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『第二章 美食と硝煙のポポロ村。贅沢三昧のスローライフを邪魔する奴は、空母と“銀座の死神”が許さない』

ハンバーガーフェスと、嗅ぎつける鼠

「五円!五円!御縁!御縁!ハイ! 絶対無敵のスパチャアイドル! 五円が積もれば山となるぅーっ!」

ポポロ村の広場に設営された特設ステージ(木箱の寄せ集め)の上で、人魚姫リーザがステップを踏んでいた。

手にはマイク代わりの月見大根。

その頭上には、リアンが魔法で打ち上げた『キラキラ光る音符の幻影』が舞っている。

「おおおおっ! リーザちゃーん! 俺の銀貨を受け取ってくれぇ!」

「可愛いぞー! もっと歌ってくれー!」

広場に集まった村人や、噂を聞きつけて三大国からやってきた行商人たちが、熱狂的な歓声を上げながらおひねり(銅貨や銀貨)を投げ込んでいる。

ここは三大国の緩衝地帯。普段なら顔を合わせれば殺し合いになりかねない各国のならず者たちでさえ、今はリーザのド底辺アイドルソングに心を一つにしていた。

「あー、忙しい忙しい。キャルル、次のお客さんに『特製テリヤキバーガー』三つ!」

「はいはーい! お待たせしましたー!」

ステージの横で、リアンは屋台の鉄板と格闘していた。

今日のポポロ亭は、広場での野外フェス営業だ。

ジュワァァァァァァッ……!

鉄板の上で、分厚いロックバイソンの挽き肉パティが焼ける、暴力的な音が響く。

そこへ、リアンが特製のソースを回し掛けた。

『醤油草』のキレのある塩味と、『ハニーかぼちゃ』の濃厚な甘みを煮詰めた、特製テリヤキソース。

ソースが熱せられ、香ばしく焦げる匂いが広場全体を包み込む。

それだけで、屈強な傭兵たちの胃袋がキュルルと情けない音を立てた。

「はい、リーザちゃんもお疲れ様。まかないのテリヤキバーガーだ」

ステージを終えて汗だくのリーザに、リアンは紙に包んだ巨大なハンバーガーを手渡した。

「わぁぁっ……! リアンさん、ありがとうございますぅ!」

リーザは両手でハンバーガーを持つと、大きな口を開けてガブリと噛み付いた。

「んんんんっ!?」

サクッと焼かれたバンズ。

その奥から、ロックバイソンの野性味あふれる肉汁が、甘辛いテリヤキソースと絡み合ってナイアガラの滝のように溢れ出す。

さらに、シャキシャキの『レ足す』が、濃厚な肉の旨味をさっぱりと中和し、無限に食べられる錯覚を引き起こす。

「う、うまぁぁぁいっ! パンの耳と雑草のサラダしか食べてなかった私の胃袋が、びっくりして踊ってますぅぅ!」

リーザは感動の涙をボロボロとこぼしながら、あっという間にハンバーガーを平らげてしまった。

「ふふっ、良かったねリーザちゃん。リアン君のご飯は世界一だから!」

隣でキャルルも、口の周りにソースをつけながら幸せそうに笑っている。

平和だ。

誰もが笑顔で、美味しいものを食べ、音楽を楽しむ。

リアンが思い描いていた『最高のスローライフ』が、確かにここにあった。

――しかし。

その熱狂の輪から少し離れた広場の隅。

建物の影に身を潜め、冷たい目でこの光景を観察している男が一人いた。

(……呆れたものだ。緩衝地帯のド田舎と聞いていたが、なんだこの異常な活気と富は)

男は、ルナミス帝国の急進派である『とある悪徳貴族』から放たれた密偵だった。

彼は懐に隠した魔導通信石に、小声で報告を吹き込んでいく。

(報告します、閣下。ポポロ村の視察、完了しました。……ええ、噂以上です。見たこともない料理技術に、謎の建築物。そして何より――)

密偵の濁った瞳が、笑い合うキャルル、リーザ、そしてルナの三人へと向けられる。

(月兎族の極上株。美しい人魚姫。そして、純金を生み出すという天災エルフ。……あれだけの『極上の女』と『富』が、たかが料理人の男一人の下に無防備に置かれています)

男の口元が、ゲスな三日月型に歪んだ。

(軍など必要ありません。暗殺部隊を少数送り込み、あの料理人を始末すれば……この村の富も女も、全て閣下の思いのままです)

美味しい匂いと、明るい笑い声。

リアンが作り上げたその眩しすぎる『光』が、皮肉にも、帝都に巣食う醜い『影』を引き寄せようとしていた。

   * * *

「……ん?」

鉄板でパティを焼いていたリアンが、ふと手を止めた。

前世の『都市ゲリラ教本』で培われた、あるいはS級冒険者の両親から受け継いだ直感が、チリッと警鐘を鳴らしたのだ。

「どうかされましたか、リアン様」

いつの間にか背後に立っていた執事のリバロンが、眼鏡の奥の瞳を鋭く細めている。

彼もまた、人狼族の嗅覚で『異臭ネズミ』を嗅ぎ取ったらしい。

「いや……。少し、鉄板の温度を上げるか。……生焼けの『ゴミ』が混ざると、腹を壊すからな」

リアンは静かにそう呟くと、再びテリヤキバーガーのソースを焦がし始めた。

その瞳の奥には、料理人ではなく、冷徹な『死神センチネル』の光が宿っていた。

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