EP 5
死蟲王の尖兵。魔人ギアンの恐怖と絶望
「ギハハハハハッ! 素晴らしい! 見渡す限りの恐怖、絶望! まさに最上のスパイスだぁ!!」
ポポロ村の西の空を真っ黒に染め上げたのは、無数の『死蜂型』の死蟲機だった。
空を覆うほどの羽音が、村の建物をビリビリと震わせる。
その群れの先頭。
巨大な死蟷螂型の蟲の背に立ち、禍々しい大鎌を弄んでいるのは、道化師の格好に仮面をつけた魔人――ギアンだ。
かつて神蟲魔大戦で世界を滅ぼしかけた『死蟲王サルバロス』の尖兵。
人間を絶望に突き落とし、その魂を喰らうことを至上の悦びとする最悪のサイコパスである。
「さぁて、哀れな子羊ども! 極上のショータイムの始まりだ! 逃げろ、泣き叫べ! お前たちの魂で、我が主サルバロス様を復活させるのだァ!」
ギアンが鎌を振り下ろすと、上空から無数の死蜂型が一斉に毒針を射出してきた。
「防衛フィールド、全開やぁっ!」
ポポロ村の防衛システムを操作するニャングルの怒声と共に、村の周囲に魔導障壁が展開される。
ガガガガガガッ!!
毒針が障壁に弾かれ、火花が散る。
「くっ……! 数が多すぎます! このままでは障壁が保ちません!」
リバロンがネクタイを緩め、闘気を流し込んで直刀を形成しながら舌打ちをした。
「だったら、私が直接叩き落とす!」
ポポロ亭を飛び出してきたキャルルが、ダブルトンファーを構え、脚に闘気を集中させる。
彼女の背後では、リーザが恐怖で震え、ルナが「私が世界樹の力で森ごと燃やそうか?」と物騒な提案をしていた。
「やめなさいルナ! 村が火の海になるわよ! ここは私が――」
キャルルが『流星脚』の構えに入ろうとした、まさにその時。
ガシッ。
「え?」
キャルルの首根っこ(襟首)が、ひょいっと後ろから持ち上げられた。
「ちょっとちょっと、うちの常連さんたちに無理はさせられないな。ランチの消化に悪いぞ」
「リ、リアンさん!?」
振り返ると、そこにはエプロンを外したリアンが立っていた。
死蟲機の大群を前にしても、彼の表情には焦り一つない。むしろ、少し面倒くさそうな、それでいて面白そうな笑みを浮かべている。
「あんなの、まともに相手するだけ馬鹿らしい。――それに、村を荒らされて仕入れルートに響いたら、俺の料理人としてのプライドが許さないからな」
「でも、リアンさん! 相手は死蟲王の軍勢よ! 三大国の正規軍でも手を焼く化け物なの!」
キャルルが必死に叫ぶが、リアンは余裕の態度を崩さない。
「化け物? ああ、ただの『害虫』だろ? ……害虫駆除なら、俺の得意分野だ」
リアンはポケットから『魔導通信石』を取り出し、どこかへと通信を繋いだ。
「あー、賢者君。聞こえるか?」
『――システム・オンライン。マスター、指示を』
「空を飛んでる鬱陶しい羽虫どもだ。ちょっと掃除してくれ」
『アイアイサー。対空兵装、及び航空戦力の展開準備を完了。マスターはご安全な場所へ』
通信を切ったリアンは、キャルル、リーザ、ルナ、そして警戒するニャングルとリバロンに向かって、ニヤリと笑った。
「せっかくだ。俺の店(城)のオープニングイベントだと思って、特等席で観戦させてやるよ」
「……え?」
「轟丸。転送」
リアンの言葉と共に、彼らの足元に魔法陣が展開された。
次の瞬間、キャルルたちの視界が真っ白に染まり――。
ポポロ村の広場から、リアンとヒロインたちの姿がフッと消え去った。
「……は? どこへ消えたァ!?」
上空で獲物を見失ったギアンが、仮面の奥で目をひん剥いた。
その直後、上空を覆う雲が、文字通り『割れた』。




