲れた。

 いい夢が見れそうだ。

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